※12月29日修正
愉悦前夜
あれから五年が経ち、俺は十九歳となった。クラウディアは既に聖イグナチオ神学校を高校部を通して卒業し、今は短大へと通っている。対して俺はもう既に正式な代行者となり洗礼を受け、月に一回の確率で必ず呼び出される死徒狩りに参加したりし着々と超☆マジカル八極拳への道を歩んでいたりしていた。
最近では拳一発で死徒を爆散させる事が出来る。具体的には拳の当たった部分を中心に衝撃によって相手の身体に穴が空きその後の余波で爆散する。といった具合だ。まあ相手は不死の死徒なので爆散させるだけでは勿論死なない、だからその後肉片一つ一つを黒鍵で刺して後始末しなくてはならないのだが……まあそこが難点だな。
しかしこれもう八極拳じゃないよな、というよりもイメージである北斗神拳の名残りが爆散するって所しかない。何なんだろう……まあいいか。だけど小指一つで殺すって言うのはやっぱり出来ないんだよなぁ、あれは秘孔を見極められるようにならないと出来ないだろうしどうしようかな……まあ、追々か。
そうそうクラウディアとの付き合いは往々に順調だ。既に両親との顔合わせも済んでおりもう親共に認めるカップルである。嬉しい。
しかし結婚はまだしていない。というのも俺の完全なる私情なのだがクラウディアには短大に卒業してもらいたかったのだ。
流石に高卒はクラウディアにとっても示しがつかないだろうしな。親達は「別にそんな事いいのに……というよりも早く孫の顔が見たい」とか
こればっかりは日本人の性ですな。いや、日本人の性ってなんだよ?
そしてまあ話は変わるが今日は三月二十三日、クラウディアが短大を卒業する卒業式がある日だ。制服姿のクラウディアを拝めなくなるのは残念だが、これもクラウディアの晴れ舞台。是非とも見に行かなくては。
晴れ舞台って何が?だと?それはだな、クラウディアが首席を取って卒業生代表のスピーチをするからだ。というのもクラウディアは付き合い出してからというものの俺が勉強を教えていたことによりその学力は学年最高をキープし続け首席を取ったのだ。
俺は聖イグナチオ神学校を飛び級で卒業し、大学部までも半ば周りを置いてき気味に卒業した頭の良い部類に入る人間だ……多分。そんな人間が付きっ切りで元々の素養もあるクラウディアに勉強を教えたらこうなった。といった感じだった。
さあそんな事よりもだ。カメラの準備は完了、クラウディアよ。気張ってこい、君の勇姿は俺の心のアルバムとリアルのアルバムに加えられるからな。
え?短大に制服なんぞあるのかって?あるんだこの学校、結構珍しいから俺も驚いたがな。まぁお陰で可愛いクラウディアが拝めてますはい。
「…………」
俺がいるのは大きい会堂のステージの真正面にある壁際、この位置取りなら拡大レンズ付きのカメラなら十分撮れるし近くに行くよりも全然良いのが撮れるはずだ。
だって下から撮るよりも上から撮った方が良いだろ?しかもこっちあんまり人が居ないから場所移動も出来るし。
『それでは続きまして卒業生首席クラウディア・オルテンシアさんによるスピーチに移ります』
キターーーーーッ!!!さあ逝こう!果てまで!スピーチの終わらん限り!
……ってあれ?ちょっと待て!?三脚壊れた!?ヤバイヤバイ……っておいコラスピーチ開始すんじゃねェ!……ヤバイ待って!ホントに待ってマジで待って下さいってばァ!
内心大荒れ表は仏頂面。しかしまさかのアクシデント発生、カメラを支えていた三脚が壊れたのだ。エマージェンシーエマージェンシー、どうしようヤバイこの距離から三脚無しでブレ無く撮影出来るか?俺!?
「待て、待ってくれクラウディア。スピーチはまだ始めるな撮影の準備が……!ええい、もう構うものか。このまま行く」
俺は決断する。というかもうクラウディアのスピーチが始まっているのにグダグダと考えている暇なんて無いのだ。
「主よ、どうかブレ無く撮れることを願わん」
「いや……綺礼さん?あの、大丈夫ですか?」
「……問題無い」
「いや絶対にありますよね!?」
ブレてた。絶対にブレてた。まともに撮れてたの数枚しか無かった……と思う。いやだって一眼レフカメラがデジカメみたいにすぐさま撮った写真を確認なんて出来るはずないからだ。現像しなくては確認のしようもないのだが……うん。感覚で分かる。絶対ブレてた。もう死にたい、クラウディアの晴れ舞台を写真に収められなかったとか。
「済まない、クラウディア……。お前の勇姿を私は写真に収めることが出来なかった……」
「あの、私気にしてませんから。ほら、起きませんか?……その、目立ってますし」
え……?あ、本当だ。確かに周りに人だかりが出来ている。まあこんな場所に四つん這いで項垂れてちゃぁな。でもさ、是非もないだろう?だってせっかくのクラウディアの晴れ舞台を写真に収める事が出来なかったのだから。
後悔たらたらの心中だが、俺はいつも通りの仏頂面で膝を付いて起き上がる。うん、クラウディア褒めて。
「……済まなかった」
「いえ、大丈夫ですから」
はぁ……やはりクラウディアは可愛いなあ。こんな可愛い娘とお付き合いできる俺はリア充ですな。
しかし人だかり多くね?何でこんないんの……?ってなんだ?なんか知らねぇ女が出て来たけど。制服を着ていることとそのカラーリングからクラウディアと同学年の生徒だと分かるが……本当に誰だよ。
「あのー…?もしかしてクラウディアちゃんの彼氏さん?ですか?」
「そうだが?」
少し及び腰の好奇心旺盛そうなポニテの女子生徒に俺は首をかしげながら『なぜそんな当たり前のようなことを聞くのか?』といったような按配で言う。
そんな言葉がその人だかりに浸透するのにそこまでの時間は掛からなかった。数秒の内に瞬時にざわめきが人だかりに沸き起こる。
俺はその様子を見ながら内心嫌な予感に襲われていた。
お、おい…。いや、しかし…まさかな……、お前ら来るなよ?
「な!?オルテンシアさんの彼氏だと!?」
「我が校のアイドルにはやはり彼氏が!」
「ちくしょォォッ!!!」
「ねっ!ねっ!お付き合いは何年?何処までしました!?」
そして案の定というか俺とクラウディアの元に
おい、コラ。近づくんじゃねぇぞ俺のクラウディアだ。
「え!?み、皆!?」
クラウディアが声をひっくり返すように声を上げる。俺はそんなクラウディアを背後に反射的に隠していた。
おいおい本当に来るんじゃねえよクラウディアアルビノなんだぞ知ってるだろうが。もしお前らのせいで擦り傷でも負わせてみろ、即座に黒鍵で串刺しにしてやるからな。
そう内心叫ぶがもちろん相手には聞こえないだろうし、表情に出すことも無い俺はため息を吐くように言った。
「……仕方が無いか」
一種の興奮状態にあるこの人だかりを鎮めることは対話などでは決して出来る事はないだろう。つまり意思疎通は不可能。そして相手は一般人なので危害も加えてはいけない。となると俺の出来ることは一つ、現状からの離脱のみだ。
決断するのには数秒も掛からなかった。
「クラウディア、口を閉じていろ」
「きゃっ!?綺礼さん!?い、一体何を…!?」
いきなり引き寄せられお姫様抱っこをされて困惑の声を上げる可愛いクラウディアは済まないが、今回ばっかりは無視だ。そんな俺はクラウディアをお姫様抱っこした事によってさらに色めき立った人だかりに向かい大きく踏み込み―――跳躍した。
「!?」
「なっ!?」
「嘘でしょ!?」
下から上がる驚愕の声色に俺はニヤリと微笑を湛えながらドーナツ状の人だかりの七m程の後方に柔らかく着地する。そしてお姫様抱っこしていたクラウディアを石畳の地面の上に降ろし、先程飛び越えた人だかりを一瞥してから言った。
「さて、では行くか」
「び、びっくりしました……。次やるときはちゃんと言ってくださいよ!?本当にびっくりしたんですから!」
「ちゃんと『口を閉じていろ』と私は言ったのだがな……」
「それは言ったとは言いません」
ピシャリとクラウディアは俺の言葉を遮るように言う。なんか新妻感が出てきましたね。まあこんな掛け合いが出来るぐらいには俺とクラウディアの仲は順調ということか。
頭の端でそんな事を考えながらその人間離れした跳躍に目を見張って固まる人だかりが再起動しないうちにと、俺はクラウディアの手を取ってその場を後にした。
聖イグナチオ神学校の最寄りにあるとある喫茶店。そこは俺とクラウディアの行き着けの喫茶店であった。
お気付きかもしれないがこの喫茶店、俺がクラウディアが路地裏で襲われている時に助けた後入店した場所でありその後日集まったあの喫茶店である。
「注文はお決まりですかな?」
「いつもので頼む」
「私は今日はキッシュにしようと思います」
「コーヒーで?」
「あっ、ハーブティーでお願いします」
「かしこまりました」
そう言いカウンターの奥にある厨房に消えていくマスター。最近白髪が多くなってきたと思うのは気の所為かな?いや、多分気の所為じゃないだろう。
それにしてもやはり五年も通っていると年季がでてくるわな。愛着も出てきたし。
しかし……聖杯戦争って一体何時から始まるんだっけ?確か二十代ぐらいの時だったような気がするんだが……。そう考えて推理するならば今俺は十九歳だしあと五、六年ぐらいか……?
そんな事を考えている内に注文した品がマスターによって運ばれてくる。ちなみにだが俺の『いつもの』とはアップルパイのことだ。なんか最近アップルパイばっかり食べている気がする。なんか麻婆神父と似せて林檎神父とか言われたら嫌だしそろそろ自粛しようかな……。
そんな思考の元、軽く雑談しながら俺とクラウディアはそれらを口に入れていく。しかしやはりここのアップルパイは最高だな。
そんな感じで食べ終わりそうになったその時、俺は唐突にクラウディアに向かって言った。
「よし、クラウディア。短大も卒業したことだ。結婚式を挙げるぞ」
「前ぶりもなく言うんですね!?知ってましたけど!」
「会場は既に父上が準備している。待たせる訳にはいかないからな」
「うぅ……、嬉しいんだけど何か複雑です……」
「ふむ……?良くわからないが行くぞ。クラウディア」
俺はなんか何か形容し難いものを言葉にだそうとしては上手く形容できそうに無く結果唸り始めたクラウディアに首をかしげながら手を差し伸べて言う。
今の俺とってもカッコよかったと思う(小並感)。
その後喫茶店を後にし、まさかの件の挙式場が聖イグナチオ神学校とかいう事実にクラウディアが瞠目したり、俺とクラウディアの両親共々ガチ泣きしたりと場は混乱を極めた。が、しかし結構楽しい結婚式だったと思う。というよりも俺にはクラウディアの花嫁衣装の攻撃力がパナ過ぎて半ば夢見心地であんまり覚えていないのだが……まあいいか、こういうのも有りだ。……有りか?もういいや、後で頑張って思い出すことにしよう。
その挙式後生物的に結合……とか言う生々しいのは本文に入れたくなかったのでここに書いておく。つまり次話でカレン登場です。
……何か文が雑。