俺は愉悦   作:ガンタンク風丸

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モーさん来たけど正直モーさんってさ。火力の高いジークの女版じゃね?


愉悦…では無く舞喜【後編】

 

 

「……クラウディア、お前……ここは」

「だ、大丈夫ですからっ。別に不快とか、そんな事……」

「あ、ああ……分かっている。私も不快だという事は無い」

「ふゅぇ!?……よ、よかった…です……」

 

 そんな俺とクラウディアの会話が成るのもしょうがない事だろうと俺は思う。

 何故ならば今俺らのいる道に並ぶのは明らかすぎる(・・・・・・)ネオンの看板の並ぶホテル群だからだ。

 つまりラブホテル、通称ラブホと呼ばれるものだった。

 いや!?確かに相手も動揺するだろうけど!俺も人一倍動揺するからな!?クラウディアお前正気かよ!?いや、でもまた悪い気がしない俺がいるのも確かで……。

 ヤバい、頭がこんがらがってきた。まあ顔には出さないがな。

 クラウディアの前でかっこ悪いとこなんて見せられますか?答えは否、恰好いい綺礼さんでいようじゃないか。

 

「まだ出てこないな……」

 

 視線は相変わらず感じるが、しかしやはり相手も動揺しているのかかなり視線が露骨になってきている。これが死徒ならば普通に黒鍵投擲するだけで終わるのにな……面倒臭い。

 本当は代行者の得物を私欲に使うなど許されるはずは無いだろうがもしそうなったとしても璃正なら許してくれるはず。何せ俺の大切な人を守るために使ったんだもんな。

 クラウディアもこのホテル街に連れてきたのは勿論演技だろう。だがしかしそれでも加えて脈も感じるのでとても気分が高揚する。

 仕方ない、もっと動揺させるか。

 

「クラウディア、中に入るぞ」

「はい、分かりました…………ってええぇ!?」

「相手はもう十分動揺している。多分あともう一息だろう」

「そ、そうなんですか?で、ですが……」

 

 チラチラと下を向いたりこちらを上目遣いに見たりとを繰り返すクラウディア。お、おぉ…可愛ええなぁ。

 もう今日一体何回クラウディアの可愛いさで固まったか分からない。というか本当に可愛い過ぎる。その仕草一つ一つや言動に至るまでグッジョブです。

 そうしてふと目に付いたホテルに入ろうとした瞬間、そいつは現れた。

 

「おいまて貴様!その女性をどこへ連れていく気だ!?」

 

 叫んで現れたそれは聖イグナチオ神学校の制服を纏った長身の少年だった。ブロンド色の髪はワックスで塗り固められていてその顔は知的な眼鏡をかけたイケメン。いや、つーかそもそも誰だよテメェ。

 隣にいるクラウディアを見ればやはり知らない人なのか俺の背に隠れ気味だしお前本当に誰だよ。分かんの聖イグナチオ神学校の生徒だっつー事だけだぞ?

 

「ふむ、そういうお前こそ何者なのかな?」

「私の名はセサル・ネーミュストック。そういう貴様こそ何者だ我が校の生徒をこんな所に連れてきて!」

 

 ネーミュストック、か。はて、どこかで聞いたことがあるような……?

 

「……あれ?もしかして生徒会長、ですか?」

「知っているのか?クラウディア」

「ええ、学校長の息子さんで学校の中ではすごい発言力を持っています。そして確か私の二つ隣のクラスで生徒会長をやっていました……と思います」

 

 ほう、あの校長の息子か。というか今のクラウディアの口調から察するにセサル・ミューストック、お前クラウディアの頭の中に全然存在感無いようだぞ。ザマアァァァッ!!!

「そうだ私は聖イグナチオ神学校の生徒会長、そんな人間が何処ぞの馬の骨ともわからない奴と色街に行こうとする生徒を見れば普通追いかけるだろ?」

「ふむ、だがこれはお前の勘違いだ。クラウディアは私の()だ。それなのに連れてきては行けないのかね?」

「え!?」

「な!?」

 

 俺の言葉にクラウディアとセサル・ネーミュストックが声を上げる。

 今のは痛い言葉だったがどうせ俺そうするつもりだし別に問題ない。クラウディアだって脈アリみたいだし。

 

「なッ、なッ……!?」

「き、綺礼さん!?」

「何か問題あったか?クラウディア」

「い、いえ……無いですけど。ですけど……ですけれどぉ」

 

 うんうん赤くなって何か言おうとして言い淀むクラウディアも可愛いから大丈夫大丈夫。

 しかしどうだセサル・ネーミュストックよ。テメェは外様なんだよ精々俺のクラウディアへの好感度の肥やしとなりやがれ。

 

「そういう事だがどうする?セサル・ネーミュストック」

「オルテンシアさんは私のッ……!」

 

 あ、やっぱりお前もそういう口だったか。だがな、そんな顔したって無駄だぜ?俺の勝利は決まっている。

 

「ほう、見苦しいな。彼女が私の妻である以上お前にとやかく言われる謂れはないだろう。だがまあ……それも人という個人体が持つ個性だ。それで?そのように怨念篭った目を向けてどうする?負け犬」

「ッ!…………貴様……私を誰だと思っている!?この街にいる以上聖イグナチオ神学校の影響力は絶大だ!私はその校長の息子なんだぞ!」

 

 へぇ、今度は脅しに来たか。まあ確かにここまで論破されちゃあな。夫妻の関係でここ(ラブホ)に来てはいけないのか?と聞かれれば誰だって言い淀むか肯定するしかないだろう。

 隣で真っ赤に湯気を出しているクラウディアはこの際置いておくとしよう。ああ、カメラ欲しいな。

 しかしなあ……確かにこの街において聖イグナチオ神学校の影響力は絶大だけどお前それ意味を履き違えているぞ?聖イグナチオ神学校の影響力が強いのはただ単にあの学校が街の礼拝堂も兼ねていて信者が礼拝しに来るからでありそこの教会の神父も務める校長の発言力はあろうとも武力的な力は何一つ無い。というかそんな発言しようものならすぐさま聖堂教会からの代行者が『異端』として排除しに来るだろう。

 正直俺の目にはコイツが唯の馬鹿にしか映らないんだが。

 だがそんな正論ぶつけたって反発するだけだろう。人間自分の考えを真っ向から否定されたら誰だって大小あれど反発するものだ。そしてケースによるがこの場合力で完全に捩じ伏せなければならない。

 そうじゃないと学校でのクラウディアの生活が脅かされる(おびやかされる)だろうしな。

 

「そうか、ところでだがお前は聖堂教会というものを知っているか?」

「なっ!?せ、聖堂教会だと!?何故貴様如きがその名を……」

「どうやら知っているようだな。ならば理解出来ると思うがあの学校は聖堂教会の管轄下のもとにある。そして尚且私の父上はお前の父と懇意の仲であり私の父上が聖堂教会に所属する上お前の父の上司となるのだが…………さて?お前にはこの言葉の意味が分かるか?」

 

 つまり俺が言いたいのは『お前がどう足掻こうと外堀は完全に俺の味方だ』という事だった。だってそうだろう?聖イグナチオ神学校を管轄下に置く聖堂教会の職員、それもかなりの役職に着いている璃正が俺の父でありその璃正とセサル・ネーミュストックの父である校長は懇意の仲……つまり友達なのだ。クラウディアは俺の嫁という事で今話を通しているので正当性はこちらにあるし璃正は味方してくれる事だろう。それに反してあちらは唯単にイチャモンを付けてきただけなのだからな。

 というかこんな事柄あの仲の良いじいさん二人なら容易にもみ消せるだろうから起こしても問題は無い。

 そしてどうやらその当人(負け犬)もその事を悟ったのだろう。憤怒に表情を染めて顔が真っ赤である。ふむ、イケメンが歪面になるのを見るのはとても気持ちがいいな。これが愉悦か。

 

「ッ……ッ……!き、貴様ァ……!」

「全くもって見苦しいな、これがあの校長の息子か……恥知らずめ」

 

 そうやって俺はダメ押しと言わんばかりに挑発する。

 さあそしてその胸の内に隠している銃を抜けよ。そしたら正当防衛が成立するからテメェをクラウディアが安心して卒業できるように二年間程病院から出られない様な身体にしてやっからよォッ!

 

「ッゥゥ―――!きィッ様アアァァァッ!!!」

 

 そして、奴はその胸元から銃を引き抜いた。

 クラウディアが息を呑む音が聞こえる。そりゃまあ別段珍しくも無いけどいきなり銃向けられたんだもんな。そうなるわな。

 俺はそんな硬直してしまったクラウディアを背後に完全に隠し、セサル・ネーミュストックの手に持つ銃の銃口を見据えた。

 

「死ねェェッ!」

 

 ハンドガンの射程距離は二十mだという、しかし米軍の人間がハンドガンを撃つのは七mぐらいからの距離だそうだ。

 セサル・ネーミュストックの立つ場所は俺の前方八m程、バチコンとは言わないが十分殺傷距離圏内だ。

 ただまあそれは平常時(・・・)の場合の話。セサル・ネーミュストックは片手で銃を構えている。元々のあの華奢そうな身体つきだ。銃撃の威力をまともに食らって肩を壊し銃弾は意の向く方向とは違うところへ行くだろう。

 つまり、脅威度は極低。だがそれでもいい、こちらは唯相手に先に撃たせればいいだけなのだから。

 そんなことを考えている内にセサル・ネーミュストックの持つ銃から銃弾が大きい射撃音と共に発射された。その弾丸はやはり見当違いの場所へ飛んでいるようで俺の頭上の空を突っ切るコースを辿っていた。

 俺はその銃弾の軌跡が見えた時点で銃弾から意識をずらし今まさに銃撃の衝撃によって腕を後ろに持ってかれているセサル・ネーミュストックに向かい大きく踏み込み加速する。

 

「正当防衛成立だ」

 

 俺は懐に入った瞬間目を剥いてこちらを見るセサルに向かって呟くように言う。

 そしてまずそのがら空きの胸に掌底を打ち込み肺から空気を無くす。その際肋骨を数本折ってやるのは勿論忘れない。まあ肺に刺さらない程度にだが。

 そして俺の掌底の衝撃で宙に放り出されんとしているセサル・ネーミュストックの両肩を更に打撃を入れ無理やり脱臼させる。その流れに乗りそのままセサル・ネーミュストックの二の腕を掴むと俺は思いっきり力を入れて握りつぶした。

 しかしこれでは二年間も病院に入っていられないだろう。内臓も幾らか潰しとくか。

 俺はそうコンマ数秒の内に思考すると腰だめに拳を握ると瞬間その身体に拳を叩き込んだ。

 しかしマジカル八極拳を使えないのは痛いな。いやだってマジカル八極拳使ったらコイツ死んじゃいそうだし……。八極拳で我慢するしかないとかいう鬼畜。

 まあ是非もない……よネ?

 そんな感じに思考しているうちにセサル・ネーミュストックの既に意識の無い身体は無造作に石畳の地面に倒れ付した。うん、ザマァ。

 多分今のは早すぎて後ろにいたクラウディアには俺が掌底を打ち込んでさらに一歩踏み込み何かをしたというようにしか映らなかったことだろう。あの不死身の死徒と死線を繰り広げる俺は伊達じゃない。……あれ?俺人間だよな?

 

「お前はもう、死んでいる……まあ生きているだろうがな」

 

 ピクピクと痙攣して大の字に倒れている負け犬を俺は見下ろしながら言った。地味に言ってみたかったのだ。

 そんな俺にクラウディアは駆け寄ってきて言う。

 

「だ、大丈夫ですか!?銃に撃たれたりとか……!」

「ああ大丈夫だ。そもそも銃如きに撃たれた程度で死ぬようなやわな鍛え方はしていない」

 

 慌てるクラウディアには申し訳ないが本当に銃弾程度で俺が傷付く事などないのだ。かなり地味になって誰も気づかないし俺ですら時たま忘れているが転生の時に神様にしてもらった『強靭な身体と強力な治癒能力』という身体の特性によって俺の身体は銃弾程度では傷付かないのだった。まあもし傷付いてもすぐ治癒するのだが。

 

「それよりもお前こそ大丈夫なのか?根回しはしておくつもりだが今日の事で明日学校で何かあるとも限らん、何かあったら言え。私が持てる手を持って善処してやろう」

「えっと、多分大丈夫だと思いますよ?よく知りませんけどあの人は悪い噂も聞きましたし」

「そうなのか。ふむ、なら良い」

 

 じゃあこんなにまでボコボコにしなくても良かったかもな。後はその悪い噂に付き纏う日陰者達がやってくれただろうに。

 そうして話が一段落着くと、唐突にクラウディアがハッと何か思い出したかの様な仕草をして顔を火照らせた。そしてもじもじと身体を揺らして言う。

 

「あ、あの……綺礼さん。先程言っていた『嫁』って……」

「む、あれか?あれならば本気だ。私はお前の事が好きだ。俗に言う『一目惚れ』という奴だな」

「ひ、一目ぼ…ッ!?あ、あれ……?でももしかしてこれって……?」

「そうだな、プロポーズとも言うのか?私と結婚を前提に付き合ってくれ」

「プロポーズ……!け、結婚……!?」

 

 今度こそ目を回し始めてそう言うクラウディア、とても可愛いですはい。

 その後、クラウディアの口から出た「わ、分かりました」という返事に俺は内心ガッツポーズをしながら表では「そうか、ならば良かった」と呟いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな綺礼とクラウディアの初々しいシーンの凡そ四百メートル程の遠方の距離にあるとある建物の窓際にその人影はあった。

 手には古めかしい筒状の単眼鏡が握られておりその服装は神父服、髪はオールバックで初老の男、まあつまり言峰璃正その人であった。

 璃正は単眼鏡を目に当て、綺礼と白髪の少女を食い入るように見つめる。そしてその驚異的な直感にて呟くように言った。

 

「孫、孫が出来るぞ……。遂に私にも……」

 

 

 

 




ちなみにもうセサル・ネーミュストックの出番は無い。

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