12月27日加筆。
黒い上着の下に紺色のシャツ、そして黒いズボンといった出立ちで俺は街を歩いていた。これならばアイリス先生の助言の通りいつも着ている神父服っぽくそうではない私服と言った感じだろう。うん、ありがとうアイリス先生。
「確かここら辺だったか……」
あの後花などを持っていった方がいいかなどをアイリス先生に聞き、相手はそういう意識をまだ持っていないからという事で止めておいた方がという助言をもらった俺の手は何も持っていない。まあズボンのポケットに財布等の貴重品や護身用の黒鍵などを忍ばせているが。
会う時間は既に決めてあるので後はそこに行くだけだ。一応前世からの習慣で少なくとも五分前には到着できるように家を出たから遅れるということはないだろうがやはり少し不安になり先程からチラチラと自らの左腕に巻いてある腕時計を見てしまう。何とも落ち着きのない俺……まあ、是非もないよネ!
そんな感じで歩いているうちに件の喫茶店へと着いた。カランカランと音を立てて入ったその喫茶店は落ち着いた雰囲気で人気は余りなく、テーブル席とカウンター席があり所々に観葉植物が飾られていた。
俺はそんな店内の窓際にある前回に来た時と同じ席に座る。
二人席のそこは窓際な為外の景色が良く見え
暫くしてカランカランと喫茶店の扉が開く音がした。クラウディアか、と窓の景色から目線を俺は扉へと移した。
そこには予想通りクラウディアがいた。
身体のラインのでる首周りの広い白の長袖、そしてそれの身体周りにある黒い線の柄模様に合わせた前を開けたカーディガンを羽織っていて黒いミニスカートからでる太ももとその途中からあるニーソがとても艶かしい。つまり可愛い。
俺はまたまた不覚にもそんなクラウディアの姿に見蕩れて固まってしまっていた。
「綺礼さんこんにちわ。先に来ていたのですね、もしかして待ちましたか?」
クラウディアが小首をかしげながら俺に問いかける。そんなまた可愛い仕草に再度固まりそうになるが俺はなんとか再起動し、言葉を絞り出すようにして言った。
「……、いや待ってなどいない。つい先程来たばかりだ」
「そうなんですか、よかったです」
「ああ」
何だろう、可愛い。俺は今十四歳だがクラウディアは外見から見ても年下……だよな?いやだって俺よりも背小さいし胸だって……ねぇ?身体にぴっちりとラインを浮き出させる長袖から見る身体の発育具合からそう見る他無いのだが。
「えっと……前は助けていただいてありがとうございました。改めて名乗らせて貰います。私の名前はクラウディア・オルテンシア、十四歳です」
ほう、クラウディア十四歳なんだ。やっぱり年下……ではなく同い年ですかい。しかし歳からすると中学三年生という感じか、うん。完全にロリコン判定だな。
「そうか、では私も改めて名乗らせて貰うとしよう。言峰綺礼、十四歳だ。今は聖イグナチオ神学校の付属大学に通っている」
そしてそこで日々代行者になるため勉学に励んでいます。なんて言えるわけないか。
「えっ、そうなんですか?もしかして綺礼さん聖イグナチオ神学校に通っていたのですか?」
「ん……?ああそうだが。何故分かった?」
「付属校の大学部に行くには聖イグナチオ神学校を卒業しておいた方が行きやすいって友達が言っていたのを聞いたことがあったんです。私は今聖イグナチオ神学校に通っているので」
「そうだったか。……そう言えばジェイソン講師は元気だったか?私はよく世話になってな」
「ジェイソン先生ですか?ええ元気でしたよ、前も生徒が呼び出されてましたけど」
「そうか……壮健そうでなによりだ」
ジェイソンなんてどうでもいいがそれにしてもクラウディア可愛ええなぁ。写真に撮って額縁に飾って家に設置したい。それも全部屋に。
そんな時話の話題が一度終わったのを見計らってか店員……と言っても一人しかいないのだからマスターか、がコーヒーを銀のトレイに乗せてやって来た。
「注文はお決まりですか?彼氏彼女さん」
「えっ、か、かのじょっ!?」
ダンディなマスターナイスだ。恥ずかしそうにするクラウディア可愛い、眼福眼福。
まあ俺は相変わらずな綺礼様様のポーカーフェイスでそんな事思ってもないように振る舞うのだが。
「私はこのアップルパイを頼もう。クラウディア、お前は何にする?」
「ふゅっ、へ、あ……は、はい。じゃあこのチーズタルトを」
「かしこまりました。どうぞごゆっくり」
ダンディなマスターはそう言ってからコーヒーを配って空となったトレイを片手に振り返り際、もう片手をクラウディアには見えないように隠しながら俺に向かってサムズアップした。
俺は少し目を見張りながらその顔を見上げる、そこにはまるで『頑張れ』とでも言わんばかりのダンディな微笑があった。
ま、マスター……!あんたって人は!
俺はそう内心涙ぐみながら叫ぶ。そしてこういうのが良い大人なのだなと思った。
だけどなんかコレを目標にするとトッキーみたいになりそうだから止めておこう。俺はキレイキレイで頑張るんだ。
それにしてもコーヒーカップを両手で持ってフーフーしながら飲む姿も可愛いなあ。俺多分クラウディア見ているだけで一日過ごせそう。
「どうしたんですか?」
「いや、何でもない…………む?」
そんな折、何かの視線を感じた。多分窓の外からだ。一体どいつだ?と俺は視線を窓の外に向ける、がしかしそこには人の行き交う大通りがあるだけ、そんな人影は確認出来ない、ということは既に隠れたか。となると相手はかなりの手練のようだ……いや、ただ単に勘っぽそうだな。もう視線が微弱だけど感じられる。警戒はしているという事か。
……別に見られても良いがやはり不快なものは不快だ。それに前にクラウディアが襲われていた件もある。もしも前と同じ奴らだとしたらこのままここにいるのは好ましくないだろう。とするとどうするか……。
「……クラウディア、場所を移動するぞ」
「え?どうしてですか?」
「視線を感じた。もしかしたらお前を狙っているのかもしれん、撒くぞ」
「えっ、わ、分かりました。……あ、でも綺礼さん。このチーズタルト食べ終わってからでもいいですか?結構美味しいので」
「ああ構わん」
こちとら眼福ですし。
「ありがとうございます」
そう言い少し急ぎ目にタルトを食べ出すクラウディア。うん、可愛い。
それにしても同い年か、日本だったら俺は十八歳、クラウディアは十六歳から結婚できる話となるが……スペインはどうだったか、な……―――ぁ。
この時、俺は気付いてしまった。
今俺達がいる国はスペインだ。そして日本での結婚可能年齢は男性は十八歳、女性は十六歳なのだが実はスペイン、十四歳で結婚出来たりする。
実際聖イグナチオ神学校に通っていた時もそんなのを見たことがあったし珍しい事ではあるが別に無いことでもない。
つまり今でも結婚出来るとかいうアレ。
「綺礼さん?」
クラウディアが言った。俺はその言葉に我に返る。ヤバい、トリップしとった。
「な、なんだ?」
「いえ、食べ終わりましたよ?撒くんですよね?行かないんですか?」
「ああ……そう、だったな」
「……?」
結婚、結婚かぁ……。別に今すぐに見習いを卒業させてもらって代行者として活動し始めれば十分養って行けるけどなあ、まあそれはクラウディア次第、か。
「それでは行くか。お前をつけ回る不届き者を撒くとしよう。出来るならば話せたら一番いいのだがな」
物理的にな。その方が手っ取り早いし。
俺はそう心の中で呟きながらクラウディアの手を取り喫茶店の扉を開いた。
ちなみにだが手を取った際にクラウディアが真っ赤ならぬピンクに顔を染めてアワアワとしたのを俺は不覚にも見逃してしまっていた。
あの後、移動しだすと再び視線を感じるようになった俺はどうやって燻りだそうかと思考していた。ちなみにだが今俺はクラウディアの手を握ってスペインの表通りを歩いてます。天国ですな。
だがまあそれでもあの視線は消えない。もちろん今すぐにその視線の元へと行ってぶちのめす事も出来るだろう、がしかしそれではダメだ。相手にはクラウディアを諦めさせ無くてはならない。だって俺好きですしクラウディア。
しかしどうするかな、手っ取り早く燻り出すには動揺させるのが一番だが……。
もし俺が逆の立場だったならばどうやったら動揺するか……か。
……うん、手を繋がれただけで動揺するな。
「あ、あのっ、き、綺礼さん!手!手!」
「む、なんだね?」
「いえですから手ですってば!」
「ふむ、繋いでいることか?済まないが我慢してくれ、これも相手を動揺させるためだ。それとも不快だったかね?」
「そんなこと……ない、です」
赤くなりながら尻すぼみに言葉を話すクラウディア可愛い。ナニコノイキモノ。
しかも俺はこれを脈アリと見た。フッ、名も知らぬストーカー野郎残念だったな。クラウディアは俺の嫁だァ!
「クラウディア、少し聞きたい事があるのだがいいかね?」
「なんですか?」
「相手を手っ取り早く動揺させたい。だが私にはどうしたらいいかわからんのだ」
「動揺、動揺ですか……」
クラウディアはそう言って顎に手を当てて黙り込む、そんな仕草一つも可愛いです。
数秒後クラウディアは一度短く息を吐き「よしっ」とつぶやいた後、俺に向き直ると上目遣いに言った。
「それじゃあ私に付いてきてください。多分、上手くいくと思うので」
返事したいのは山々だったが俺にはその上目遣いの威力が半端なさ過ぎて固まってしまっていた。
サンタオルタ強いね。肉壁のマリーと砲撃のサンオルだよ。