聖イグナチオ神学校は小中高一貫制の合併校だ。その歴史は古く、聖堂教会が立ち上げられるのと列を並べる程。
そしてまさかの璃正がこの学校の卒業生であり聖堂教会との繋がりもあるこの学校の校長とハグした姿は衝撃だった。だってオッサンとオッサンが抱き合ってるんだぞ?そんなもの衝撃以外何でもないだろ。思わず目を逸らしそうになったがそんな気持ちを押し殺して逸らさなかった俺は凄いと思う。誰か褒めて。
璃正は学校から徒歩数分で着く賃貸の一つを通学の拠点として設けてくれたようで、一人暮らしには広すぎるその3LDKは正直俺には勿体ないものだった。がしかしこれも璃正の折角の好意だし文句は言わない方が良いだろうと思い「こんなにも立派な物を……感謝します父上」と言っておいた。その後璃正がスゲぇ嬉しそうな笑顔を見せたのを俺は忘れない。
さて、流石に俺ももう学生―――と言っても七歳なのだが―――な俺はかなり久しぶりに感じる開放感を部屋の元々あった家具の一つであるソファに座り味わっていた。七歳の仏頂面の男児がコーヒーカップをもってソファに一人座る姿はとてもシュールだったと思う。
日々麻婆神父らしく振舞っているためどうも硬さが抜けないがまあ良い、それも許容範囲だ。
というか俺ちゃんとキレイキレイみたいに振る舞えているよな?どうも自分をよく客観的に見れないせいで分からない。璃正に聞くなんて論外だし……はぁ、まあいいか。
とりあえず鍛錬しよ鍛錬。目指せ超☆マジカル八極拳。
いざ通ってみたのだが……とても困った事が起きた。というのも肝心の授業が簡単すぎるのだ。
日本換算しておよそ小学生の授業と同等のそれは俺にはハードルが些か低過ぎた。テストなどあろうものなら100点をひたすら量産する俺、そして七歳とは思えない落ち着き様。気づいた時には俺はよくわからないカリスマで教室を支配していた。
いやだって?中身は高校生ですし?テストなんてスペイン語版にしただけですし?簡単過ぎるし。そもそも歳上の風格というものがあってだな?
そう思い至った俺はやはり予定通りというかその……うん。飛び級する事にした。
入学数ヶ月で飛び級進学。うむ、これならばもしモノホンの言峰綺礼が見ていたとしても合格点な筈だ。
そんな俺は二学年へ上がる。その後も紆余曲折あったが結局は『飛び級の首席合格』という結果に落ち着いた。途中絡んでくるチンピラの生徒とかを「神に代わってお仕置きだ☆」とか言いながらぶちのめして代行者ごっこをやったりとか、告白してきた女の子に「私にはもう決めた者がいるので済まないが断らせてもらおう」と言って断ったり。……もちろん決めた者とはクラウディアのことだ。まだ会ってないけど一応綺礼の奥さんだし。原作では二年で死んじまったがな。
そんな感じで俺はあっという間に十四歳となった。本当にあっという間だ。今は代行者見習いとして活動し、付属校の神学校に通っている。それにしても何だろうか、転生者クオリティというものなのかとても上達が早い。この前も璃正に「もう見習いも卒業してもいいかもしれないな」とか言われたからな。凄いな俺。ホント誰か褒めて。
というか璃正もそう言ってることだしそろそろ見習いではない一人の代行者になりたいというのを璃正に改めて進言してみようかなと思っているのだが……まあ、それは目下検討中だ。
取り敢えずクラウディアに会わなければな……クラウディアクラウディアクラウディアクラウディアクラウディアクラウディアクラウディアクラウディアクラウディアクラウディアクラウディアクラウディアクラウディアクラウディアクラウディアクラウディアクラウディア――――
自宅の最寄りの街で俺は食材の調達をしていた。現在はよくある紙袋を片手に二つ抱えている。リンゴとかビーンズとかバケットを突っ込んだそれはとても町の雰囲気と合っていて、なんというか良い、なんか良い。
「ふむ……この街には慣れたつもりだったが、やはりまだ慣れないところもあるものだな」
そう適当に言ってみる。というのも見慣れない路地裏を見つけたからだ。
だがその奥、何か争うような声が聞こえる。路地裏での喧嘩など日常茶飯事だがその声は男と女が争うものだった。それも女が襲われる形で。
「……ふむ」
これも何かの縁、行ってみるとするか。もしレイプシーンなんぞにぶち当たったら俺周りをマジカル八極拳で破壊しかねないけどいいよね?
はてさて、まあベタな展開だがこの襲われているのがクラウディアとか無いよな………………無いよね?
薄暗い路地裏を進むのと比例してその争う声は大きくなっていった。そしてその角を曲がったところに現場はあった。
アルビノ独特の色素が抜けたことによる白髪と薄暗い中でも目立つ不自然なまで白い所々包帯の巻かれた肌、そして右目を覆う医療用の眼帯。
決して見間違え様のないそれは既に分かりきったこと。
そう、よく分からんハゲのチンピラに襲われていたのはクラウディアだったのだ。
両手首を握られ壁に押し付けられながらも身をよじって抵抗しているが如何せんアルビノにより免疫力の欠如で身体がボロボロ、到底逃げるなど無理だろう。
それに壁にクラウディアを押し付けているハゲ以外にも取り巻きはいる。絶体絶命というやつですね。
「や…っ、止めてください……!」
「クッ、ほれほれそう睨むと可愛い顔が台無しだぜぇ~?」
ゲス顔でハゲは嫌がるクラウディアの顔を覗き込み言う。お前ら何時の世紀末だゴラ?
……うん、助けるか。
こう、綺礼みたいに。
「――――全くもってその通りだな。迷える仔羊達よ。ところでだが我らが主の言葉にはこういうものが存在してな『もし汝の兄弟、罪を犯さば、これを戒めよ。もし悔い改めなば
結構綺礼っぽくいけてね?やはり聖書の一句を混ぜたのは良かったな。キレイキレイっぽい、多分だが。
だがまあ璃正がこのセリフを聞けば物凄い矛盾に気付くだろう。俺の言葉は正式な代行者でもないのに『神に代わってお仕置きよ』と不届きにも自分が神のように言っているのだから。
「ああ!?誰だテメェいきなり出てきてなに訳の分からねぇこと言っていやがる!」
「分からないか兄弟。つまりだ、お前達の邪魔をするという事だ」
俺はそう言って綺礼の如く薄く笑ってみせる。そんでもってなんの言葉も取っ掛りもないまま―――ハゲの懐に拳を撃ち込んだ。
「フ――――」
「ガッ!?」
見事な『く』の字に折れ曲がるチンピラの身体。その身体は俺のマジカル八極拳をまともにくらい最後の決戦の切嗣よろしく反対側の路地裏の壁まで吹っ飛んだ。
「なッ!?」
「終わったかと思ったか?」
余りの非現実的なその光景に思わず固まった取り巻きの一人の顎を俺は容赦無く蹴り上げる。
失神し背中から石畳に倒れるチンピラB、とても痛そうです。
というか今の完璧に顎逝ったな。砕けて粉砕骨折していると思う。それに後頭部強打で脳震盪も起こしているのではないだろうか?まあ聖書も『
「行くぞ」
「えっ、ええ……ありが、とう?」
「感謝などされる謂れは無いな。私はただ主の御言葉のままに行動したまでだ」
「はぁ……?だけど助けてくれた事には変わりないでしょう?感謝するのは当然です」
「……そうか、では有り難く受け取っておくとしよう」
そんな会話をしながら俺は怯んだチンピラ共の隙を突いてクラウディアの手を取り大通りへと繋がる方角に走った。
そして……まあ、大通りに出てきたのだが……。
―――えっと、なにこれ?可愛い過ぎるんだが?
クラウディアの手を取り路地裏を抜けて明るい陽のもとに出た瞬間俺はそう思った。
自分の肩ほどの身長に女性らしい華奢な体躯、そして袖の無い白いワンピースの見せる身体のラインがまた自分の感性を刺激する。
アルビノによる病的な感じと元来の性格であろう明るい雰囲気がまた言い難い個性を引き出していてとても可愛い。というかその眼帯反則、どっかのホムンクルスとは違う白ずくしの彼女はなんというか、そう……俺の好みにドストライクしていた。
そんな俺は不覚にもその姿を認めた瞬間言葉を失い固まってしまう。でもしょうがないよね!可愛いもん!でも年齢的に十四歳とか何だろうな……まあそんな幼さも相まってグッと来るんだが。
「……あの?どうしたんですか?」
「いや、何でもない」
なにこれ?言峰綺礼こんな可愛い娘嫁にしたの?人生勝ち組じゃん、なんで自分の性質なんかに苦悩したんだし。リア充見せつけてやれば普通に愉悦出来てたろ。
今ほど言峰綺礼を破綻者だなと思ったことはないぞ。
「そういえばまだ自己紹介をしていませんでしたね。私の名前はクラウディア・オルテンシアと言います。貴方のお名前を聞いてもいいですか?」
「言峰綺礼だ。好きな食べ物はアップルパイ」
「そうなんですか?まあ、分かりました……それより今度改めてお礼をしたいのですが……いいですか?」
「ああ構わん。これでも学生であるから必ずとは言えんが」
「いえそれでも構いません。これ、電話番号です。綺礼さんの電話番号も教えてくれませんか?」
「む、そうだな」
何だろう、とてもいい娘や。恩義を返すために後日礼を言わせてくださいとか……まあ、クラウディアだし当然か。……にしても確か俺のあの家の電話番号ってこれで合ってたよな。
「出来たぞ」
「ありがとうございます。また連絡するのでまた今度ですね」
「ああ……だが帰りは大丈夫なのか?現在は暇だし送っても構わんぞ?」
「えっ、じゃ、じゃあお言葉に甘えて……」
うん。フラグを作っていこう。というかそもそも俺が惚れ気味なのだが。
「あっ、そうですただ送ってもらうのにも偲びありませんしどこか寄りましょう、奢りますから!」
正直俺が彼女にゾッコンする日は遠くないと思う。法律上まだ結婚出来ないし無理なのだが。
星5をバンバン出す友人を呪詛で呪い殺したいなぁと思う今日この頃。