「―――おや」
「あら、どうしたの?」
「バートリー嬢。どうやらお客人がいらしたようですぞ」
「へぇー、もしかしてバレたちゃった?案外早く見つかったわね」
「そうですなぁ……。だがしかし!此処で始末してしまえば問題無いでしょう?」
「そうね。私もこんな楽しい所無くしちゃ嫌だし?豚マスターにバレないくらいの出力になるけどいいかしら?」
吸血してるから大丈夫でしょーに。
「ええ構いませんともバートリー嬢よ。ではリュウノスケ、貴方の言葉を借りて行きましょうか……さぁ、COOLに行きますよお!」
「そうね!ショータイム……とまでは行かないけど。リハーサルという感じで!」
……うん、意気込(いきご)んでるところ悪い。俺もう隣にいるからねエリザさん。
だがエリザベートは感知出来ない。俺の圏境は李書文程までのクオリティを誇ってはいないが、圏境は圏境であるからだ。まぁ、喋ったらアウトだし攻撃のような激しい運動をしてもアウトなのだがな。
しかしそれさえしなければ完璧な圏境なので別に苦労など……しない。便利だし、一発マジカル八極拳撃ち込めばノックアウトできるし。ホントだし、英霊に撃ち込んだ事無いからわからないけどな。
少なくとも並の死徒なら確定で行けた。
拳を構える。狙うはエリザベートだ。確かにこの状態でならキャスターのマスターである雨生龍之介を殺すことは十分に可能だろう。しかしその側にエリザベートがいるのが問題だ。
エリザベート・バートリー。戦闘系の逸話や史実などは欠片も無いと言っても過言ではないが、彼女は竜の混血として魔人化しておりなんとその対魔力は驚異のAランクもある。しかも竜に魔人化しているため竜の因子をもつ青セイバーの天敵ともなり所持スキルは全サーヴァント最多の十種類。かのガヴェインだってエリザベートの事をA級サーヴァントだと評価を下していたのだ。正直ランサーの中でもかなり強い部類に入ると思う。李書文が槍担いだら絶対勝てないだろうけど。
まあつまり俺が言いたいのはだ。彼女の傍にいる龍之介を攻撃した瞬間圏境が剥がれるのでジル・ド・レェならまだしも最速のクラスであるランサーのエリザベートに一瞬で切り伏せられだろう。ということだ。
いや別に再生するし大丈夫だけどさ。エリザベートは何か不安なんだよな……。
ジル・ド・レェはキャスターなのでこの距離でそこまでの危険性は無い。というかコイツならぶち殺せる。確実に。
だがやはりその前にエリザベートだ。だけどコイツは絶対に強いから……あー、でもなぁ、コイツいるってことはディルムッドが居ないわけであり青セイバーの左手が使えなくなることは無いという事になるわけであって………………。
まあいっか、とりあえずエリザベート吹っ飛ばして龍之介ピンポンだ。
「――――」
「にゃッ!?」
マジカル八極拳ぶち込んで霊核に直ダメ与えてスタン的なのとってエリザベートを吹っ飛ばす。
圈境は既に解けている。そして横には目を見開く青髭さんとぽかんとした顔でまだ何も状況を把握出来てない快楽殺人者の姿が。
「大人しく召されたまえ」
「 」
ヘーイ。肉塊一個完成、肉片と血は吹き飛びましたよっ、と。
まあ実際はもっとグロイ。まず上半身がマジカル八極拳をモロに受けて肉片となって爆散した。返り血浴びるし肉片降ってくるしで最悪だがな。
よし、後はジル・ド・レェ。テメーだけだよ。
『マスター!』
アサシンからの突然の念話、だが俺はその声質から警告のものだと瞬時に理解した。
反射的にその場に沈む。拳を構えてな。
そして俺がしゃがんだ瞬間、真上を黒い凶器が音速で通り抜ける。思わず冷や汗が出た。別に死なないだろうけど無理にあのゲテモノ再生力を晒すのも気が引けるしそもそも前提として痛いことには変わりないのだ。まあ痛みとか慣れてるんですがね。
「チッ、当たりなさいよ。普通当たる所でしょう!?ココ!?」
「…………」
分かってた。そうやって癇癪起こすんでしょうもう面倒臭いなぁ。
アサシン達はまだ海魔にかかりきりだし俺一人でどうにかするしかないとか鬼畜ぅ。
「ダンマリ!してないで!なんか言いなさいよ!この!サーヴァント界!のッ!ヒットナンバーが話しかけてあげてるんだから―――ねッ!!」
「…………」
おお、やっぱつおい。地味につおいお。エリザベートさん。なにがチョロインだ、普通に強いわボケ!流石ヴラドのお隣さんですねぇ!
「リュウノスケェエエエェェェーーーッ!!??」
ふと見ればジル・ド・レェは龍之介の下半身を抱いてそう叫んでいた。
うっさい。黙っとれ、殺人鬼。龍之介は死んだんだよ。召されました。綺麗に召されました行き先は地獄逝きだろうがな。
「シッ―――」
「っ!?」
エリザベートもジル・ド・レェの叫びに気を取られたのだろう。一瞬の隙がうまれる。
もちろんそんな好機を逃がす俺ではない。遠慮なく横っ腹にブチ込まさせて頂きました。ご馳走様です。
俺はそう内心思いながらも戦闘続行持ちであるエリザベートから迷わず後退する。それは当たりだったようでガムシャラな黒槍の刺突が後退する俺の眼前にまで迫った。危ない。
「バートリー嬢おぉ!?」
脇腹を抑えるエリザベートにジル・ド・レェがそう言葉を投げる。しかしその当人はというと。
「イッタアアァィい……!?ああもう小賢しい!」
「ボッ!?」
そう叫びながらエリザベートはなんと身勝手な癇癪で額に青筋立てながらジル・ド・レェを切り伏せてしまった。
エーテル体となって散るジル・ド・レェに続き、黒い霧状の魔力となって次々と霧散していく海魔たち。俺はそれらを横目で眺めながらエリザベートに呟くように言う。
「………ランサー、おまえ……」
「……」
流石のエリザベートもやっちゃった感があったのだろう。しばらくジル・ド・レェを切り伏せた自らの槍をタラァーと汗を一筋垂らして見つめていた。そしてぎこちない動作でこちらを見る。
「……」
「……」
交錯する俺とエリザベートの視線。相変わらずな仏頂面だがエリザベートはそれと対を成してぎこちなく笑いながら冷や汗を垂らしている。
「……コホン」
「……」
「えーっとね、今のはそう。アレよ、アレ、リハ的な?」
「……」
「べ、別にわざとじゃないのよ?ちょっとした出来心だったのよ。うん、そう。だから私は別に悪くない、そう、そうよ!そうに決まってるわ!避けないアイツが悪いのよ!!」
「…………」
「だ、だから何なのよさっきからその無言は……!?なんか言いなさいよ、子豚。ほら、私が特別に耳をかしてあげてるのよ?」
「…………」
「ぅ、うぅ……」
なんというか、面倒臭いな。でもまあキャスター討伐は成せたからいいか。さっさと離脱しちまおう。
『アサシン、撤退だ』
『アレを放っておくんですか……?マスター』
『ああ、アレはセイバーに対してジョーカーとも成りうるからな』
竜の因子乙。
『そ、そうなんですか?しかしこんな所業を仕出かした奴らの仲間ですよ?本当に放っておくんですか? 』
おいおいアサシン、そこまで言われると気の迷いが出てくるでしょうが止めんしゃい。
「ランサー」
「から私は無実な訳で……って何よ?やっぱり貴方も私は悪くないって思うのよね?そうなのよね?」
ランサーが問いかけてくるが何分聞いてなかったから分かるはずもない。俺は適当に否定して言う。
……これが墓穴を掘ることになるとも知らずに。
「知らんな。だが今日は一先ず失礼さしてもらうとしよう」
「あっそう。わかったわ……ってハァ?何言ってるのよ、逃がすわけないじゃない。アナタ今私を否定したわよねェ、私を否定する奴は皆死ぬのよ、もちろん。ア・ナ・タ、達もね」
そう言ってエリザベートは周りにいる新撰組の隊士一人一人を指さして言い放った。その声に先程までのおちちゃらけた雰囲気は無く、どこまでも純粋かつ残虐で無慈悲な好奇心の塊となり目の前に立っている。
……あり?虎の尾を踏んだっぽい?いや、この場合竜の尾か。
「むっ」
なんかアサシンさんが斬れることに喜んでいいのか撤退出来なさそうな雰囲気にどう反応していいのかという感じでとても微妙な表情をしていらっしゃった。うん、もう斬っていいよ……面倒いし。
「……マスター」
「仕方がない。やれ、アサシン」
アサシンが無言のまま頷き、片手に旗を持ちながらもう片手で抜刀する。
「皆さん!いきますよ!」
うぇーい。物量戦じゃーい。新撰組っぽいー。
隊士達がエリザベート目掛けて刀構えて迫ってくぅ。
あれ一体一体が英霊だもんな。パないわ。
しかし、そんな大群にリンチにされそうになっているエリザベートはというと。
「アハハァ、いいわね、こうでなくっちゃ。ゾクゾクするわ。やっぱりリハとはいえフィナーレはこうでなくっちゃ―――来なさい、
えっ。
「「「「「「うおおぉぉぉぉぉ―――ッ!!!」」」」」」
そんな叫び声の眼前ではエリザベートの背からドラゴンの翼が生え浮遊。さらに黒槍から螺旋状に伸びる黒い糸のようなものを出しながらそれをマイクスタンドさながらにエリザベートの目の前に浮かんだ。
アンプ付きの巨大な魔城を背後にエリザベートが息を吸い込む。
……あ、これヤバイやつだ。
「「「「「「「悪即斬んんんんーーッ!!」」」」」」」
「Aaaaaaaaaa―――――――……!!!
この桜セイバーには善属性がちょびっとまざっとる。
実は宿題しながらハリポタのSSよんでました。