出陣
俺はとある実験をしたことがある。
この身体は人間とは思えない程に頑丈で、驚異的な治癒力を持っている。
俺はこの世界に来てからずっとこの身体を不思議に思っていた。だから、実験してみることにした。
最初は自分の首元の頚動脈を掻っ切ることから始めた。既に死徒と戦い自分の身体が死徒の攻撃では殆ど傷つかないことを知っているのでそれなりの礼装を準備し決行した。
結果、思いっきり血が噴き出た。不思議と怖くはなかったが、きっとそれはとても異常な事だったはず……と言うかそうだ。
十代半ばの少年が顔色一つ変えることなく自分の首を自らナイフで掻っ切っていたのだからな。異常と言わない方がおかしい。
まあそんな事はさておきだ。俺はその後、やはりあっという間に治ってしまった傷口さえあったのか分からない首元を撫でながら前世で経験した時の血液の減った時にある特有の脱力感が無いのに気付いた。
おかしい、治癒ならば傷口だけなはずだ。というかそうじゃないの?
その時は首を傾げるばかりだった。
次に俺は腕に硫酸をブッかける事にした。
頭からかぶるという案もあったが流石にそれは怖かったからだ。チキンとか言うでない。
グジュグジュと煙とタンパク質の焼ける嫌な臭いが鼻をつく。同時に腕を駆け上がる激痛、腕は再生と溶解を繰り返しており。その結果、硫酸の効果が無くなるまで俺は床にもんどり打つことになった。
しかし、その後硫酸を水で落とした腕は無傷であり、この腕をもし誰かが見たとしても硫酸をかけたなどと、誰が信じるだろうかといったぐらいの完璧な無傷だったのは……まあやはりと言ったところか。
あとついでに俺はその時に、二度と硫酸なんぞかけないと誓った。……そんな余談は置いておこう。
その後俺が手を出したのは毒物だった。
とりあえずEXTRAプレイ勢ならだれだって知っている緑茶御用達のイチイの毒をマグカップに入れて飲んだ俺は、なんの予備知識も無しに対策すらしていなかったため、飲んだ後三日間嘔吐と痙攣からなる酷い腹痛に苦しむハメとなったのは記憶に新しい。
真面目に死ぬかと思ったわ、いや本当に。まあ、その時は賃貸暮しであったため璃正が居なかったのが究極の救いと言ったところだろう。もちろん部屋中にあった隠しカメラは全部回収してやったがな。
その後イチイの毒について軽く調べて念のため胃洗浄をしておいた。する前でも何ともなかったのだが……多分下痢で抜けきったんだと思う、イチイの毒。それか耐性が出来たかだな。
まあ何はともあれ、あれだけのイチイの毒を飲み込んで生きているのは転生のときに貰った驚異的な治癒力のお陰だろう。身体の異常を感じ取りそれらを治していったのだ……と思う。
この時には既に半ばこの治癒力の核心を掴めてきていた。が、まだ足りない、あと一押しだ。確信が欲しい。
そう思い俺は最後に、思いっきり片腕を切り落としてみることにした。
もう痛みになど慣れているので気にすることは無い。
躊躇無く斬った腕は、肘より下らへんからバッサリと逝っており血が噴出している。しかし、血がなくなり脱力感に襲われることはやはり無い。
切り落して約二秒後、治癒は始まった。
まるで時を巻き戻すかのように、床に落ちている腕と同じ腕が俺の肘から上の無くなった場所に神経、骨、筋肉、皮膚といった順で高速で編み上げられ、俺の腕へとくっついていく。
そして、その時間わずか一秒。いや、もっと短かったかもしれない。
多分念じればもっと早く治癒出来ることだろう。
まあ、そんな考察はいい。とりあえずは結果だ。
俺は“決して減らない血”、“まるで傷つく前に、戻ったかのような腕”、そして“劇物を飲み、致死量も越えたそのイチイの毒で死んでもおかしくはなかった身体”からこの時、察したのだ。
俺の治癒とは身体に『異常』が起こった場合それ
でないと血が何故減らないか分からない。きっとアレは血が減る毎に減った分修正されて自分の中にその血が精製されていたのだろう。それに切り落とされた腕と指紋一つまで同じ腕が再生されくっついた事もある。
つまりだ。俺の治癒とは“運命の修正”、といった具合なのだろう。
“もし『異常』が起らなかったら?”という状態に身体は『異常』が起こる度に巻き戻しているのだ。
俺がいくら傷ついても『傷つかなかった運命』へと修正される、多分頭を切り落としても変わらないと思う。流石にしないがな。
だが例え仮説だとしても、そうなると俺には一つ不安になる事があった。
それはとても重要なことであり、下手すると生死に関わる。
それは、一つの事実。
原作の言峰綺礼は第四次聖杯戦争で一度
「では、キャスターめのところへ行くとするか」
「え?キャスターですか?」
斎藤一とギルガメッシュの激戦を観戦し終えた後、俺は後ろに立つアサシンに言った。
アサシンはキョトンとした顔でこっちを見てくるが何分キャスコンビを放っておくのは虫唾が走るし嫌である。子供さらいとか死ね。カレンが攫われるなんてヘマするようには思えないけどな。凛もカレンといる限りは大丈夫だと思うし。
というか璃正にはああ言ったけどやっぱり家族を冬木に置いておくのってヤバイような……。
後で璃正と相談しておこう。
「場所は分かっている。どうせ今頃自身の快楽の為に、子供を切り刻んでいるのだろう」
その描写を詳しく見たい奴はfate/zeroの漫画版を見よう。とてもグロイです、人間オルガンとかヤダー。
「何ですかそれ?聞いていませんよ私」
「ああ、言っていないからな」
「えぇー…………ってちょっと待ってください。子供を切り刻んでいるって本当ですか!?」
「ああ、本当だとも」
そういえば沖田総司って子供好きだったよな。文献にもよく近所の子供と遊んでたってあるし。
「許せません……子供は国の宝。国の未来なんですよ?マスター、今すぐその外道を叩き斬りに行きましょう。一さんじゃありませんけど今こそ悪!即!斬!ですっ」
「……そうだな。では行くか」
正直、アサシンのテンションは上下が結構激しい。
深山町と新都を跨ぐ冬木市の真ん中を貫くように流れる川の中流に、その一際大きい下水道の排水口はあった。
いざ来てみると分かったがここからでも微かだが血の匂いがする。きっと非人道の限りを尽くしてんだろうな。死徒切り刻んで時たま爆散させている俺が言うのもなんだがな。
「―――フゥ―――」
気持ちを切り替える。きっと下水道には海魔が犇めいていることだろう。
このまま普通に突破することなど無理だ。
しかし俺は違う、俺は先生のアレを習得……とまではいえないが使えるのだからな。
「『圏境』」
そう、自分の意識を切り替えるために呟く。今から行うは地と天との究極の調和である。自らの気を周りに張り巡らせ、地面や空気、景色を自らに没する……でいいんだよね?昔見たwikiにはこんな感じに書いてあったし行ける、というか行けたしやってるからいいよね別に!
「ま、マスターが突然消えた!?
おい、うっさい。集中させろや。俺は李書文みたいに呼吸するようにとか無理なんだからな。
『……アサシン、行くぞ』
「いやだから何処ですってば!?」
うるさいなわかんだろ感覚的に、令呪のパス繋がってんだからよ。
『アサシン、物量戦だ。隊士を呼び出せるだけ呼び出せ』
「あーもう、わかりましたよ……。でもマスターの魔力もつんですか?今でも御家族たちの警護のために五体の隊士を召喚しているのに」
なに、魂削ってるから大丈夫だって。魂は削った分だけ治癒して再生して元通りになる事から論理的に俺の魔力は実質『無限』だしな。お前が心配する事じゃあねぇよ。アサシン。
まあこんなことしたら普通死へとまっしぐらなのだがなー。
「皆さん出番ですよー」
下水道の入り口でアサシンは旗をコンクリートにぶっ刺しながら言った。同時に青い魔力光がヒビのような形で下水道に広がっていく。
そして次々と召喚されていく浅葱色の羽織を羽織った新撰組の隊士達、その数は既に二十を越え排水口の入口はかなり狭くなってきていた。
まあライダーの戦車が通れるぐらいの広さはあるんだけどね。
「さあ皆さん!ゲテモノ討伐ですけど行きますよ!国の宝のためです!」
『オーーッ!!!』
なんかこれ、
正面突破、いい響きです。
わらわらと出てくる海魔を新撰組が切り倒していく姿はとてもシュールだ。何なんだろうなぁこれ。
宝具は無くてもスキルはあるらしく、かなり効率はいい。お陰で圏境しているからかもしれないけどするする行けてます。
ピクピクと横たわる海魔の横を歩き、海魔地帯を横断する俺。
そんなふうに余裕な体で歩いて(しかし誰も見えていない)行き、暫くすると海魔地帯を抜けたのか暗く広い空間に出た。ここですかい。
その時不意にピチャっと何か水気のあるものを踏んだ感覚が足から伝わる。
なんか分かった。直感で分かった。
幸いと言うべきか俺の眼はすぐ暗いところに慣れてくれたのでその全容は直ぐに知覚できた。
……ああやはり子供の身体か。
しかし質の悪いのはこの子供らはジル・ド・レェの魔術によって身体を切り開かれたり捻じ曲げられたりしても死なないようにされている事だ。
解呪とかそもそも英霊がしたのとか無理だし、した所で死ぬだけだし中途半端に生きているだけでも痛みに苛まれるだけである。本当に下衆いなぁッ、ジル・ド・レェさんよぉ。
「ぁ……が…だれが……づげ……」
というかその状態でも喋れるのかよ。しかし俺の事見えていない筈なのになぁ……偶然か?まあ良い。望み通り、助けてやる、すまんな。
俺はそう心の中で呟きながら、四肢を切開され肉と骨に分けられ内蔵の引き摺り出された少年の身体を黒鍵で切り刻む。
『ま、マスター……これは』
『奥にキャスターがいる筈だ。行くぞ、アサシン』
『……わかりました、マスター』
もう殺す。絶対殺す。魔力こもった拳で霊核ぶっ潰してやる。
というか本当に多すぎ、そこら辺見るだけで加工された子供の身体が転がってるし。中にはジル・ド・レェがやったのか頭が潰れているのもあるもん。グロい。
特に何なんだよあれ子供四人でテーブルにでもしてんのか?しかも呻き声あげてるし……。
…………てあれ?ちょっと待て。なんで子供が柱に磔にされてんの?ジル・ド・レェこんな事やってたっけ?
内心首をかしげていると、奥から人の声が聞こえてきた。
俺は圏境を維持したまま近付きながらそれらに耳を澄ませる。
「すっげぇよ!メッチャCOOOOLだ!!流石旦那に姉御!」
「フフン、この私に掛かればこんなものよね!当然よ!!あぁ、血よ、血だわ……ホンットにサイコーね!こういうのは前世でもなかなか無かったわあぁ……」
「おお貴女もそう思いますか、バートリー嬢よ!私もこのままジャンヌへと捧げる最高の生贄が増えて嬉しいですぞ!!」
「俺達似たもん同士だよなぁホント!俺は運命を感じるよ!」
「ソレ!私も思ったわ!流石リューノスケの言う事は一味違うわね!」
「おおリュウノスケよ、バートリー嬢よ!私も嬉しいですぞ!」
天井から射す青白い月明かりの下、そう笑いながら話すのは背の高い不気味な男、もちろんジル・ド・レェだ。そしてそのマスターである雨生龍之介の姿も見える。
しかしそんな二人組に加わる影がもう一つあった。
目立つチェックのスカートにユラユラと動く尻尾、そして血色の髪と特徴的な蜷局を巻いた角をもつ小柄な姿の少女がいたのだ。
……うん、ちょっと待とうか。思わず叫びたい俺の気持ちを抑えるためにな?
…………なぁ、なんでエリザベートいんの?
消えたわw嬉しい、スカッとした。