「皆さんは逃げてください」
視線は漆黒の体色に変化したエビルプリーストから反らすことなく、レイシアは迷いなく言った。
あとはエビルプリーストのみと既に臨戦態勢に入っているパパス達に衝撃が走る。
「どういうことだレイシア!」
たまらず声を荒らげて詰め寄るパパス。
皆もパパスと同じ気持ちではあるが、パパスが代表で問いかけたので、成り行きを見守っている。
「皆さんは魔王ミルドラースを倒し、本懐を遂げられました。残るエビルプリーストは勇者様と私たちの因縁の相手です。私が倒さなくてはならない相手なのです」
レイシアはパパスを見据えて真剣な眼差しでそう言い切った。
「しかし、ヤツは強大過ぎる。いくらレイシアが強くても……」
「あなた、レイシアは昔から言ったことを曲げたことはありません。意思を尊重してあげましょう」
「しかし……」
見かねたマーサが口を挟むが、パパスは納得できない。
当然である、エビルプリーストはあの苦戦したミルドラースさえもはや超えているのだから。
「レイシア、貴女がそこまで言うのならもちろん勝算はあるのよね」
「もちろんです」
レイシアの自信に満ちた答えにマーサは微笑みを浮かべる。
「だそうよあなた」
「分かった。では最後に、王ではなく、一人の仲間として約束してくれ。絶対に生きて我々の元に帰ってくると」
「……善処します……」
レイシアの歯切れの悪い言葉に不安は感じるが、一度言ってしまったことは変えられないので、
「きっとだぞ」
とだけ呟くように告げ後ろを向いた。
「レイシアさん(レイシア)(お姉さん)絶対に生きて帰ってください」
パピン、バルバルー、サンチョ、プオーンも同じ気持ちであった。
「帰ってくるのよ。さあ皆行くわよリレミト」
マーサの呪文の詠唱と同時にパパスたちはの姿は消えていた。
「まさか狡猾なあなたが見逃してくださるとは」
「見逃したつもりはありませんよ。まずは貴女との因縁を潰し。それから他の方々をゆっくり楽しみながら殺してあげようと思いましてね」
エビルプリーストの二つの顔の口角がイビツに歪む。
「それは叶いませんよ。貴方はここで私に倒されるのだから!」
「不老不死でなくなった貴女にこの究極の私を倒すことができるとでも、傷ひとつつけることはできませんよ。やってみなさい!」
エビルプリーストは巨大な腕を振り上げながら襲い掛かる。
(ごめんなさい。約束は守れないと思います)
レイシアは袋から瓶に入った『エルフの飲み薬』を出し、飲み干すと、荒れ狂う程の魔力を体から放出しながら腕を向けた。
(まさかこの呪文が役にたつときがくるなんて)
レイシアに自然と笑みが溢れる。
◇◆◇◆◇◆
「何あの禁忌の呪文を教えてほしいだと」
「お止めになったほうがいいですよミネアさん」
禁忌の呪文を行使することができる唯一の人物である、ピサロさんに頼みこんだが、最初は難色を示され、隣にいたロザリーさんにも止められた。
「私の意思は変わりません!!けして悪用はしません」
私は折れることなく、頭を下げた。
「ミネアよ。あの呪文は作り出した者やその一族、そして魔族以外では唱えた瞬間命を落とす呪文だぞ。それでもいいのか?」
「今の私は死ぬことはありません(死ねたら本望ですが)」
「確かにな」
ピサロさんとロザリーさんの表情が陰る。
「気にしないでください。もう受け入れているので」
「ああ、そうか。しょうがあるまい、お前は自分の意思を曲げることはしないというのは分かっている。教えよう」
「本当ですか」
「ただし、使用しても命の保証はしない。そして、呪文の威力が強すぎるために、地形や生態系さえ簡単に変えてしまう呪文だ。人生でもここぞというときにしか使ってはならない。分かったな」
「はい」
そして、私はピサロさんから呪文の教えを受け、長い時間をかけて習得した。
◆◇◆◇◆◇
「今こそあの呪文を使うとき!」
(パパス王、マーサ様、リュカ様、パピンさん、サンチョさんお幸せに、そして私が死んだらまたマーサ様に呼び戻してもらってくださいカカロン姉さん、バルバルーさん。本当に今までありがとうございました。とても楽しかったです。さようなら)
「マダンテ!!」
「何!!!」
レイシアから解き放たれた莫大な魔力が、荒れ狂い、暴走し、全てを無に返す爆発を起こす!!
「共に逝きましょう」
「こんなところで……」
二人は光に包まれ―――エビルマウンテンと共に消えた…
その天にも昇る光はエビルマウンテンの外にいるパパスたちにも見えていた。