「これが魔王の居城があるという『エビルマウンテン』か…」
広大な魔界の森を抜け、さらに岩山を抜けついに目的地にパパス一行はたどり着いていた。
見た目はただの岩山のようであるが、そこには内部に入ることができる入り口が大きな口を開くように開かれている。
まるでどこまでも闇が続くような漆黒の暗闇に包まれた入り口。
パパス達はそのなんとも言えない威圧感と不安を掻き立てる雰囲気におされ未だに足を踏み入れることができずにいた。
「パパス様参りましょう。マーサ様がお待ちですよ」
そんな重圧に包まれているメンバーの中で唯一冷静に、恐れていないレイシアが先頭のパパスに声をかける。
「たいしたものだな。この威圧感にも身じろぎ一つしないとは!」
「私は過去にもう二度程魔王城には乗り込んでいますから、さあ参りましょう」
たいしたものだとレイシアに感嘆するパパスに対して、経験からですと笑顔で話すレイシアに勇気付けられ一行はエビルマウンテンに足を踏み入れた。
闇に支配されていると思っていた一行であるが、足を踏み入れた直後にパパスが所持している、以前魔界の闇を照らし出したマーサからの贈り物である石が、再び仄かに光を発しエビルマウンテンの闇を振り払った。
闇が振り払われたそこには、居城ということがよくわかる情景が広がっている。
人間界の城であれば、鎧などが飾られているのだろうが、この魔界の魔王城にはいくつかの魔物の像が鎮座している。
「なんか動きそうだね…」
プオーンが恐る恐るその像を見上げて呟くが、皆もその意見に同意したくなるほどの異様な様相をしている。
「この魔王城では何が起きてもおかしくない。皆警戒を怠らずにいくぞ!」
パパスが皆に声をかけると、皆も声は出すことはないが、しっかりと頷いた。
並び順はパパス、パピン、レイシア、サンチョ、バルバルー、プオーンとなっているが、先程からしきりに後ろを気にしているプオーンにバルバルーが気付き声をかける。
「どうした、何かあったか?」
「大丈夫、たぶん気のせいだと思う……」
首を傾げながら返す返答は、歯切れの悪いものではあるが、皆は先に進んでいくので、気にはしつつも先を進んでいく。
しばらく進んでもやはりプオーンは後ろを何度も振り返っては首を傾げている。
「どうしたんだ何かあるのか?」
度々立ち止まる後方のバルバルーとプオーンにパパスは問いかける。
「いやなプオーンがしきりに何かを気にしててな」
「プオーンちゃん何か気になっていることがあるなら遠慮せずに言ってくれていいんですよ」
優しい笑顔でプオーンに語りかけるレイシアに安心したのかプオーンはおずおずと話始める。
「なんか後ろから視線と気配を感じる気がするんだ…。ただ気のせいのような気もして、みんなに迷惑をかけたり、不安にしたくなかったから言えなかったんだけど…」
プオーンの表情は真剣であり、確かにパパス達も魔物が全くと言ってよいほどいないのに、何かの気配を感じていたので、後方に目を凝らして確かめてみる。
薄暗く、不気味な広間に動くものは存在しない。
「なにもないように思われますが」
パピンが左右を警戒しながら答える。
「いえ、プオーンちゃんが言うように違和感があります」
レイシアが後方に一直線に視線を向け、その視線を動かさずに答える。
「あの像ですが、あのような所にありましたか」
少し青ざめながら魔物の像に向かって指をさす。
「そう言えば、あの像があったのは少し前だったな。もう見えなくなっているはずだ」
パパスもレイシアの意見に同意する。
「で、では、私が調べてきます」
「大丈夫かパピン?顔が青いが」
「だ、大丈夫です!怖くなんてありません」
上ずった声に不安は覚えたが、パピンを信用して送り出す。
「こ、この像ですね」
レイシアが指さした像の前にたどり着くとパピンは注意深くその像を調べ始める。
「どこも変な所は………!!!…」
パピンの動きが止まる。
「像と目があった!?いやいやいやいや、見間違いだ。そんなわけあるはずがない」
パピンは目を擦りもう一度像を見上げる。
魔物の像はパピンをしっかりと見つめている。
青ざめたパピンに動くはずのない像が口を開いた。
「ミ~タ~ナ~」
パピンは意識を手放した。
「不味いぞ!」
倒れこむパピンを見てすぐにパパス達は走り出した。
土偶のような像が動き出し、倒れこんだパピンにのし掛かろうとしている。
「パピンに手を出すな!」
いち早く飛び出していたプオーンが黄金のオリハルコンの牙で噛みつく。
噛みついた頭部に牙がめり込み砕け散る、だが依然として動きが止まることなくパピンに襲いかかろうとする。
「仲間に手を出すんじゃねえ!!」
怒号と共に横凪ぎに振るわれたバルバルーの大剣地獄のサーベルが依然として動きを止めていなかった像を粉々に粉砕した。
「他愛ねえな」
地獄のサーベルを地面に突き刺したバルバルーは砕けた破片を見下ろし呟く。
「二人ともよくやってくれた。しかしよく間に合ったな」
後れ馳せながら到着したパパスが感謝と驚きを伝える。
「あのパピンの様子じゃあ襲われた時に対応できねえと思ってな」
バルバルーは青ざめたパピンが像に向かった時から既に警戒して、パピンの近くにプオーンと共にスタンバイしていたことを笑顔で話す。
その答えを聞いたパパスは笑顔で頷き。
(この仲間思いの皆であれば必ず本懐を遂げられる)
という思いを強くした。
レヌール城の動く石像の話ですが、Ⅴではあれがかなり印象に残っているので使わせてもらいました。