マーサに送ってもらった石により闇は払われた、しかし魔界の真の姿もパパス達には、驚きと不安以外の感想を与えなかった。
地上と変わらない所もある、森や岩山など、しかしながら、それを構成する木々は地上のそれとは全く違うと言っても差し支えはない。
紫色の幹、漆黒の葉、それ以外にも人間の顔のようなものが樹皮に浮かんでいるものもある。
石によって闇は払われたとはいえ、それは単に目視できるぐらいにまでというもので、依然として薄暗く、明かりとなるものすら存在しない。
パパスは気をとりなおすと、光を失ったマーサからの石を見て覚悟を決め、大事そうに懐にしまった。その石がパパスの首を締めることになることを知るのは少し後のことである。
パパス一行は立ち止まるわけには行かないので、辺りを警戒しながら歩き始めた。
目的地は分からないが、幸いにして、東にしか道はなかったので、東に向かうことにした。 しばらく皆無言で歩いていると、パパスは動きを止め、皆にも止まるように手を挙げる。
「………!来るぞ!」
パパスの声が静寂を破る、皆はすでに戦闘体勢に入っていた。
空中には冷気を撒き散らしながら飛来する鳥型の魔物ホークブリザード、空を飛来して地上に降り立つ紫色の体毛を持ち、猿の容貌を持つバズズ、以前戦ったラマダの色違いながら、体格は一回りも違うギガンテス。どの魔物も今まで戦ってきた魔物など比べるべくもない強敵である。
「上空の鳥(ホークブリザード)は私に任せてください」
「じゃあ俺はあのデケエ鬼(ギガンテス)だな。誰も手を出すなよ、俺の獲物だ!」
「じゃああの猿(バズズ)は僕が戦うよ」
レイシア、バルバルー、プオーンがそれぞれ敵に向かっていく。
確かに敵は強いが、パパス達はさらに強くなっていた。
「グギャー!」
ホークブリザードが滑空しレイシアに襲い掛かる。
「フフ、空にいればいいのに、でも空にいても私には意味がないのだけど」
レイシアは微笑を浮かべ、滑空して襲い掛かったホークブリザードの攻撃を最小限の動きでかわす。
背を向けて空に再び舞い上がるホークブリザードにレイシアは手を向けて
「メラゾーマ」
と呪文を唱えると、巨大な火球がホークブリザードに襲い掛かり、その冷気ごと焼き付くした。
遅い来るギガンテスの棍棒バルバルーはを大剣で裁いている。その口許にはうっすらと笑みが浮かんでいる。
「なかなかの攻撃だ。今までの奴らとは重さが違うわ。楽しいじゃねえか!」
そう言いながら上から降りおろされた攻撃を裁くことなく大剣で受け止めた。
「!!!」
驚愕の表情を浮かべるギガンテスに
「じゃあな、楽しかったわ」
バルバルーが言うと同時に力を込め受け止めている棍棒をはねあげ、万歳状態のギガンテスを大剣で横に両断した。
ギガンテスは血飛沫を撒き散らしながらながら上半身と下半身が分けられた。
「ナンダヨオレノエモノハコンナチンケナヤツカヨ」
「チンケだと。許さないぞ」
バズズが喋ったことに驚くことはなく、プオーンは口喧嘩を始める。
「マアイイカ、スグニオワラセテホカノヤツヲクエバ、シニナマヒャド!」
『!!』
戦況を見守っていたパパス達には戦慄が走る。
まさか普通のそこら辺の魔物が上級氷結魔法『マヒャド』を唱えたからだ。
そんな仲間達の驚きを他所にプオーンは微動だにしない。
急激に周囲の気温が低下し、白く凍りつく、そして上空から氷柱が襲い掛かる。
プオーンはまず上空を見上げ吸い込んだ息を吐き出す。
周囲の冷え込んだ空気は一瞬で沸点に達するほどの『灼熱の炎』を吐き出した。
氷柱は全て蒸発する。
プオーンはそのまま顔を下げバズズに視線を送る、視線とともに舞い降りた『灼熱の炎』はバズズの断末魔と共にバズズを飲み込み灰にした。
パパス達にとっては魔界の魔物でも然程恐れるものではなくなっていた。
「みんなよくやってくれた。では先へ進もう」
パパスはレイシア、バルバルー、プオーンに労いの言葉を掛け先に進んだ。
そこから約2時間迷路のような道を迷い迷い進んでいくと、前方に巨大な柱のような物が見え始めた。
その巨大な柱の上にはほんのりとした光さえも見える。
暗い魔界を歩いてきたパパス達にはそのほんのりとした光でさえも懐かしく感じ、それを目当てに進むこととした。
さらに二時間歩き続け、柱が目の前に現れたその時であった。
辺りを凪ぎ払うかのような突風がパパス達に吹き付けられる。
砂埃を払いながら見ると、巨大で計り知れない威圧感を持ち、黄金に輝く鱗、巨大な羽、鋭い牙、爪を持つ、魔界の魔物の中でも頂点近くに君臨するドラゴン、グレートドラゴンがパパス達の歩みを妨害するかの如く前に立ち塞がった。
「最後の砦か。どうする?私が殺ろうか?」
パパスが皆に問い掛けると、
「ここは私に任せてください、皆に遅れるわけには参りません!」
パピンが名乗りを挙げた。
パパスは頷くと下がった。
パピンはメタルキングの剣を抜き構える。
「行くぞ!!」
パピンの強烈な踏み込みから、加速し、瞬時に間合いを詰める、グレートドラゴンも警戒はしていたが、それを上回るスピードでパピンは間合いを詰めていた。
そこからの一閃、グレートドラゴンの硬い鱗を切り裂くが予想以上の硬さに深傷は与えられない。
痛みで怒りに燃えるグレートドラゴンは尻尾で前方を凪ぎ払う、すぐにそれを察知し回避行動をとったパピンではあったが、その攻撃範囲が予想外に広く避けきれず、弾き飛ばされる。
「かなりの力だな…。出し惜しみはなしにするか」
口内の血液を吐き出すと、パピンは剣を構える。
味を占めたグレートドラゴンが再び尻尾を叩きつける。
「ドラゴン切り!!」
パピンの剣が紫電の輝きを見せると、巨大な尻尾が宙を舞っていた。
「グガーーッ!!」
痛みと怒りに刈られグレートドラゴンはなりふり構わず至るところへ炎を吐き出す。
冷静にパピンはそれらをかわすと、再び
「ドラゴン切り!!」
と剣を閃かせると、グレートドラゴンの首が血飛沫を撒き散らしながら地面に落ちた。
「見事」
「やるな」
パパスとバルバルーがパピンの勇姿に称賛を送った。