私は長い間死ぬことだけを求めて目的すらない、終わることのない旅を続けてきました。
そしてそんな終着点のない旅のなかで立ち寄った、ある町の酒場でこんな話を聞きました。
『エルヘブンという町の近くに魔界へ通じる道があるらしい』
この時すでに私は自暴自棄になっていたので、(魔王ならこの不老不死の呪いを打ち消し、私を殺してくれるかもしれない)
そう思い、魔界に行くためにエルヘブンに向かいました。
エルヘブンについた後、現地の人にそれとなく聞いて見たのですが、誰もが口を濁したり、何も話さなかったりと、『魔界へ通じる道』については話すことを規制されているようでした。
行き詰まった私は、酒場で飲んだくれていました。
実際には年齢的にお酒はダメなので、ジュースでしたが。
そこで、運命の出会いがあったのです。
「ねえ、お姉さんは旅の人?」 突然私は誰かに話かけられました。
知っている人もいないこの町で、いやこの町に限らず、世界全てでも現在の私自身を、おとぎ話出てて来るミネアではなく、今現在も生きているミネアを知っている人はもうほとんどいないのですが。
話しかけられた方向を見ると、子供ように誂えられた可愛らしい神官服を着た、約10歳に満たない、色白で髪が方辺りまである、可愛らしいというより、口で言い表せない神秘的な何かを感じさせる少女がいました。
その時の私は、生きることにさえ疲れており、また知り合いを作ったとしても悲しい思いしかすることはないので、人間関係を築くのを恐れ、大体話しかけられても、無視をするか、尊敬する勇者様ばりに、『はい』か『いいえ』のみであしらうことがほとんどでした。
しかし、その時は自分でも気づかないうちに、
「ええ、私は終わりない旅を続けているのですよ」
となぜか言葉がすらすらと出ていたのです。
その話を聞いていた少女はこちらもつられて笑顔になってしまうような、愛らしい笑顔を浮かべながら、私の話を聞いてくれました。
私もなぜ、こんな小さな少女にここまで自分の話をしたのかは今でも分かりません。
ただ、幼いながらもマーサ様には特別な力があったのでしょう。
今まで凍りつき閉ざされていた私の心も次第にほぐれていきました。
「お姉さんごめんね。もう行かなきゃならなくて。またここでお話してくれる?」
「…ええ、いいわよ、また明日…」
「うん、約束ね」
そういうと少女は走って去って行きました。
それまでの私であれば、一人でいることに慣れていたために、寂しい、などの感情が表にでることなどありませんでした。
しかし、この時少女が去って行ってしまうとき、私は世界にたった一人で取り残されてしまったように感じ、悲しさ、寂しさ、不安などの感情により心がしめつけられるようでした。
次の日も約束した酒場で飲んでいると、
「お姉さん、約束守ってくれてありがとう!」
昨日と全く同じ笑顔で同じ所にその少女は立っていました。
それからまた楽しく話していると昨日と同じ時間になり、名残惜しそうに、また明日の約束をして帰っていきました。
それから毎日のように合い色々な話をしました。
まさに日課となったその日々は、私に長い間忘れていた喜びや安らぎを与えてくれました。
話によるとその少女、マーサはこのエルヘブンでも特別な力を有しているということで、悪くいえば軟禁されたような状態であるということを知りました。
そのために私の旅の話には目を輝かせて聞いていました。
そのような日々が約二ヶ月続きました。
魔界に行くことも、行きたいという気持ちも小さくなっていました。
「ミネアお姉さん。少し聞いていい?」
いつもはいい意味で遠慮なく聞いてくるマーサ様でしたが、この時だけは躊躇しているようでした。
「なにか悩みがあるなら話してほしいな」
「!!!」
マーサの瞳は私の全てを見透かしているような感覚を受けました。
私は全てを話そうと思いながらも、果たしてこのような重い話をこのような年端もいかない少女に話していいものかと躊躇しました。
しかし、マーサ様の瞳は真剣そのものであり、それまでたった二ヶ月とはいえ、濃密な関係を築いていたので、全てを打ち明けることにしました。
そこから約一時間ほどで、自分の素性、過去について、ここに来た理由全てを告白しました。
マーサ様はいつも私の話を聞くときは、笑顔で聞いていましたが、さすがに今回の話の時には涙ながらに、自分の身になぞらえて聞いてくれているようでした。
私は全てを語り、胸が軽くなった気がしました。
それだけでも、話した甲斐があったと思いました、その後、マーサ様はしばらく俯いて思案した後、いつもの笑顔で顔を上げこうきりだしました。
「最初ミネアお姉さんにあった時に何か、その金の腕輪から大きいけれど、あまりよくないものが、体を取り巻いていたからちょっと気になって話しかけたの。
でも今の話を聞いて分かったの。私ならミネアお姉さんの悩みを解決してあげられる」
年端もいかない少女とは思えない頼りがいのある感じを受け、マーサ様を信じて身を委ねることにしました。
ただ酒場ではできないということなので、マーサ様の部屋に行くことになりました。
しかし、そこにも問題があり、マーサ様の友達であってもマーサ様の部屋には入ることはできないということで、夜中に忍び込むことになりました。
夜這いをかける男の人の気持ちがよく分かった夜でした。
マーサ様の部屋は、綺麗で整ってはいましたが、本当にここで生活しているのかと疑問に感じるほどに無機質な印象を受けました。
「じゃあ始めましょ」
笑顔でいったマーサ様は次の瞬間真面目な顔になっていました。
マーサ様の体からは誰からも、感じたことがないほど、あの魔王ピサロをも遥かに凌駕するのではないかと、思えるほどの魔力を感じました。
ただなぜかそれほどの魔力を感じても、恐ろしいと感じるどころか、逆に安らぎを受けるような、とても心地よいものであったことを今でも覚えています。
そこで私の記憶はとだえています。
私が目を覚ました時には、隣でマーサ様も寝ており、私が目を覚ましたのに気づくと、目をこすりながら
「もう大丈夫だよ。でもね、あの呪いといってもいいぐらいの力が強すぎて、ミネアお姉さんは体が衰えることだけはなくなってしまったの、ごめんなさい」
マーサ様は私を不死そして、地獄のような終わらない日々から解放してくれました。
体だけは時がとまったあの時から変わりませんが、ちゃんと時間が経つのを感じられるようになりました。
それから、私はミネアという名を捨て、新たにレイシアと名乗りマーサ様の口添えで、マーサ様に仕えることになりました。
――――
「というのが、私がマーサ様のためならこの命さえ惜しくないと思える理由なのです」
レイシアの話を聞いていた皆はそれぞれ様々な感想があるのだろうが、話が想像を絶するものであり、声一つ誰も発しなかった。
しばらくたち、サンチョが思い出したかのように話し出した。
「そういえば、パパス様がマーサ様をお連れになって帰られた日に、恐ろしい、魔王さえも震えるほどの形相で魔力を迸らせながらグランバニアに一人で乗り込んできた理由はそこにあったのですね」
「ええ、私の恩人でもあり、大事な親友が『悪漢パパスに拐われた』なんて聞かされたらあのようにもなりますよ」
恥ずかしそうに、微笑を浮かべて話すレイシアの横で、パパスはその時の惨状を思い出していた。
(あの時は酷かった。死人こそ出なかったが、城中の兵士が尽く戦闘不能にさせられ、幾多の修羅場を潜り抜けてきた私でさえ、初めて『死』の恐怖を明確に意識した日でもあった。
マーサが止めてくれたからよかったが)
身震いしながら過去に思いを馳せた後に、
「皆の思いしかと受け取った。
これからもよろしく頼む。」
パパスは皆に視線を送り、頭を下げた。
大事な妻を、大事な恩人兼親友を、主君の奥方を、兄弟の妻を、恩人の妻を、皆がマーサを救うと再度覚悟を決めた夜であった。
マーサ自体原作でもほんの僅にしか出ていないので、ほぼ私の想像で書かせてもらいました。
次回から『魔界編』に入ると思います。