ドラゴンクエストⅤ パパスと優秀な軍師   作:寅好き

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レイシアの覚悟とイブールの決心

「……何が起こったのだ!?」

上空で様子を見守っていたマスタードラゴンにも予想外のことであった。

神殿内から淡い光が漏れたかと思った次の瞬間には、神殿は粉々に吹き飛び、神殿が建っていた岩山までが半壊の状態になっていたからだ。

未だにその爆発の余波により砂埃が辺り一帯に舞い起こっている。

二、三分が経過し、なんとか視界が晴れ、マスタードラゴンが少し高度を落とし目を凝らしてみると、二つの影が認識できた。

一つ目は黒く焼け焦げた法衣を纏うワニ、この爆発を呪文『イオグランデ』で引き起こした主、イブールであった。

もう一つの影は、役目を果たしきり、ボロボロになった賢者のローブを纏い、身体中血だらけになっているレイシアであった。

イブールはそのレイシアを見て明らかに動揺と驚愕の表情を表していた。

ただ上空で見守っているマスタードラゴンはレイシア以外の仲間が何処にもいないことに不安を覚えていた。

だが、その心配も杞憂に終わる。

瓦礫のしたから這い出してくる影が5つあったからだ。

その5つは、パパス、バルバルー、パピン、サンチョそしてプオーンであった。

それ以上に驚くべきことは、5人全てがほぼ無傷であったことである。

あの爆発に巻き込まれながらも切り傷一つついていなかったのである。

レイシアを見て呆然としているイブールがハッとしたように何かに気付き、レイシアに問い掛けた。

「あの者達には魔法を無効にするための何らかの呪文を、あの短時間でかけたのであろう。

ではなぜお前自信にはかけなかったのだ?」

パパス達の姿を見る限り完全に『イオグランデ』を無効化しているのは、容易に理解できる。

それであれのに、なぜ術者本人はそのように呪文をまともに受け、満身創痍の状態にあるのだろうか。

イブールは考えても、考えても答えが出なかった。

その為本人に問い掛けたのだった。

そのイブールの問い掛けに、微笑を浮かべて、途切れ途切れ答える。

「簡単なことですよ…。

貴方は、「わしの呪文を受けきったら魔界への門を開いてやる。」と…宣言なさって『イオグランデ』を唱え…ました。

ならば…、身を持って受けなくてはならない…と判断しました…。

パパス様…皆様には『アストロン』で回避して頂き…、私一人が呪文を受け耐えきりました…。

これで魔界への門を開いてくれるのですよね。」

レイシアの答えにイブールは何も考えることも、答えることもできなかった。

しかし、どうしても聞きたいことが頭に浮かんだので、そのことを問いただした。

「なぜお前は、命を賭けてまで魔界へ行きたいのだ?」

「簡単なことです。

私の命に代えても御守りしたい御方が魔界におられるからです!」

一転の曇りもない笑顔でレイシアは即答し、そのまま地面に倒れこんだ。

レイシアの元に仲間が集まり、パパスが『ホイミ』を唱え治療を始めていた。

それを茫然として眺めているイブールは、頭の中でレイシアの答えを何度も反芻していた。

 

治療も一段落し、レイシアが眠りにつき、パパス達も安心している所に、イブールが近づいてくる。

皆はすぐにでも応戦できるように、レイシアを守るように前に立ちはだかり、戦闘体勢を取る、しかしイブールには全く殺気すらない。

皆もイブールに全く殺気がないことに気付きながらも、先程まで戦っていた相手であるので気を抜くことはなかった。

「何か用でもあるのか?

まだ戦うつもりか?」

パパスが意を決してイブールに問い掛ける。

すると

「そのレイシアという小娘の覚悟をしかと受け取った。

お前達の望み通り魔界への門を開いてやろう。

まずは、お前達も身体を休めるがよい。

そして、万全の準備を整えたらまたこの場に来るがよい。

魔界への門を開いてやろう。」

イブールはそれだけ告げるとパパス達に背を向け去っていった。

驚きのあまりイブールの背を見送ることしか5人にはできなかった。

「パパス様、ヤツの言うことを信じても良いと思いますか?」

パピンが心配そうな面持ちでパパスに問い掛ける。

「たぶんだが、大丈夫であろう。

あの者の目は真剣であったし、嘘をついているようには到底思えなかった。

レイシアの言葉がよほど心に響いたのであろう。」

パパスも思ったことをそのまま述べたので、仲間達もパパスを信じることにして、イブールの言うように身体を休め、準備をするためにマスタードラゴンに送ってもらい、天空城へ戻っていった。

 

――――

「イブールめ、粋な計らいをしおる。

私の思い通りに事が進んで恐いぐらいだ。

しかし、ヤツがそれを許す筈はないだろう。

私も少し手を貸してやらぬとな。」

水晶玉を通して成り行きを見守っていた男は小さくほくそ笑むと、そのまま瞑想にはいった。


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