「では、嵌めめますね。」
ボブルの塔での第一の目標のゲマを捕らえ、魔界への行き方を問うということは果たすことが出来なかったが、第二の目標は、ブラックドラゴンの持つ〈竜の右目〉をてに入れ、ゲマの持つ〈竜の左目〉をてに入れたことにより果たされようとしていた。
レイシアは〈竜の右目〉を竜の像に嵌め込み、そしてまた、〈竜の左目〉を竜の像に嵌め込む。
竜の像に両目が嵌め込まれると同時に、何かが音をたてて動き出す。
今までレイシアが右目、左目を嵌め込んでいた竜の像の口が大きい音をたてて開き始める。
『おお~。』
皆が竜の像の口が開くのを見て、感嘆の声をあげる。
開かれた竜の像の口から淡い光が漏れている。つまり、この竜の像の口の中に、レイシアが言う目的の物があるということを表していた。
レイシア達が竜の口から中に入る。竜の像の中は小さな部屋になっていた。その中心部に淡い光の発生源となる、なにかしら不思議な感じがする一本の竜を模した杖が刺さっていた。
「なにか不思議な感じがする杖だな。これがレイシアお前の目的の物なのか?」
「はい。これだと思います。」「思います?」
「ええ。これはとある人に頼まれた物なので、これだと断言することは出来ないのです。さあその人が、私達が帰ってくるのを首を長くして待っていると思います。この杖を持って、天空城に帰りましょう。」
とレイシアが答えると、杖を引き抜き部屋からでていく。
パパス達は誰の依頼かを聞きたくはあったが、レイシアはあまり答えたくはないのか、さっさと出ていってしまったので、天空城につけば分かることかとレイシアに続いて部屋を出ていく。ゲマがボブルの塔から逃げていったために、ボブルの塔からは魔物はいなくなっており、簡単に塔を出て、天空城に帰還することができた。
パパス達が天空城に帰ってくると、なにやら城の中がざわついていた。
なにかあったのか?と人だかりが起こっている所を見てみると、一人の男を兵士が取り囲んでいるように見えた。
男は寝そべり、足と手をジタバタさせて必死になにかを訴えている。傍目に見ると、玩具屋の前であれ買ってと駄々をこねる子供のようにも見える。
「あれは大の大人が取る行動ではないな。」
パパスは呆れながらその状況を見ている。
「なにかあったのですか?」
レイシアは周りの人に聞いてみると、なんでも不審者が城内にはいり込んでいたということであった。
パパス達は人だかりができており、どのような人物かは見ることはできないが、聞き覚えがある声であったので、やれやれといった様子で、しぶしぶひとだかりを掻き分けて、その不審者と思われている男のもとに向かった。
「だ~か~ら~、私は不審者じゃないといくらいったらわかってくれるんですか?」
「この天空城にプサンという人物はいない。」
「貴方はそんなこと言っていると、仕事を失いますよ。」
「コイツなにいっているんだ。放り出そう。」
「何をするんですか。いや~、犯される~。
あっ皆さんいいところで。」
プサンと兵士のやり取りを呆気にとられて見ていた所をプサンが見つけ、満面の笑みを浮かべ走ってきた。
「待っていましたよ皆さん。でレイシアさん、例の物は?」
「これですか?」
「そうです、これこれ。」
プサンはレイシアから杖を渡され、手に持つと、その杖が目映い光を発する。その光が城を包み込む。しばらくし、光がやんだところで徐に目を開けると誰もが言葉を発することが出来ない状態になっていた。
目の前には、プサンではなく、黄金に光るドラゴンが立っていたのだった。
場所は変わって、玉座の間に皆はやって来ていた。
「この姿では初めてなので改めて自己紹介をしよう。私がこの天空城の主で、この世を治めるマスタードラゴンという。」
マスタードラゴンからはプサンの時とは明らかに違い、威厳が漂っていた。
「貴方がマスタードラゴン様だったのですか。」
「ああ、私が城を空けていた時にデュランに乗っ取られてしまい、力はボブルの塔に封印していたために、このようになっていたのだ。皆の衆大儀であった。」
偉そうだなと思いながらも、頭を下げるパパス達であった。
そして本題に入る。
「お前達はなんのようがあってここへ来たのだ。」
マスタードラゴンが尋ねてきたので、これまでの経緯と、魔界への行き方を単刀直入に答え、尋ねた。
「そうか、そのようなことが。私には二つ思い当たることがある。
その一つ目を話そう。
ここから北東の岩山の頂上に、建設中魔物達の大神殿がある。そこの教祖に聞くのが手っ取り早い。」
「では次の行き先はそこになるのですか?」
「そうだ。しかしその神殿は岩山の頂上にありこの天空城でも届かない位置にある。私がお前達をそこまで送り届けてやろう。」
「ありがとうございます。」
「よいよい。私も困っていたところだからな。それに礼でもある。しばらく準備があることと、お前達も疲れているところであろうから、この城でゆっくり養生するとよい。」
「ありがとうございます。」
パパス達は礼を言い、玉座の間を出ていこうとしたが、レイシアはまだようがあるということで、レイシアだけを残して玉座の間から退出した。
「レイシアお姉さん、なんのようがあるんだろう?」
「まあ色々あるんだろうな。」とパパス達が話していると誰かに呼び掛けられた。
「今はレイシアと言うのか。久し振りだな。あの時以来全く姿が変わっていないので驚いたぞ。」
「マスタードラゴン様もおかわりなく。」
「私のことはよい。ことの経緯を教えてくれるか?」
「はい。お話します。――――
「貴方がパパスさんですね。」
「ああそうだか、あなたは?」パパスを呼び止めたのは、神官服を見にまとった、天空人であった。
「私はこの城で司祭をしているエルーストと言います。パパス様方をお止めしたのはこれのことでして。」
エルーストは徐に、袋の中からなにかを取り出す。最初にそれに気付いたのはプオーンであった。
「ああっ、それはルドルフがくれた鍵だ。」
エルーストが袋らだしたのは鍵であり、ゲマに奪われていたものであった。
「やはり、皆さんの物でしたか。」
「ああ、私達が探していたものだが、それをどこで?」
「パパス様方が、ボブルの塔から出てこられる前に、ボブルの塔から飛び出してきたボロボロの魔物がおりまして、その魔物が落としていったものなんです。」
「そうなのか?その魔物はどうなったのだ?」
「ふらふらして、海に落ちていきました。」
「そうか。態々ありがとう。エルーストさん。」
「いえいえ、天空城を救っていただいたお礼ができてなによりでした。では。」
エルーストは鍵をパパスに手渡し去っていった。
「よかったなプオーン。大事にしておくのだぞ。」
「うん。ありがとう。あとこの鍵は世界中どんな鍵でも開けられるっていうから、必要な時があったら言ってね。」
「すごい鍵だな。分かった、その時が来たら頼む。」
パパスとプオーンが話す横でパピンが
「あれさえあれば、帰りが遅くなっても閉め出されることはなくなる。」
と誰にも聞かれないように呟いていた。
「―――ということがありまして。」
レイシアがこれまでの経緯を話すと、顔をしかめながら聞いていたマスタードラゴンは、重たい口を開いた。
「そのようなことがあったのか。あの時から未だにお前の旅は終わっていないのか。そのような大事に気付いてやれずすまなかった。」
「いえ、もうそろそろこの旅もハッビーエンドで終わると思いますから。」
「そうか。でそのことは、皆には話をしたのか?」
「…いえ、まだ…。いずれ話そうかと。」
「そうか。」
自然と玉座の間の空気が暗くなってきたのを悟ったレイシアは、
「では、私も体力を消耗しましたので退出させてもらいます。また後程、御助力のほどよろしくお願いいたします。」
とだけいい、お辞儀をして部屋を出て言った。
ということで、最後の鍵を手にいれたました。手に入れたらすることは決まっているということで、次の話ではパパス達が悪事に手を染めることになるのかもしれません。