パパス強化計画
場所は二階の会議室に移っていた。
会議室にはパパス王、レイシア、小太りの男サンチョ、小柄の男であるパパス王の弟であるオジロン、そして兵士長のパピンが集まっていた。
まずはレイシアが話始める
「まずは、パパス王の強化を考えたいと思います。」
とただしそれに対して兵士長のパピンが疑問を投げ掛けた
「パパス王の強化は分かりますが、このグランバニアには王の練習相手になるような者は存在いたしません。
また兵士が何人束になっても王にとってはお遊びにしかなりません。
軍師殿はどのようにしてその王を強化しようというのですか?」
サンチョ、オジロンもパピンの疑問について頷いた。
その疑問に対してもレイシアは微笑みを崩さずに言った
「まず王の修行(レベル上げ)の場所ですが、このグランバニアの南にある洞窟で行うことになります。
そこでの修行により王のレベルを最低でも50ほどにまで底上げしたいと思います。もちろん、私たち、サンチョさん、パピン兵も共に修行をすることになります。」
その発言にまたしてもパピン兵士長が尋ねる
「我々はその洞窟で修行すれば少しは強くなると思いますが、パパス王にとっては弱い敵ばかりで修行にならないと思うのですが。」
パピンがこのように言った後にサンチョがハッとして何かに気づき
「はぐれメタルか」
と呟いた。その発言を聞いたレイシアはその通りといった顔をし、パパス王は
「そうか」
と呟き、パピンも
「そういうことかと」
合点がいったという感じであった。
しかしパピンとサンチョには新たな疑問が生じパピンが代表して口を開いた
「はぐれメタルを倒した後に強くなる感じは経験したことがあるので分かりますが、あのはぐれメタルは固い上に素早さが異常に早い。果たして効率よく修行ができるでしょうか?」
とサンチョもそうですと頷いている。
確かにこの世界では魔物は倒して初めて経験になる、過程などどうでもいい世界なのである。
レイシアはまたその疑問に対しても想定内といった感じで口を開く
「はぐれメタルは確かに固く、早いのですが、あまり打たれ強くないことと、パパス王の特殊能力を使います。」
そのようにレイシアが言ったのち皆の視線が一斉にパパス王にむかうが、パパス王自身にもわかっていないようである。
そこでそれまで沈黙状態で聞き入っていたパパス王が尋ねる
「私の特殊能力とはどのようなものなのだ。私自身には自覚がないんだが。」
とまあ見るものが見ればパパスの全てが特殊能力とも見えるのだかそれはいいとして、レイシアは答える
「王の特殊能力とは、人間キャラではまずできないキラーマシンのような二回攻撃と、アリーナ王女や高レベルの武道家なみの異常な会心率です。」
レイシアは当然桁が違うと述べているのだが、パパスと共に何度も戦ってきたサンチョとパピンは
「そういえばそうだった」
ともうそれが当然のように感じていた最近の自分たちの認識、対応力に驚き、パパスはパパスで言われても
「そうなのか、皆と同じだと思うのだが」
と納得していない感じである。
そんな空気を仕切り直すようにレイシアが続ける
「その特殊能力ではぐれメタルを集中的に狙います。
会心の一撃が出れば一撃で倒せますし、会心の一撃が出なくても王が二回叩き、私たちも上手くいけば三回叩けます。
はぐれメタルはだいたい7発当てればたおせるので1ターンで逃げなければ倒せます」
自信ありげに話すレイシアではあるが、聞いているパパスたちにとっては意味が分からないキラーマシンやアリーナ王女、1ターンといったことを言っているが、聞いてはいけないことなんだろうこの世界的にはと思い、あえて聞かないことにした。そのことについてはレイシアの過去に所以があるのだが…
まあそんなこんなでパパス、レイシア、サンチョ、パピンの強化計画の指針は定まった。
しかしここで今までいたのかどうかも分からないぐらいに空気と化していたオジロンが少し言いにくそうに切り出す、
「レイシア殿はメンバーのなかで唯一の女性なのですが、男ばかりのメンバーに不満や不安はないのですか。」
確かにレイシアは女性であり年の頃でいえば10代の後半からいっていても20代前半、また女性のなかでもかなり美しい部類にはいる。自分以外全て男性では不安ではないのかというオジロンの疑問も当然である。しかしレイシアは動じることなく言った
「大丈夫です。王はマーサさんを、パピン兵士長も奥さんを裏切ることはないでしょうし。サンチョさんも紳士ですから私は信じています。
それに私には少々殿方にも効果がある『ジゴスパーク』や『れんごく火炎』といったちょっとした護身用の魔法もありますから。」
と、そのときのレイシアの爽やかな笑顔はパパス、サンチョ、パピンには大層恐ろしかったらしい。
まあいいことではあるのだが、レイシアは賢者ではなく、賢者の上位職の天地雷鳴師だったようだ。