男女逆転あいえす   作:かのえ

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唐突に思いついたんだ


番外 中学時代、夏の一時

「え、藍越をうけるの?」

 

 面談、それは世の中学三年生が受験を視野に入れ始めた夏頃から頻繁に行われるものである。いつもは中学生でいっぱいの教室も、今日だけは教師と生徒の二人っきり。

 外では炎天下じーわじーわとセミがのんきに愛を叫んでいるのだがそうとは感じさせないクーラーの効いた涼しい教室の中、優等生でかつ問題児の織斑一夏の発した言葉に女性教師は困惑した。

 

 織斑一夏は優等生である。それもこの一般公立中学にいれておくのにもったいないほどの飛び抜けた学力がありスポーツも得意というか剣道は全国レベル、あとおまけに家庭科で料理を作ると人だかりができるほどの家庭性を持つハイスペック男子中学生なのだ。ラノベでも見かけないくらいだわ、とはつい最近中国に帰ってしまった彼の友人の貧乳ツインテ。

 この女性教師、面談を心待ちにしていたようであるがそれはいま関係ない。

 

 織斑一夏は問題児である。顔立ちが人並みを遥かに超えて整っておりながらもその自覚がなく、世の女子中学生を悶々とさせる様々なアレコレ。また保護者は世界最強という敵に回した瞬間に裏世界でひっそりと幕を閉じかねない劇物。

 

 一夏が頭がいいのには理由がある。もともと前世みたいな何かがあるために知識だけは小学生の頃から相当量あったのだ。千冬も一夏が自分よりも勉強できるのがわかっていたために度々教えてもらっていた。ちなみに彼女の知るうちの最も頭がいい馬鹿はどうせ勉強を見てもらおうとしても

 

『今後卒業した後は絶対に役に立たない知識だし、んなことよりあそぼうよちーちゃん!』

 

 と言うのがたやすく想像できたために勉強を教えろなんて言うだけ無駄と千冬は考えていた。それで正しい。

 

 さておき、千冬にモノを教える以上はしっかりしようと考えた一夏が張り切った結果が今のこれである。普通の中学生で太刀打ちできるレベルではないのだ、たまにやらかすうっかりを除けば。やはり歴史上の人物の名前が違ってたりするのだけはまだ慣れないようである。

 

 話を戻して教室へ。

 

「学費と就職率が良いので」

「織斑くんならどんな学校にでもいけるのにもったいない。ほら公立なら授業料はなし、大学の進学率だって……それにお姉さんも普通の人よりも給料いいはずだよ?」

 

 以前に千冬と会話した時のことを教師は思い出す。聡い弟の事だからきっと学費を気にし高卒で就職をするつもりで大学を考えていないだろう、とそれとなく千冬が伝えたのだ。加えて彼女は言った、もし弟か妹があと一人いたとしても今の貯蓄だけで二人共大学まで行かせられると。世界最高てすごい、女性教師はそんな小学生みたいな感想を抱いた。

 

「分かってます。けど嫌なんです、俺が。姉にずっと養われてきて時間も使ってもらって……お金は確かにあると思うんですけど時間はそれに変えられないんです」

 

 そろそろいい人でも作って欲しいですし、と一夏は付け加えた。いい加減に恋人を家に連れてくるとかしてくれないと色々と不安であるようだ。

 

「姉はずっと俺のために時間を使ってきたんです。だから早く自由になって欲しいんです」

「……私には織斑くんの進路を強要できないから、とりあえず藍越を志望って思ってていいのね?」

 

 女性教師は思った。こんな弟がいてブリュンヒルデは幸せものだな、と。そして世界最強の女に自分は勝っている部分があるんだなと淡い優越感を抱いた。

 

 織斑千冬、年齢=彼氏のいなかった年。そろそろ茶化していられない――

 

「絶対男子校行くべきだって」

「あのなぁ、弾。俺には無理なんだって男連中と仲良くつるむのさ」

 

 その日の夕方、おじゃました五反田家でゲームをしながら会話する一夏と友人のこれまたイケメンな五反田弾。いままで色々と危うい一夏をどうにかこうにかここまで傷物にならず育ったその立役者である彼は、やはり感性のズレた一夏と大親友と言えるくらいにはちょっとずれた男だった。

 この世界で格闘ゲームをするのは大体女性である、というのに喜々としてそれらを揃えている彼はイケメンであるもののやや残念なひとである。

 

「なにも仲良くしろ、なんて言ってない。ただ連中から『普通の男の子』ってのを学んで欲しいんだよ、俺としては」

「ふつう、ねえ……」

 

 男同士で喫茶店とかそういったのに違和感しかない一夏とは程遠い言葉だった。

 このあとしばらく男子校行くべき、いや無理だという応酬が続いていたのだったが、それが止んだのは彼らのいる部屋の扉が開いてからだった。

 

「おにい! 私のゲームまた勝手に……って、一夏さん!?」

「や、蘭。お久しぶり」

 

 勝手にとられたゲームを奪い返しに兄の部屋に乗り込んだつもりが、昔から良くしてもらっている年上でかつ優しい理想的な王子様像を具現化したような一夏がいて彼女、五反田蘭は硬直した。それはもう数年前に兄が家に連れて来てから一目惚れみたいなものだったらしい。

 

「ああもう、とりあえず返してよね! じゃ!」

 

 バタン、と扉が閉じられる。二人でそこをしばらくじーっと見つめていたが弾が口を開いた。

 

「あにロリってどう思うよ」

「どうってなんだよ」

 

 一夏に馴染みやすく簡単に言うとおねショタみたいなもの。

 

「まあなんだ、ああ見えても良い妹だから嫌わないでやってくれ」

「嫌うもなにも、元気でかわいいとてもいい子じゃないか。弾にはもったいない」

「一言余計だ」

「将来男を尻に敷く良いお嫁さんになるんだろうなあ」

 

 ドアの向こうで聞き耳を立てていた彼女は顔を真赤にする。好意を寄せている男性から素直に高評価をもらえたからだ、だが最後の方の男を尻に敷くというのが少し理解できなかった。普通言うのであれば『女を尻に敷く男』が正しいのだ。

 もしかして一夏はそういう女性が好きなのだろうか、見るからに女性を優しく包み込んで甘えさせてくれる年上のお兄さんなのに、好みはそういう強引な女性なのだろうか。蘭は純真な妹系キャラから路線変更をするべきか真剣に悩み始めた。

 

「いやそれってどうかと思うよ、やっぱ女は男に優しくするもんだろ。やーっぱ一夏はズレてるよなあ」

「……そうかな」

 

 女を尻に敷く男が一部どころかけっこう需要があるらしい、そんな世界で一夏は何度目かわからない思わず出てしまう前世との価値観の違いに小さくため息をつくのだった。




連休(休んだとは言ってない)終わりの疲れた頭の勢い、矛盾とかしらんべ

・脳内メモ帳にあるネタ集
篠ノ之束はショタコン?(匿名掲示板系)
織斑千冬は処女なのか(匿名掲示板系)
ラウラ・ボーデヴィッヒは弟がほしい
織斑マドカは千冬となり変わりたい
更識簪はヒーローである
シャルロット・デュノアは男の娘(男っぽい女のこと、ややこしい)

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