『
敵に向けて駆け出し、俺に先んじて加速したアルトリアが、小手調べとばかりに正面から斬り払おうとした直前。
「オオオォォォオオオラッシャアアアア!!」
そんな雄叫びを上げながら、全身を炎に包んだ道着姿の男が、横合いからダンガ・ルヘイアへと跳び蹴りをかましたのだ。
蹴りがヒットした瞬間、その箇所が爆発して、男はその反動を利用するように後ろに飛びすさって着地し、こちらに顔だけを向けて「っつー訳で、オレも参加させてもらうぜ!」と言い放つ。
どんな訳だと思いつつも、別に止める権利は無いしなと「ああ、よろしく」と返し、取り敢えず名前だけでもと名乗って伝えると、向こうからは「オレのことはガンテツって呼んでくれや!」と返ってきた。
その直後、地面が揺れる感覚と共に、轟音が鳴り響く。
ガンテツの攻撃から立ち直ったダンガ・ルヘイアが、その彼へ向けて突進し出したのだ。ただ走るだけでなんて振動と音だ。
ガンテツは、ダンガ・ルヘイアが弱点とする火を全身に纏っている。それでもなお彼に向かうってことは、余程先程の攻撃が気に障ったのか、明確に脅威となり得るものを排除しようとしているのか。
鈍重そうな見た目に反して凄まじい勢いで突っ込んでいくダンガ・ルヘイア。一方でガンテツも、突如彼の足下が爆発したと思ったら、こちらも凄まじい勢いで空中を吹っ飛んで移動し、ダンガ・ルヘイアの突進を躱す。……あれは、爆発を推進力にしているのか。
ガンテツは空中で一回転すると同時に再度爆発を起こし、
その爆煙が晴れる間もなく、一連の攻防の間に肉薄していたアルトリアが、その横面を
この瞬間を狙って上空に上がっていた俺は、取り出していたヘビーブレイカーを、急降下の勢いに載せて脳天へと──叩き付ける!
ガァン!! と、こちらも凄まじい音を立てたものの、アルトリアが斬った部分含めて“斬撃”として通じたようには見えない。
「ゴォアアアアアアア!!」
恐らくは怒りだろう咆哮を上げたダンガ・ルヘイアは、後脚の二本で立ち上がると、上から攻撃した為に足下に着地している俺に向けて、覆い被るように踏みつけてくる。
──ズズンッと、地震のような振動を巻き起こしたそれを、横に低空飛行して躱し、追撃に振るわれた長い鼻による殴打をヘビーブレイカーを盾にして防ぐ。
凄まじい衝撃に剣を落とさないようにしながら、その勢いを利用して距離を取ると、俺の方へとダンガ・ルヘイアがその長い鼻を向けてくる。
その直後、鼻の中程がボコりと膨れ──ドンッっと音を立てて撃ち放たれたナニか。咄嗟にラウンドシールドを斜めに張って受け流すが、衝撃はあれど弾丸は見えない。
……と、再度ドンッドンッと二連で音が聞こえ、反射的に躱した直ぐ側を衝撃が通り過ぎ、後方に着弾──リザードマンと『プレイヤー』の悲鳴が聞こえた。
なるほど、圧縮した空気か、風弾か、衝撃波……その辺の攻撃か。遠距離攻撃まで持っているとか勘弁してくれ。
とはいえこうなると、狙われたまま離れるのは得策じゃないか……と思ったのはアルトリアも同じか。俺を狙ったために彼女から離れていたダンガ・ルヘイアに再度接近すると、恐らく敵の標的を自分に向けさせようとしてくれているのだろう、怒濤の勢いで攻撃を加え出す。
ダンガ・ルヘイアの標的が彼女に移ると、アルトリアは今度は先程とは変わって細かく立ち回りながら、振るわれる鼻による殴打や捕縛、牙による刺突や噛み付き、踏みつぶし、体当たりを躱しながら、カウンター気味に幾度も攻撃を加えていく。
暴風のような攻撃の応酬の中、アルトリアが振るった一撃が、ダンガ・ルヘイアの長い鼻とぶつかり合って互いに大きく弾かれ──その瞬間、弾かれた鼻にバインドを掛ける。
力尽くで破られるまでの僅かな時間だが、身体の一部の動きが強制的に止められたことで、連鎖するように顔の動きも止まる。その瞬間を狙い、顔面──特に眼を集中的に狙ってフォトンランサーを連射。
残念ながら全て貫く事無く弾かれるが、それでも一瞬視界を封じることが出来た。
そこに飛び込む炎を纏った男──ガンテツ。
彼はダンガ・ルヘイアの顔の真下から、アッパー気味に拳を振り上げて殴りつけ、そのまま空中で爆発を推進力に蹴りを入れ……認識できたのはそこまでだ。その後も数発……だと思うが、攻撃を加えて、その打撃の全てに爆発が巻き起こり、ダンガ・ルヘイアの頭部が炎に包まれる。
これで終わってくれれば楽なんだけど、そうは行かないよな……と、炎に巻かれたままガンテツを踏みつぶそうとしたダンガ・ルヘイアの足をバインド。数瞬の隙にガンテツは離脱したが、直後ダンガ・ルヘイアの足が地面に叩き付けられ、その重量によって引き起こされた地震に足を取られて動きが止まった。
その彼を食い殺そうと、ダンガ・ルヘイアの顎が迫り──そこに割り込み、口と垂直になるように構えたヘビーブレイカーを盾にして防いだ。
「ワリぃ!」と言って離れたガンテツを追おうとしたダンガ・ルヘイアだが、その足が轟音と共に弾かれた──アルトリアだ。
転倒はしなかったが、歩みは止まる。
その直後、ダンガ・ルヘイアの側面に、飛来した無数の炎の蜂と赤熱した矢が叩き込まれ、連続した爆発が巻き起こった。
今のは佐々木君と瑞希の援護射撃か。有り難い……けど、二人にダンガ・ルヘイアのターゲットが向かないようにしないと。
俺は爆煙立ちこめる敵の懐に飛び込み、ヘビーブレイカーを振るった。
◇◆◇
──グラス・リザードマン達の部隊のうち、前衛と中衛は一つに合流して『プレイヤー』達と乱戦に入っており、戦局は『プレイヤー』達が優勢。そのため本隊はそちらに向けて矛先を向けている。
一方で葉月達一部の『プレイヤー』とダンガ・ルヘイアとの戦いは、葉月達が奮戦しているものの膠着気味である。
ダンガ・ルヘイアの機動力と防御力は葉月達の想像以上に凄まじく、攻めきることが出来ていない。とは言え彼等がダンガ・ルヘイアを押さえ込んでいることは事実であり、彼等が崩れた瞬間、ダンガ・ルヘイアは『プレイヤー』達の元へと突き進み、リザードマンごと『プレイヤー』達を蹂躙することになるのは明らかだ。
だからこそ、リザードマン達の本隊は、今現在戦闘に入らず様子見に徹しているのである。今『プレイヤー』達との戦闘に入ったとしても、その直後にダンガ・ルヘイアが来た場合、大きな被害を受けることになるからである。
であるが故に、リザードマン達は、少しでも早くダンガ・ルヘイアを戦場へ入れようと動き出した。
グラス・リザードマンの本隊から一部隊が離れ、ダンガ・ルヘイアの方へと進み始める。
数は50程であり、うち30体は、羽冠に長い杖を持つ、魔法を使うグラス・リザード・シャーマン達であり、残りの20体も
相手は人もリザードマンも構わずに捕食し、暴れる巨獣であり、近づけばただでは済まないのは明白。であるが故に、リザードマン達の「横槍」も遠距離が主となるのは明白である。
そしてそれを率いるのは、その部隊の中でも一回り体格の大きなリザードマンであり、その頭に被る羽冠や、身体に羽織る鳥の羽を模したようなローブ、そして杖もまた、他のグラス・リザード・シャーマンよりも豪奢なものを身につけていた。
敵の本隊の存在はよく目立ち、そこから遠距離攻撃部隊が動き出したことは、後方の防衛陣地に控える者や前線で戦う『プレイヤー』達も当然気が付く。そのうちの一人が「おい、アレ、不味いぞ……」とつぶやき──その直後眼に入った光景に、思わず「……は?」と声を漏らした。
然もありなん。それを漏らした彼が見たのは、ダンガ・ルヘイアの方へと進むリザードマン達の部隊に向けて、ゆっくりとした足取りで向かう一人の
彼女が進むのは、丁度敵も味方も居ない空白地帯であったために、双方からよく目立つ。
「なんであんなところにメイド?」
「アレってあの時の咲夜さんじゃね?」
「セイバーの次は咲夜とか、コスプレ会場かよ」
「あの娘すげー可愛いんだけど……ってかあんな子さっきまで居たか?」
「おい一人にするとかパーティメンバーなにやってんだ!」
「トカゲが三匹……足止め、というよりは排除しに来たって感じね」
ひとしきり観察したあと、再び何気ない様子で歩き出した。
自然と互いの距離は詰まり、ある程度になったところで、リザードマン達は咲夜に向けて駆け出して──ストンッと、それぞれの顔にナイフが突き刺さり、前方に転がるように倒れて魔力の霧へと還った。
その頃には既に咲夜の姿は、リザードマン達が居た場所の先に有り、リザードマン達に刺さっていたはずのナイフも消えて無くなっている。
何のことはない。時間を止めて、近づいて、ナイフを投げて、時間を動かした。そしてリザードマン達は突如出現したナイフに反応出来ずに突き刺されて終わった。ただそれだけである。
そして今の一連の攻防とも呼べない攻防を受け、グラス・リザード・シャーマン達の部隊は浮き足立つ。
無理もなかろうか。ノコノコと近づいてくるひ弱そうなニンゲンを仕留めに行った戦士達が、何の抵抗も出来ずにやられてしまったのだから。
そしてそんな大きな隙を彼女が見逃すはずもなく──リザードマンの部隊へ向けて、咲夜が地を蹴った。
今までとは打って変わって、凄まじい勢いで駆けてくる咲夜に対し、部隊長である大柄なグラス・リザード・シャーマンが慌てて攻撃の号令らしき声を上げた。
それに応じ、シャーマン達が遠距離攻撃魔法を連射する。
主に撃ち出されるのは水弾、それに氷弾や岩弾が混ざり、まるで雨のように咲夜へと降り注ぎ──
「まったくもって薄い弾幕ね。この程度で怯むとでも思っているのかしら? 見栄えも悪いし……って、弾幕ごっこじゃなかったわね、これ」
スルリと、咲夜はその弾雨の中を、一瞬たりとも脚を止めることなく駆け抜け、トンッと軽やかに飛び上がると、そのままリザードマンの部隊の上空へと舞い上がる。
「それじゃあ、これはお返し。特別に幻想郷のルールでやってあげる。
スペルカードの宣言がなされ、それに記された
最初に放たれた霊力による弾丸は、花のように華やかに広がり、そこに重ねるように大量のナイフが出現する。
時間停止中に放たれたナイフは、一瞬の停滞の後に、霊力の弾丸と共にリザードマン達へと降り注いだ。
特定の規則性を持って撃たれるその攻撃は、端から見れば“美しさ”をも伴う“弾幕”であり──一方で標的にされたリザードマン達にとっては、正に悪夢と言えるものであった。
スペルカードに記された弾幕は、一度では終わらないのだから。
──その光景を見る余裕があった者達は、揃って愕然とした表情を浮かべていた。
弾とナイフの嵐が過ぎ去った時、50体弱居たグラス・リザードマンの遠距離攻撃部隊は、そのほとんどが地に倒れて魔力へと還っていくところであり、五体満足で地に立っているのは、指揮官である大柄なグラス・リザード・シャーマンのみであった。
それを見て咲夜は「あら?」と首を傾げ、試しにナイフを一本投げつけてみると、相手に当たる直前で何かに弾かれたように防がれる。
どうやら魔力か何かによる障壁のようだ、とアタリを付けた咲夜は、「行きなさい」と一言告げる。
それに従い、ふわりと出現した付喪神の小剣が、分裂しながら指揮官のグラス・リザード・シャーマンへと突き進み──障壁に着弾と同時に、連続で爆発を起こす。
必死に耐えているのだろう、「ギシャアッ!」と苦悶の声を漏らすグラス・リザード・シャーマン。
そして幾度かの爆発の後に、とうとう限界が来たのか、バギンッと音を立てて障壁が砕け散る。
その瞬間、グラス・リザード・シャーマンを四方八方から取り囲むようにナイフが出現し──障壁を再度張る間もなく、全身からナイフを生やして絶命した。
※※新たな【称号】を獲得しました!※※
『討伐者・竜言の呪霊師』:ネームドモンスター『