最近ハーメルンで面白いFateの小説が多くて非常に嬉しいです。
正直面白すぎてそっちの更新を待ち侘びているという、自分の書いている小説に申し訳ない限りです。
言峰は俺の聖杯戦争を助けると言った。
そしてその内容は、おれが予想だにしない物だった。
「私は聖杯戦争の監督官という責を担っている、これを乱用することは出来ないにしても、お前に闇を施すことは出来る」
「闇を施す?」
「あぁ、お前という存在に対する知識は誰よりも持っている私も確認したいことがある」
「やめろ気持ち悪い」
何処の誰が似非神父に誰よりも君に詳しいんだって言われて喜ぶ奴がいるのか。
「お前の現在のスペックの確認だ、衛宮士郎の魔術回路は二十七本、平行世界の自分と混ざり合ったその身体は魔力を平行世界から引き出すことが可能であり、投影においては平行世界の自分の記憶を共有しているため尋常ならざる種類の刀剣を投影可能である」
「あぁ、あってるな」
「次に確認したのは共有している記憶が何処までの物かということだ」
「…待ってくれ、少し確認してみる」
俺は自分の内にある記憶へと意識を投げた。
自分に近しい可能性は何もせずとも読み取ることが出来るが、余程の未来となるとかなりの時間を必要とする。
――――記憶――――聖杯戦争―― ――その未来―――死―――後悔―――
…?
何だ?聖杯戦争の結果?とでも呼ぶべき記憶だけが読み取れない。
セイバーと一度ギルガメッシュを撃退して…その後は?
遠坂とセイバーと一緒に柳洞寺の階段を上りアサシンと戦って…その後どうなった?
桜を助ける為に言峰を下して、その後俺はやりきることが出来たのか?
だめだ、聖杯戦争の結果から三年近い部分は読み取ることが出来ない。
「一部箇所、読み取ることが出来ない物があるみたいだ」
「そうか、よし、次に移るぞ」
「あぁ」
「衛宮士郎、私が今日からお前の家に住み込みで魔術を教えよう」
「魔術を?」
「あぁ、お前の属性や起源が『剣』であることは知っている、しかしお前には衛宮切嗣が残した魔術刻印があるはずだ、激しい痛みの中でその身に定着させたせっかくの物だ、利用しない手は無いだろう」
確かに、魔術刻印を移植した時、俺は何度も痛みを抑える薬を飲んでその痛みを抑えた。定着するまでそれほど時間が掛からなかった理由は良くわらからないが、切嗣が『あの時士郎に僕の宝物をあげて良かったよ』と言っていた辺り、
「それ以外にもいくつか剣を利用した魔術…いや、戦闘方法を知っている、それを教えてやろう」
「とはいえ俺は強化と投影ぐらいしか…」
「安心しろ、幾らお前でも魔力を流し込むくらいは出来るだろう、お前に学んでもらうのは投擲の技法だ」
「投擲の技法?」
「そうだ、私が代行者として教会の任を担っていた際に使用していた武器で黒鍵という物がある、魔力を流し込むことで刀身が現れる物でな、そのまま剣戟を交える為に使用することも出来れば投擲に使用することも出来る代物だ」
便利な物もあるものだと感心しながら俺は毎朝の食卓を言峰と共にすることになる地獄を想像して軽く吐きそうになった。
「そういえば言峰、アンタさっきこの世界の言峰とは別の存在…みたいに言ってたけど」
「あぁ、私は現在この世界に二人いる、一人は勿論この私、そしてもう一人は未来を知らぬ私だ」
思わぬ事実に言峰が二人一同に会した所を想像して恐ろしさに鳥肌が立つのを感じる。
「これまで何故か私自身と会うことは無かったが、実際に出会うことがあれば何が起きるかは分からないな、私であれば…まぁ、ロクなことはしないだろうな」
「自分がどう行動をとるのか分かるのって結構嫌だな…」
「最も、現在の私は私のことは知っているがな」
「それは…どういうことだ?」
「当然だろう、生贄の事と言い私が動かなければどうにもならないこともあったのだ、子供達を別の街に移す際はもう一人の私が出張中に手筈を整えた、その結果、覚えのない出来事にもう一人の私が真面目に記憶障害を患ったのではと疑いを持っていたがな」
「ギルガメッシュは?」
「彼には気付かれているさ、しかし彼の本質を考えれば分かること、彼は私の行動ももう一人の私が困っているのもどちらも鑑賞している様だ」
「あぁ、そういえばそういう奴なんだっけか…」
俺と言峰はとりあえず確認したいことなどを終えて、二人揃って冬木の教会を出て俺の家に向けて歩き始めた。
……そして。
「し~ろ~う~?私はさぁ、そりゃ常々不純異性交遊は控えなさいって言い聞かせてきたわよ?」
衛宮家食卓にて、俺は現在藤村大河こと藤ねぇに正座をさせられていた。
「でもね、だからって男に走るのは間違ってると思うの!!」
そう、酷い誤解を伴って。
「違う、良く聞いてくれ藤ねぇ、俺は決して男に走ったわけじゃない」
「そんなこと言ったって現状はどうよ!?高校生になって同居人が増えるって言うから士郎のことだしまた女の子でも引っ掛けて来たのかなって思ってみれば連れて来たのは男性よ!?しかも良い声していて士郎のことも良く知ってるみたいだし!!」
まぁ、その点は俺も引いた。
第一声が『衛宮士郎のことならば貴女よりも知っています』だからな、藤ねぇも開いた口が塞がらない様子だったし。
「お姉ちゃんは士郎をそんな子に育てた覚えはありません!!」
「育てられた覚えも無いけどな」
いや、正直なところ育てられたといって良いだろう。それに感謝もしている、切嗣が亡くなった後、藤ねぇがいなければ間違いなく俺は―――。
「うえ~~~ん、切嗣さ~ん、士郎がグレちゃったよ~!」
年上の女性の涙目という普通であれば胸にクル物があるハズなのに、藤ねぇの場合はそういう物が一切無い、不思議だ。
俺が藤ねぇの相手で苦戦している中、言峰は…。
「間桐桜、夕飯を作るのであれば手伝おう」
「えっ」
……まさか、いや、考えすぎだ。
確かにアイツは
居間から移動して縁側へ、腰掛けて星の中に輝く月を見上げる。
家に移動するまでに言峰から確約を貰った情報。
「聖杯戦争は高校最後の冬…か」
俺の知る聖杯戦争よりも一年遅い開始、元々、可能性の中からそうなるであろうことは予想で来ていた。
しかし、その何処にも言峰の助けがあるものも、葛木の修行を受ける物も無かった。
それが意味するのはこれまでの俺が知る聖杯戦争とは違う物になるであろうということ。
そして、今回は俺も正式にマスターとして参加しようと思っている。
俺の召喚に応じて来てくれるのがセイバーであればいいけれども、それは分からない、俺以外の誰かがアルトリア・ペンドラゴンの聖遺物を所持していれば結果は変わるかもしれない。
「葛木…さんとの修行も切り上げなきゃいけないな、結構楽しかったってのが複雑な心境だ」
確りと学んだその技術、戦いと呼ぶには血の匂いが染みついた技術だった。
「単独での魔術修行も結構良い出来だし」
戦いながら周囲に刀剣を展開して奇襲、展開位置を相手の足元に合わせての奇襲、奇襲ばかりだと思うけれども展開速度を活かした戦いをするならば最高のやり方だ。
「でもその前に、言峰がいるのなら桜の刻印虫を無くしてもらったりも出来るな」
苦しみから解き放ってやりたい、あの虚無を体現したかの様な桜の姿を見ない為にも。
「今度はイリヤも助けたいし、やることは一杯だな」
もしもアインツベルンが二年の冬に合わせてイリヤをこちらに送り込んでいるのなら聖杯戦争が始まる前に接触できるかもしれない。
それに、もしも
「あの未来は…」
黒き騎士王との一戦を思い出す、摩耗していく記憶と感情の中で放った鶴翼三連、あの戦いは、叶うならばもうしたくない。
自分が苦しいからじゃない、セイバーが悲しいからじゃない、あの未来に至るということは、その過程で何人もの犠牲が生じるからだ。
だけど――――。
あの戦いの最中、感じた高揚を覚えている。
セイバーと剣を交えることが出来ていたという事実、戦いの中で昇華していく己の力量、それが何かを犠牲にした物であっても、憧れの存在と切り合う事が出来ていたという事実に、俺はあの時。
「違う…求めて何かいない、求めてなんかいないんだ」
ならば何故、そんな考えが過ったのか。
戦いを求めている?勝つことを求めている?
もしかしたらそうなのかもしれない、俺に集まった
なら、俺が戦いを求めることも―――。
「違う、違う違う違う!」
正義の味方であるならば平和を願え、いや、正義の味方で在りたいのならば戦いの中に身を置かなければいけない?
ならば、争いは必要な物。
「違う、違うんだ…」
否定しながらも、その理由は出てこない。
俺はそれを、考えない事にした。
それが逃げるという意味であることにさえ目も向けずに。
訂正個所 感想でご指摘いただいた黒剣→黒鍵
ご指摘ありがとうございました!