Fate/Endless Night   作:スペイン

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第5話 間桐桜

 一年が経った。

 

 葛木との稽古は毎日と言っていい程に行っている。

 今では俺が竹刀を使うことを許され、葛木は手加減無しの攻撃を放つようになった。

 

「衛宮は目がいいからか対応するのは早いが習得するのは時間が掛かる、だが、出来ないワケでは無い、鏡に映った私の動きをなぞるのでは無く、己の型に嵌めて習得することが出来ているのだ、猿真似よりは数倍マシだ」

 

 なんて、褒められたりもした。

 嬉しくて頬を掻いたのを覚えている。

 

 一年も経てば中学も卒業するわけで、俺は桜並木を一成と歩きながら中学の門をあとにした。

 

 時の流れに逆らうことも無く高校一年生になって勿論弓道部に入った。

 桜とも知り合うことが出来た…けど、その出会いは弓道部での出会いでは無く慎二に家に誘われた際に偶然出会い、その時は記憶を消されることも無く普通に会話をしたりした。

 

 出会いは間桐の家。

 

 桜と明確に交流を持つようになったのは弓道部に入部してからだ。

 

 

 

 

 

「ふぅ…」

 

 俺は弓道場で射を終えて集中を切った。

 やはり集中力の鍛錬に弓道はもってこいだ。

 

 気が付けば汗が垂れ、顎から落ちて足元に小さな水溜まりを作っていた。

 何分くらい射ていたのか覚えてもいない、実戦を想定して背中に矢筒を背負っていたのが負荷を掛けたのだろうか?

 

「痛っ…」

 

 不意に痛みが肩を襲った。

 あぁ、そういえばバイトで肩を火傷したんだったか…。

 

 集中している時に影響は出ないけれど、日常生活ではこの地味な痛みに悩まされそうだな…。

 

 授業を終えて放課後、俺はもう一度弓道場に来ていた。

 弓道着に着替えると火傷の後が服の隙間から見えて少し不格好だった。

 

 そして、

 

「おい衛宮、なんだよその傷…火傷か?見苦しいんだよ」

「慎二…そうは言っても弓道着じゃ隠せなくってさ」

 

 間桐慎二、高校に入ってから一気に性格が変わったというか…当たりが強くなったというか、色々な可能性を見てきたけどその理由は曖昧だ。

 大方、臓硯に俺が衛宮の性を持っている事から魔術師だと言われて警戒なり嫉妬なりしているんだろうけど…慎二には慎二の良い所があるっていうのに。

 

 とはいえ慎二は間桐の血筋、魔術師であることが当然の家系で魔術の才が無いとなればそりゃ劣等感も覚えるよな。

 

 俺だって、同じ魔術師なのにって遠坂や切嗣が羨ましく思えるから、少しだけその気持ちは分かる。

 

「隠せない~?ならその見苦しいものを見せない様にする手段なり考えればいいだけじゃないのかよ!?」

 

 だけど、境遇も違う慎二の気持ちを俺が分かるなんて言うのはおこがましいことだ。

 

「ならどうすればいいんだ?」

 

 だから―――。

 

「そんなの簡単だろ?衛宮、お前弓道部やめろよ」

 

 これは仕方のないことなんだ。

 

 

 

 そうして弓道部を辞めた俺は、慎二との接触が極端に減った。

 そんなある日、俺の家に桜が来たんだ。

 

「衛宮先輩、怪我が酷くて生活が困難だと聞きました、お手伝いさせて下さい」

 

 これもきっと臓硯の指示、慎二が監視することが出来なくなったから桜を向かわせたって所だろう。

 でも、この日俺は嬉しかったんだ。

 

「士郎~、朝ご飯まだ~?」

 

 俺の姉…的な存在の藤村大河。

 

「え…?藤村先生?」

「ぬぉおおおぉおおおおお!?士郎が朝から美少女を家に招き入れて私を追いだそうとしてるぅぅううぅうう!!」

 

 そして、今はまだ笑顔を見せてくれないけれど、柔らかい笑みをいつかは浮かべる間桐桜。

 

「はぁ~、とりあえずサ…間桐も上がってくれ、今朝食の支度をするから藤ねぇと居間で待っててくれ」

 

 最後に、俺。

 

 この三人で過ごす時間がまた流れ出したってだけで、嬉しくて頬が緩んだ。

 

 

 

 

 三カ月も経つ頃には桜が笑顔を見せる様になった。

 偶に顔を出す弓道場で桜は笑顔を見せないけれど、俺の家に来ると必ずと言っていい程最近は笑顔を見せてくれる。

 

 やっぱり、桜には笑顔が似合う。

 

 そうそう、遠坂とも話す様になった。

 きっかけは一成、生徒会に入った一成の仕事を時折手伝っていた俺は、ある日遠坂が受け持ったクラスの仕事が多すぎると言うことで一成に頼まれて手伝うことになった。

 

「衛宮君、いいわよ私がやるから」

 

 なんてぶっきらぼうに言う遠坂を見ていると被っている猫を暴きたくなるけれども我慢だ。

 

「いいんだ、俺がやりたいんだから、それに、一人でやるよりも二人でやった方が効率もいいだろ」

「…それなら、まぁ」

 

 利点をチラつかせればお固さも解れる、やっぱり遠坂の本質は大きな猫を被ってもはみ出るくらいに尖っている。

 

 そうして、昔と同じ日々を過ごし始めた俺は青春とも言える時間を謳歌した。

 

 だけど、それは同時に近づいてくる足音を感じさせる物でもあったんだ。

 

 高校三年生の冬、後二年と半年で時はやってくる。

 

 

 

 

 俺にとっての運命の出会いで、誰かにとっては止まっていた運命が動き出すタイミングで、誰かにとっては―――。

 

 

 ―――綺麗な冬の、夢の様な一時を映し出したステンドグラスが壊れ始める物語。

 

 




次回更新は年明け…かな?
小旅行に行ってまいります、私を蜂蜜酒が待っている。

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