Fate/Endless Night   作:スペイン

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二十四話 日常は戻らない

「ただいま」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?桜?」

 

 家の中は静かで、誰もいなくて、何故だか、俺の日常が崩れ去った、そんな気がした。

 

――――――――――――

 

―同時刻 アインツベルンの森―

 

「さてと、セイバー、衛宮邸に行くわよ」

「そう、ですね…衛宮の家にまだ誰かが住んでいるのだとしたら血縁者、または縁のある者の可能性が高いので警戒するに越したことはありません」

 

――――――――――――

 

―同時刻 ビジネスホテル304号室―

 

「…私も動くとするか、考えられる最悪を除く為にも、衛宮士郎には聖杯戦争で勝利してもらわねばならないからな」

 

――――――――――――

 

―10分前 衛宮邸―

 

「機会…ですか?」

「その通り、このままでは貴様は失う、それが大切な物かは知らないが、そのように幸せそうな顔をして後に絶望を見せた者を我は万と知っている」

 

その言葉には説得力がありました、嘘偽りでは無く、真を言っているのだと確信できる程の…

 

「既に気付いているのだろう?我は英霊(サーヴァント)、現状でマスターは持たぬ英霊(サーヴァント)だ、そして小娘、貴様もまた…」

英霊(サーヴァント)を持たないマスター、ということですか」

 

 何が言いたいのか、実に少ない言葉数でしたがそれは伝わりました。

 ですが、先輩と一緒にいられる時間が増えた今、英霊を持つ利点を見出すことが私には出来ません、後は告げるだけです、先輩に私がライダーを失ったことを。

 

「申し訳ありませんが私はマスターとして参加するつもりもありません、元々私がマスターになったのは誰とも知らぬ人がマスターになり聖杯戦争に巻き込まれるのを防ぐためと先輩に頼まれたからです、始まってしまえば私はただ死なない様に生き抜くだけです」

「ほぉ…真にそれで良いと?」

 

 彼は続けます。

 

「聖杯戦争も始まって数日、その先輩とやらはこれ程までに早く英霊を失うことを想定していたとでも?」

「それは…」

 

「我が家臣に任を任せるのであれば、己が目でその活躍を確認せねば安心なぞ出来ようも無い」

「…ッ」

 

 確かに、これ程までに早く英霊を失ってしまえば、私は自衛の手段を失ったに等しいです。

 それが分かれば先輩はきっと、優しいから…私を守ってくれようと動いて下さるでしょう。

 

 ですがそれは、先輩に迷惑を掛けることと何ら変わりありません。

 

「そこで機会を与えてやろうと言うのだ、我と契約しろ小娘、我は最強の英霊、貴様の持つその並外れた魔力があれば、我は貴様に勝利をもたらす事が出来ようぞ」

「私の願いは…勝利ではありません」

 

「…ふむ、ならば我は時が来れば貴様の下を去ろう、その時も貴様が決めれば良い、先輩とやらと相談することも良しとしよう」

 

 破格の条件、こちらに得こそあれ、向こうにとってはいきなり切り離されるかもしれない条件でした。

 

「何、自害でも命じれば良い、そうすれば我は座に戻る形になる」

 

「分かりました、貴方と契約を交わすか…考えさせていただきます」

「否、この場で決めろ」

 

 先輩の、お役にたてるなら、先輩の、迷惑にならないと言うのなら。

 

 私は、ただ頷きました。

 

 

 

「では、契約だ、この場で行っては上手くいかぬかもしれん、より魔が充実した場所…冬木の教会へ赴くぞ」

 

 

――――――――――――――――

 

 夕飯の支度は途中まで済ませてあるが、火は止めてあるし連れ去られたというワケでは無さそうだ。

 そうなると用事が出来た…といったところか?

 

「まぁ、藤ねぇもそろそろ来る頃だし後は俺でやっちゃうか」

 

 刻み途中だったネギを刻み、かつおで出汁を取った湯に味噌を溶かして具を入れる。

 書き置きも無くいなくなるなんて余程の急用だったのだろうかと寂しさと疑問を抱きながら調理を進める。

 

 明日の夜の事を想い、埠頭がどんな地形だったかを思い出してみる…。

 

 いつくかのタンカー用クレーン、積み上げられた大量のコンテナ、停泊している船があるかは分からないな。

 運搬用に常に開けられたスぺーズがあったりフォークリフトがあるのは覚えている。

 

 南に海、北に陸地を持つその場所は夜であろうとも作業用ライトが多く建てられている為に暗がりを知らない。

 

 向こうは俺の奇襲を望んでいるかのような発言をしていた。

 それならば望み通りに奇襲を掛けるべきだ。

 

 …さて、どう攻めた物か。

 

 思考の隙間を埋めるかのように、音が響く。

 呼び鈴?俺の家に来る人で呼び鈴を鳴らす人なんていただろうか?

 

 まぁいい、とりあえず出るしかないな。

 

 スライド式の玄関を開けて、訪問者を出迎える。

 

 するとそこには、紅と青がいた。

 

 カシャンと、思考が切り替わる音がした。

 二人の女性、

 

 

 

「やっほー衛宮君、お話したいんだけど上げてもらってもいいかしら?」

 

 

 

 

 いや、(マスター)がそこにはいた。


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