Fate/Endless Night   作:スペイン

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第3話 柳洞一成

 可能性を読み解いていく。

 

 俺が辿るであろう可能性の断片を読み解いていく。

 

 そして知ることが出来た、残酷な真実。

 

「桜は、聖杯戦争(あの中)じゃないと助けられないのか?」

 

 砕けた俺の中に、慎二とかなり早い段階で知り合って家に行き、桜と知り合う俺もいた。

 しかし、何故かその俺は間桐の家に行った後に『間桐の家に行った』という事実は覚えていても、何をしたとか、何を見たとかということは忘れていた。

 

 おそらくは魔術、間桐の家に行き、見なくてもいい物を見てしまうのだろう。

 そして、その可能性の先には桜と疎遠になる物まであった。

 

 時期が悪いのか?それは分からない。

 

「クソッ…一から形成していく他ないか」

 

 また、あの弓道場で桜と仲良くなる。

 それ以外の方法が思い浮かばなかった。

 

 いや、いっそのこと間桐の家に攻め込んで…ダメだ。

 可能性の中にいた、そういうことをした俺が。

 

 しかし、結果は簡潔なもの、気付かぬうちに殺されて終わり。

 俺一人では明らかに力不足、どれほど力を付けようとも、一人で乗り込むには危険だった。

 

「遠坂には話しかけようとしても怒った様な感じで素通りされちゃうし…」

 

 偶然街中で遠坂を見かけて、コレといった話題も考えずに話しかけようとしたら何処かに行ってしまった。

 

 やっぱり、遠坂も聖杯戦争(あのとき)じゃないと親しくなれないのだろうか?

 

「どうにかしたいって言うのに、手詰まりばかりだ」

 

 間桐の闇の深淵には手が届かず、力を借りたい女性にはスルーをされる。

 

 中学三年生の衛宮士郎、悩みの時だった。

 

 

 

 しかし、転機が訪れる。

 

「おぉ、衛宮、息災であったか」

 

 GW(ゴールデンウィーク)明けの良く晴れた五月の昼下がり、屋上で昼食を摂っていた士郎の前に眼鏡を掛けた青年が現れた。

 

 柳洞一成、魔術に関わりは無いのだが、住まいは柳洞寺という冬木の土地でも龍脈の集まる場所に住む住職の息子だ。

 俺の知る可能性の中では高校一年生の時に知り合うはずだったのだが、平行世界(ゆえ)か少し事情が違うようで同じ中学だったことから話しかけ、良い友人として青春を共に送っている。

 

「一成、息災も何も五日ぶりだろ?」

「む、確かにそうだが健康を尋ねるのに時期は関係あるまい、健康であるということはそれだけで幸せなことなのだから友の健康を喜ぶ為にも確認したいことだろう?」

「そういうもんかね」

 

 自作の弁当の卵焼きを口に放り込みながら出来栄えに満足。

 

 そういえば、柳洞寺にアイツ(・・・)が来たのって聖杯戦争(あのとき)から二年前だったよな。

 時期的には大分早くに柳洞寺に流れ着いたってことになるのか?

 聖杯戦争までは後三年と半年あるわけだし、少なく見積もっても一年は早いよな。

 

 俺の知る可能性の中には無い物だ…。

 

 可能性の中に見た男、その男はセイバーと相対し、蛇の如き身のこなしで彼女と互角以上に渡り合って見せた。

 キャスターの強化があったと遠坂は言っていたが、俺からしてみればそれでも充分に化物だ。

 

「そうだ、実はこのGW期間中に少し変わった出来ごとがあってな」

「変わった出来ごと?」

「あぁ、実はつい二日前にお山に身を置いている男がいてな、これが無口で要領の掴めない御仁なのだが邪気は感じない、身のこなしもタダ者では無いので稽古をつけてもらったのだが…」

 

 そこまで言って一成は空を見上げた。

 

「強かった…こちらの隙を突くかのように動くこともあれば、わざと隙を見せてこちらからの攻撃を誘ったりと若輩の身を思い知らされる結果だった」

 

 それって…

 

「へぇ、そこまで強いのか」

「あぁ、宗一郎兄は武芸と呼ぶには少し歪な戦い方をするが強さは本物だ、武芸や格闘技の強さでは無く、戦場の強さとでも呼んだものか」

 

 宗一郎(・・・)…!

 

 やっぱり、キャスターのマスター、葛木宗一郎か!

 

「興味があるのなら今日の帰りにでもウチに寄っていくといい、宗一郎兄も何処かの高校で教鞭を振るっているらしくてな、帰宅は遅くなるかもしれないがその間は友人らしく遊びに会話に励もうではないか」

 

 武を学ぶ必要性は感じていたし、可能性から敵や味方の動きを読み取って修行に取り入れてはいたが…そうか、俺が新たに創り出す可能性もありだよな。

 

 元々、俺が知る可能性の全ては無念や後悔を残している、その可能性を辿って行っただけでは俺もまた…

 

 それなら、俺が新しく可能性を開拓するしかないよな。

 

「あぁ、出来たら俺も稽古を付けてもらいたいしな、帰りに寄らしてもらうよ」

「…そ、そうか!ウチに寄るか!わっはっはっはっは!」

「なんだよいきなり、変な一成だな」

 

 どこまで通用するのか試してみたい、セイバーの意表を突いた葛木宗一郎という男に今の俺の技が、武が、剣が、どこまで通用するのかを。

 

 

 

 

 

「一成、穴熊はずるくないか…」

 

 柳洞寺、お堂からは離れた場所に建てられた居住用の建て物の一室で俺と一成は将棋を指していた。

 こちらが攻めあぐねていると、それを見越した一成はあれよあれよと言う間に穴熊囲いを完成させていたのだ。

 

「ずるくは無いだろう、攻めの姿勢を見せながらも攻めきれない衛宮が悪い」

 

 かたや将棋はやっと慣れてきたところの俺、対するは将棋熟練者の一成、ハンデが少しくらいあっても良いと思うのは間違いだろうか。

 

「そうはいっても、これどこから攻めれば落ちるんだ?」

 

 王を守る絶対の守護、そう見える程に堅牢な守りだった。

 

「いいか衛宮、これは将棋、そして将棋のルールは指して獲るだ、なればこの穴熊であろうともそれを繰り返せば必ず落ちるのが道理だ」

 

「言ってることは正しいんだけどさ…」

 

 どう攻めたものか…

 

「そうだな、確かに堅牢、確かに強固、守る駒もそれぞれが別な動きを可能とする万全に相応しい囲い、穴も無く見えるのも無理はない」

「全くだよ、いきなり城が現れたみたいな気分だ」

「はっはっは、城か、なら話は早いじゃないか、積まれた石垣も崩してしまえばいいだけものもの、この囲いも崩せるように衛宮が場を整えればいいだけのことだ」

 

 場を整えるか…確かに将棋で使うのは頭だが指すのは駒、駒の能力を最大限に使えば今の俺でも崩せるのか?

 

 その思考を中断させる音が聞こえた。

 

 玄関のスライド式のドアを開ける音、それは誰かの帰宅を告げる音だった。

 

「む…どうやら帰って来たみたいだな」

 

 足音がしない、家の中を移動しているはずで、しかもその床は古い木製の為に普通にあるけば木鳴りが聞こえるはずなのに…だ。

 

 そして、廊下に向けて開け放たれたふすまの影からその男は姿を見せた。

 

「今帰った」

 

 

 

 それは、俺の可能性の中で見た葛木宗一郎その人だった。

 

 

 

 




※訂正 時系列がおかしかったので修正、その結果少し本編改変が入りました事を謝罪いたします。

 聖杯戦争 二年生冬→三年生冬

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