二月一日、冬の冷たさが身を凍えさせる。
夜闇に紛れ、黒いアンダーウェアを身に着けた衛宮士郎がとあるホテルの一室をビルの上から眺めていた。
その眼には殺気が込められており、向けられたものなら寒さとは関係なく身を震わせることになるだろう。
その衛宮士郎の前に、一つの影が躍り出た。
「来たか、
紫色の髪が風に煽られ、妖艶な容姿が夜灯に照らされシルエットを映し出す。
「そういう貴方も…英霊?にしては何処か、人間に近い様な」
衛宮士郎の手に武器は無い、それ故かライダーの英霊も敵意を剥き出しにはしていない様だ、しかし衛宮士郎は視線を以てライダーを射殺さんとしている。
互いに間合いを意識しながら会話を続ける。
「ライダー、桜は…マスターとしてどうだ?」
「…桜の知り合いですか、また、随分と戦いにくい、桜はこちらを
弓兵としての身、少し口調を意識しながらも問いを放る。
関係性は良好か…こちらとしても戦いにくいな。
だけど、桜をマスターじゃなくするには、お前を倒さなければいけないんだ。
「―――正面から行かせてもらう」
無手で構える俺に対して、ライダーはその手に鎖の付いた短剣を出した。
夜の闇の中、銀色に輝く刃は危険性を明確に語っていた。
月の光がライダーの姿を映し出す。
紫色の美しき髪、目は魔術の込められた布で隠されているが、それでも分かる整った顔立ち、ボディバランスは非常に良く、しなやかな足に付けられた筋肉は柔らかさと固さを兼ね備えている事が見て取れる。
強くて当然、英霊なのだから。
美しくて僥倖、英霊賛美だ。
舞台は闇夜で夜景の見えるビルの上、これがディナーの舞台だとしたら最上級のおもてなしもセットで付いてくるだろう。
されども始まるは舞武の一幕、飛ぶは賞賛に非ず紅色の液。
舌鼓を打つのではなく剣を打ち合わせる、それが英霊同士の対決だ。
差異はあれども結果は変わらず勝者を求める争いならば、勝者を目指すが俺の道。
さぁ、聖杯の行方を決める戦いを今始めよう。
「よろしく頼むライダー、俺の剣の錆となれ」
「そういったやり方であるならこちらも心地よい、来なさいアーチャ―、その瞳に曇りが無いことを願います」
鎖の連なりが奏でる音が一人の男性に追い縋る。
ビルの屋上、フェンスの金網を楽々と切り裂くその短剣、そこには先程から音を奏でている鎖が繋がっている。
そしてフェンスを犠牲に身を屈めることで危機を脱した男性こそ、衛宮士郎だ。
「闇夜に紛れ手の攻撃かライダー!」
応える声は無く、いつの間にか敵の手元に戻っていた鎖が再度放たれる事で答えを成す。
「なら―――!」
避けた短剣の鎖を手に取り、力の限り引っ張る。
しかし、ぴくりともしないその鎖。
「ぐっ…」
「速さと知能と力、全てを兼ね備えての強さですよ」
諭すような呟きとともに鎖が手から離れていく。
力では勝てない、無論、素早さでも難しい、ともすれば、こちらが勝るのは。
「
この身に備えた知能と技術!
投影するのでは無く、投影の準備に入る。
「
かつての自分では出来なかった同時射出も現在ならば可能だ。
そして、宙に待機させることも可能となっている俺であるからこそ取り得る戦術もある。
精神を集中させる、僅かな物音すら、風を切る音すら聞き逃さぬ様に自身の周りに蜘蛛の巣の様な音の波を捉える為の意識を張り巡らせる。
音は全てを伝えてくれる。
戦いの始まりも、戦いの終わりも、戦いの転機も―――。
―――疾。
確かな風切り音、音のした方向に向けて、
「
射出。
放たれた刃は金属音を伴ってビルの屋上に落ちた。
ソレが意味するのは防げたという事実、次いで聞こえてきたのは息を呑む音。
ライダーも理解した様だ、後の先を取られる可能性があることを。
ジャラリと短い鎖の音、成程、手に持ったか。
そこから予想されるのは脚力と怪力を活かした近接の一撃。
目を開き、耳を傾け、決して逃さないという意思を確固たる物として待ち構える。
ふと、嫌な気配を感じた。
勘に導かれ、そちらへと手を振り上げる。
「なっ!?」
振り下ろさんとするライダーの腕、その肘の曲がった部分に俺の腕が添えられていた。
「気配を殺し切れていないぞ、ライダー」
幾千、幾万と繰り返された修行の中の奇襲、圧倒的強者の葛木の奇襲すら察知できるようになった俺が、殺意を持つ戦闘状態の敵の気配を読み切れぬはずがない。
あの修行で一番厄介だったのは修行と言うこともあって葛木が俺に対して敵意も殺意も向けてこなかったことだ、それ故に俺は葛木の攻撃の意思だけを読み取って防ぐことを余儀なくされた。
それに比べれば、なんてことは無い。
右手を腰に持っていき、左手で掴んだライダーの腕を放さない様に力を込めて腰溜めの掌底を腹部へ見舞う。
「ぐっ…!?」
「
ライダーの頭上から降り注ぐ剣の山、同時に移動、ライダーの背後を取る。
剣を避けようとこちらへ退いてきたライダーの背に再度掌底を叩きこみ、未だに降り注ぐことを止めない剣の山へと押し出す。
「ッ―――!!」
しかしそれでは決まらない、この程度で決まるようでは英雄になぞなっていない。
舞踏、武舞と表現したくなる様な身のこなし、雨でさえ一粒と当たらずに避けきるのではないかというそのしなやかさに目を奪われた。
しなやかな身体を活かして剣の山を全て躱わしきったライダーは一息を吐いた。
「成程、弓兵…というワケでは無いようですね、読みの強さと奇策の使い方、本来はアサシンである身と考えて臨むのが正解の様です」
「生憎と弓兵以外で召喚された試しは無いがな」
「それで良かった、貴方がアサシンとして召喚されていればどれだけ苦労したのか想像も付きませんからね」
何とも嬉しいやら嬉しくないやら微妙なことを言ってくれる。
「どうやら、自分を活かさなければ貴方には勝てそうにも無い」
そう言って、ライダーは自らの枷でもある目元の布を取り払った。
解放されるは石化の魔眼、キュべレイの名を持つ魔眼だ。
効果は確か、相手のステータス次第では石化したり能力を一段階下げたりと恐ろしい効果を持っていたはずだ。
しかし無意味、その効果は魔力の数値に応じて左右される。
俺の魔力の値はEX、対魔力で左右されるようであれば命の危険すらあったが、魔力の方なら問題は無い。
「…何も起きないとは、貴方は何故弓兵なのですか?剣をこれほど持ち、暗殺にも秀でていて魔力量も並では無い、祖に等しい英霊?神格を持っている…?」
「推論は置いておけ、余計な荷物を持っていると俺に付いてこれなくなるぞ」
好戦的になりつつある自分に気付きもせず、衛宮士郎は接近し蹴りを放つ。
避けられるかと思いきや正面から受け止められ、そのまま足を掴まれて身体ごと振りまわされる。
「うっあおあおおおお!?」
遠心力で内臓が口から出るのではないかと言う程の衝撃に俺は苦しさを覚えながらも射出位置を調整、ライダーの足元から剣を突き出した。
「ッまた器用な!!」
投げ飛ばされるが、空中に刃を寝かせた状態で剣を射出口から僅かに出して待機させ、空中で姿勢を整えてその刃の上に着地する。
「
自身の身体に魔力を満たし、格を、筋力を、存在を強化する。
「…成程、最初こそ私は貴方のことを見定める気でいましたが、どうやら立場は逆だったようですね」
「いいや、それが普通さ、俺の力量を見定めるのも、俺がライダーの力量を見定めるのも当然のこと、むしろ全てを知り得た敵と戦うことの方が少ないであろうこの聖杯戦争で慎重に手を考えるのは必然だ」
「そうであろうとも、私は最初から全力を以て当たるべきでした」
したたる血、それはこちらが傷つけた物では無く、ライダーが自身の指先を傷つけた物だ。
そして、その血が滴る指を動かし空に描くは奇怪な陣。
「来なさい、
そこから出現するのは一つの籠手、そこに手を嵌めたライダーは腕を一振りし黄金の剣を出現させた。
真名が解放されたその剣は小柄な彼女が持っているにも関わらず巨人の一撃を彷彿とさせる存在感を放っている。
「そして、
次いで現れた優しげな天馬に跨り、手綱を掛けて俺を睨む。
「行きますよ見知らぬ英雄、ここまで見せれば分るでしょう、我が名はメドゥーサ、支配を意味するこの名の下に、これからの戦いの全ては私の掌の上にあると思いなさい」
「受けよう、名は告げないが全力を以て相手をする、檄を交え理解するといい、俺という男を、決して英雄では無いこの身の強さを確と知れ」
一週間、二週間?
テストがあるので投稿が遅れます(何回言うのだろうか)
オリジナル宝具:
メドゥーサ伝説においてペガサスと共に生まれ出ずる存在、黄金の剣を生まれながらに持ち、それを振るい人生を過ごしたという。この籠手はそのクリュサオルの伝説を形取った物であり、籠手によって黄金の剣を振るう資格を得ることが出来る。
黄金の剣は一振りで地面を砕く程の威力を持つという。また、この黄金の剣は非常に頑強であり本来の用途ではないが盾として使用することも出来る。
ランク:A+
種別:対軍宝具
レンジ:1~10
最大捕捉:25人
由来:ギリシャ神話の巨人、メドゥーサの息子クリュサオール