その家に人はおらず、一人の青年が残った。
とある神父は言った、
「呑まれたか」
それは誰も望んでいない展開だ。
正義の味方では無い衛宮士郎が幸せをその手に掴むことは出来ない。
ならばこの物語は―――。
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「少しだけ、俺から出ていてくれ」
書き上げた召喚の陣、そこから離れた場所に
そして、自分自身を陣の中央へ。
己を霊器として、英霊を呼び出す準備に入る。
「素に銀と鉄、
礎に石と契約の大公」
平行世界から魔力を取り出しながら、
「我が友が祖はシュバインオーグ」
段々と陣が輝きを帯びていく。
「降り立つ風には壁を、
四方の門は閉じ、
王冠より出で、
王国に至る三叉路は循環せよ」
紅の輝きが土蔵を染める。
「
繰り返すつどに五度、
ただ満たされる刻を破却する」
身体に走る激しい痛み、それは当然のこと、その身に英霊を降ろそうと言うのだから。
「告げる」
それでも続ける、痛みなど慣れた、苦しみなど知り尽くした。
「汝の身は我が下に、
我が命運は汝の剣に、
聖杯の寄るべに従い、
この意この理に従うならば応えよ」
ならば知るべきはその先、
「誓いを此処に、
我は常世総ての善と成る者、
我は常世総ての悪を敷く者」
善も悪も関係無い、その詠唱に心は込めれど意思は込めず、
「汝が番えしはその湾曲」
思い描け、
「汝、千の遠きを超え射する者」
思い描け、
「我はその
自身の勝利を、揺ぎ無き心を持ちて、
「汝三大の言霊を纏う七天、
抑止の輪より来たれ、
天秤の守り手よ!」
そこは、荒野だった。
錆色の歯車が回る荒野だった。
そこに、一人の男がいた。
紅い偉丈夫、当然の結果だ。
遠坂によって召喚されるよりも先に、セイバー召喚の触媒を持たぬ衛宮士郎が召喚の儀を取り行えばエミヤシロウが召喚されるのは当然の結果だ。
「召喚に応え馳せ参じた…と思えば随分と変わった状況だな、ここは、精神世界とでも言うべきか?」
「あぁ、お前をこの身に召喚した、つまりは、俺はこれからお前に意識を奪われるわけだが…そのつもりは無い」
本来、英霊をその身に召喚すれば召喚者の意識は上書きされる、英霊が自身を明け渡しでもしない限りは。
「…貴様、衛宮士郎か?」
「お前だって衛宮士郎だろうに」
そう、眼前にいる男は英霊エミヤ、紅い外套を身に纏った偉丈夫だ。
「…何故知っているかは、ぐっ…貴様自身の身体に私を召喚したな、記憶の逆流か、成程、今の貴様は受け入れることに関しては並外れた適正を持っているらしいな」
「どういうことだ?」
「英霊の私ですらこの記憶量と平行世界との接続には耐えられそうに無い、恐らくだが長年の間そうした物に身を晒していたことや、元々貴様に埋め込まれている鞘、そうした物が関係して今の貴様が出来上がったのだろうな」
鞘の本来の役割、そして平行世界の記憶や魂を受け入れる事で作り上げられた身体、そして魂は俺を変えていたらしい。
「それで、貴様はこの聖杯戦争に何を求める?」
求…める?
それは勝利をだろ。
勝利を求め、戦に、争いに挑む、それ以外に何があるんだ?
「無論、勝利だ、それに当たってお前の力を俺が振るう、その為にこの身に召喚をした」
「勝利…だと?貴様、正義の味方として聖杯戦争における犠牲を止めようとは考えんのか?」
「何を言っているんだ?争いで犠牲が出るなんてのは当然のことだろ?それを止める為に争いを一刻も早く終わらせるならまだしも、争いの中で生まれる犠牲はどうしようもない物だ」
その言葉に、英霊の顔が険しくなった。
「貴様の夢は何だ?」
「戦って勝つこと、勝って、俺達の後悔を晴らすんだ」
「…馬鹿な、貴様は衛宮士郎では無いのか?」
「いや、俺は衛宮士郎だ」
何を言っているのかと疑問を抱く俺に、その男は問いを続ける。
「あの日、衛宮切嗣に助けられた貴様は何を思った」
「…思いだせないな、そんな昔の事を聞いてどうした」
その瞬間は覚えている、だが、その時に何を思ったかなど覚えていない。
それが、何の問題だと言うのか。
「そうか…何やらその部分だけの流入が薄いと思ったが、何か霞み、いや、蓋の様な物がなされているのか」
「何言ってんだ?」
「いや、そうか…蓋か、それならば貴様が目的を果たした時にでも開けられるだろうな、その時に苦しみを覚えるか否かは別として」
何を言っているのかは分からないが、重要なのは唯一つ、俺が欲しいのはその力だけだ。
だからこそ、
「それで、お前は俺に力を渡すか、渡さないのか」
「…ダメだ、貴様はこのまま生き続ければ恐らく私を生む、私以上に苦しみを覚えて守護者となる私を」
「そうか、それなら仕方ない」
右手を前に、俺は告げる。
「令呪を以て命じる」
「ッ貴様…!」
「アーチャーよ、その意思を失いて俺に自身の全てを譲り渡せ」
紅く輝いた令呪によってアーチャーの意思を奪う。
「重ねて命じる、その意思を失い、その力を俺に渡せ」
少しの心配はあったが、その心配も先程のアーチャーの言葉で消えうせた。
それは、俺自身がアーチャーを、英霊としてのエミヤの力を受け入れられるかどうか。
この男は先程、俺が今現在その身に宿している魂や記憶を自身が持つのも辛いと言った。
対して俺は辛さなど感じていない、ならば、俺の方が受け入れる為の器は大きいハズだ。
「いいだろう、私の力を渡してやる、意識も全てお前に譲ろう、だが、後悔するな―――その力、振るい方を誤れば苦しみのみを生みだすぞ」
「それがどうした、俺は決めたんだ、勝つってな」
だから、俺はこの力を受け入れ、そのまま勝利を手に入れる。
目を開けると、暗い土蔵の中で俺一人が立っていた。
その身は霊体ではなく肉体、溢れでる力は英霊の物。
魔術回路に異常は無く、現状も平行世界と繋がっている。
ふと気になり、自身のステータスを見てみる。
パラメーター
筋力:C(A)
耐久:B(A)
敏捷:B(A)
魔力:EX
幸運:C
宝具:??
クラス別能力
対魔力:D
単独行動:B
保有スキル
千里眼:C(A)
魔術:B₋
心眼(真):A
気配遮断:C
専科百般:B
宝具
無限の剣製
さぁ、始めよう、聖杯戦争を。
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――――これは、正義の味方を志すまでの物語、衛宮士郎になる物語。
次の投稿は一週間後とかになるかもです。
テスト+レポートが終わったら次回投稿になります。