どうにも作者も書いていて頭がおかしくなりそうでした。
願いだった。
自分の様になって欲しくは無いという願いだった。
しかし、それは紛れも無く闇を孕んでいた。
例えるなら水槽、その闇が割ったのはたった一か所、たったの一か所だけが割れ、水が漏れだした。
その一か所から広がった亀裂は、表に出ようとする他の水達の圧によって広がり、穴を増やしていった。
つまりはそういうことだ。
その日、衛宮士郎の胸中に芽生えた闇は、他の可能性達を巻き込んで負の意識だけを表出化させていった。
それは果たして衛宮士郎と呼んで良いのか、いや、きっとそれは衛宮士郎では無い。
何故なら、その男の目的は最早別の物となっていたからだ。
あまりに多すぎた、聖杯戦争という争いの中で失われていった命が。
あまりに多すぎた、戦いの中で砕け散った剣が。
あまりに多すぎた、善意以上に、後悔や無念や悔恨が。
そして結果として、衛宮士郎の記憶は一度崩壊した。
元より異常、何万を超えるその意識を一つの身体に閉じ込めていたのだから、人の身を超えた奇跡、その奇跡にも、限界があったのだ。
そして男は見てしまった、残酷な未来を、凄惨な未来を、正義の味方であることに苦痛を覚えたのでは無く、自身の存在の罪に苦しさを覚えてしまった。
変わる。
ここで衛宮士郎は変わる。
その夢は朽ち果て、荒野に突き刺さりし一本の剣となり。
その身体は限界を超え、人の身を超えた存在となり。
その願いはただ、自身の物では無い誰かの夢にすら感じられた。
「バゼットさん」
名前を呼ぶのは誰か、いや、衛宮士郎なのだ。
それは間違いない、それは間違いないハズなのに、バゼットは大きな違和感を覚えた。
「(雰囲気が違いすぎる、まるで、何かに憑かれた様な)」
声も、姿も、それは衛宮士郎の物であると言うのに、纏う雰囲気はまるで違う。
「いや、この場合に謝るべきは遠坂、かな」
そして、その思考すらも。
最早、正義の味方とは呼べない物であった。
『
その可能性が望んだのは確かに正義の味方だった。
しかし、それが起因して全ての可能性が持つ負の感情が衛宮士郎を襲った。
負の感情が全てを埋め尽くし、不幸にも衛宮士郎の大切な記憶にだけ蓋をした。
そう、正義の味方という夢も、誰かを守りたいと願った想いも、強い輝きを放っていたそれ等の記憶は全て、全てが―――。
―――そして、今の男が生まれた。
『マタ、マタ
だから可能性の一人は後悔した。
ただ、この道を進むなと告げたつもりだったのに。
ただ、この道を進めと告げたつもりだったのに。
ただ、それだけの行動が全ての闇を生みだした。
その後悔は、男にさらなる闇を与えるだけだと言うのに。
「先に謝っておくよ、ごめん」
仮に、この男の呼称は衛宮士郎としよう。
衛宮士郎は立ち上がると、制止を呼び掛けるバゼットの言葉を無視して土蔵へと向かった。
途中、間桐桜とすれ違った。
それだけ、すれ違った、ただそれだけ。
交わす言葉は無く、ただ前へ、目的の場所へと進む。
覚えていたのは聖杯戦争での勝利、それがどの様な意味を持っているかなど、衛宮士郎は記憶に蓋をしてしまっている。
覚えている、イリヤスフィールという
覚えている、セイバーという
覚えている、遠坂という
だが、今は敵だ。
覚えている、葛木という師匠を、しかし、あの男もまたマスター、つまりは敵だ。
覚えている、マスターであり後輩である少女、桜という――――桜、と、いう。
――――さ、くら?
ふと、足が止まる。
何故か、引っ掛かる。
何かを、誓った気がする。
自身を変える程の、何かを―――。
「どうした士郎、目覚めたと思えば鍛錬か?」
言峰だ。
言峰は?
言峰は―――敵。
だが、何故、声を掛けてくる?
「そうでなくては困る、お前には聖杯戦争で勝利してもらわねば困るのだからな」
そうだ、そうだ、そうだ。
勝たなくては、数多の後悔を晴らす為に。
聖杯戦争で、勝たなくてはいけない。
ならばマスターは敵だ、ならば間桐桜も、
敵だ。
あぁ、頭が痛い。
頭が痛くて、壊してしまいそうだ。
意識が飛びそうだ、いや、飛ぶ、これは飛ぶ、また、気絶か―――。
―――――――――――――――――――――――――
「桜、バゼットさん、言峰、この家から出てくれ」
何かを、誰かが言おうとした。
「頼む、頼む、どうか頼む、オレが俺である内にこの家を出てくれ、俺は傷つけたく無い、バゼットさん、頼む、桜をホテルで匿ってくれ、言峰、俺はきっとお前の望み通りの存在になる、だから、だから頼む、遠坂を助けてくれ、頼む、どうか頼む」
それを言わせている暇は無い。
それを聞いている暇は無い。
俺にはもう時間が無い。
瞬きをすれば戻ってしまう。
戻ってしまう?
元は俺のハズだろ?
あぁ、もうダメだ。
崩れ始めている。
壊れ始めている。
変わり始めている。
頼む、どうか頼む。
ありがとう、言峰、桜を抱きかかえてくれて。
ありがとう、ランサー、バゼットさんを担ぎあげてくれて。
ありがとう、ありがとう、ありがとう。
もう限界だ、もう限界だ、もうげんかいだ。
みんな、どうか、ぶじで―――
――――――――――――――――――――――――――
どれほどの時間、意識が飛んでいたのだろうか?
気が付けば家の中から気配は消えていた。
何故か、足元には滴が落ちていた。
解析をしてみると、涙に似た何かだと分かった。
誰が流したのだろうか、冷たさを覚える頬を拭って、俺は気を新たにした。
少しだけ意識が飛んでいた、さぁ、目的の場所に向かおう。
目的の事をしよう。
あぁ、感謝しなくてはいけない、英霊の機能について教えてくれた言峰に。
さぁ、準備をしよう。
英霊を召喚する準備を。
支離滅裂な文章をわざと書くのって意外と苦労するものだと学びました。