Fate/Endless Night   作:スペイン

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第十四話 一檄

「士郎、お前は強化をする時、自分自身に使う時、何を以て魔術を行使する?」

 

 暗い土蔵の中、言峰の声が響いていた。

 その問いの答えを用意した俺は、口を開いた。

 

「勿論、強い自分をイメージして、だ」

「…間違ってはいない、しかし私が見てきた衛宮士郎という男であれば、もっと合ったやり方があると結論付けた」

 

 そう言って言峰は土蔵の中に置いてあった俺が投影した刀剣を一振り拾い上げた。

 

「士郎、自身を剣と考えろ、投影の時に心掛けていること、これを自身の強化に置き変えてみろ」

「自身を、剣として…?」

 

 ――――――同調(トレース)、開始《オン》

 

 自身を剣とするならば、投影で行っている事をそのまま流用するのであれば…。

 

 ――――――構成材質(なにをめざし)、解明

 

 ――――――|基本骨子(なにをつかい)、解明

 

 ――――――創造理念(なんのために)、解明

 

 ――――――製作技術(なにをみがき)、解明

 

 ――――――成長経験(なにをおもい)、解明

 

 ――――――蓄積年月(なにをかさねたか)、解明

 

 いや、解明するまでも…

 何故なら俺自身のことだ、即ち、

 

 ―――――(ちがう)全工程既知(それらをおれは、すでにしっている)

 

 ―――――全工程(オール)強化開始(アウト)

 

 

 平行世界から引きずり出した魔力までもが、自身の全てを強化する。

 より頑強に、より綿密に、より上格へと自身の全てを強化する。

 

「…言われてすぐに出来るか、さらにその魔力量に物を言わせた強化、英霊の枠に踏み入れているな」

「そう、なのか?確かに自分でもとんでもない力が身に宿っているのを感じるけど」

「少なくとも人間とは到底呼べまいよ、今現在お前を強化しているのは凛の可能保有魔力量と大差ない」

 

 そんなにか…

 

「では次にそれらを部分的に使用すること、そして投影魔術と固定時加速との併用を目指すぞ」

「分かった、よろしく頼む」

 

 

 ―――――――――――――――――

 

 霊体化していた肉体が、確かな形を持って眼前に姿を現す。

 

 青い鎧を身に着けた獣、紅の槍を手に持ち、参上する。

 首や手足の関節を鳴らしながら、ソイツはこちらを流し見ると槍を肩に担いで言い放った。

 

「俺が英霊だ、人とは並はずれた膂力や才覚を持ってして功績を残し、英雄として奉られ歴史に名を刻んだ男だ」

 

 対するはオレンジ色の髪をした金色の双眸を持つ青年、唐突に右手を振ったかと思えば、その手には光を放つ黄金色の凶器(かがやき)が握られていた。

 

「俺は人間だ、利用出来得る全てを利用して生き抜く種族で、歴史を紡ぎ英雄の存在に憧れてきた者達だ」

 

 その手に握るは丙子椒林剣、かつて聖徳太子が持ったとされる国宝の剣だ。

 この剣、持ち手を選ぶと言われておりかつて持ち主を選ぶ選定を行ったところ、三度にわたり持ち主が決まらなかったという程の物だ。

 

 丙子は作られた年の干支を表しており、その二つの文字が持つ意味を剣に宿している。

 

「やっぱりお前ぇ、タダ者じゃねぇな、その剣、宝具に分類されてもおかしくねぇ物だ」

「むしろ宝具さ、真名解放はしないけどな」

 

 それよりも、

 

「まぁなんだ、語らう為の時間じゃねぇ、そうだろ?」

「あぁ、語らうにしても、口で語る必要は無い」

 

 交えよう。

 

 たった一檄、されど一檄。

 

「行くぜオイ!」

 

 ランサーの踏み込みと刺突は同時とも言える速度だった。

 強化を施した瞳であるからこそ見切れる速度、肩口を狙ったその一撃を下から跳ね上げる形で防ぐ。

 

「ッ!?」

 

 否、それは間違っていた。

 見切れる速度、そんなハズは無い、相手は英霊、人の身で打倒することが出来ようか?

 

 跳ね上げようとも容赦なく肌を切り裂いた槍に俺は胸の奥から湧き出る熱い何かを抑えながら攻勢に移る。

 跳ね上げた槍の柄、そこに刃を滑らせながら踏みだされたランサーの足を狙う。

 

 分かっていたかの様に足は下げられ、剣は空を切った。

 しかし、空を切ろうともその剣は意味を成す。

 

 振るわれた剣から炎が生み出され、下げられたランサーの足を焦がす。

 

 熱など気にしないと言わんばかりに再度振るわれるランサーの槍、即座に剣の持ち方を変えて逆手の状態で横から迫る槍を跳ねる。

 跳ねたかと思えば反対方向から襲い来る槍、ランサーは身を回転させ、瞬く間も無く新たな一撃を放ってきた。

 

 それは人の身では反応出来ない一撃、まともな人間であれば、身を砕かれるであろう一閃。

 

 されどもそれを振るわれた俺もまた、まともな人間では無い。

 

 地面を蹴り、空へと躍り出て槍を避けランサーの頭部へと剣線を走らせる。

 

 何かが輝いた、かと思えば俺の腕は大きく弾かれ、空中で体勢を崩していた。

 ここで活きるのは葛木との修行、俺はその状態から足を大きく振り上げ、脛に隠していた剣をランサーに向かって遠心力で投擲する。

 

 これは予想していなかったのか槍を横に構えて防ぐランサーに、俺は着地―――。

 

 ―――したかと思えば既に迫る刺突。

 

 四つの点が眼前から迫り、それを剣で弾き身体を逸らすことで回避し、驚愕を見せるランサーの顔に笑みで返しその場で剣を横薙ぎに振るう。

 剣先から溢れた水、何の変哲も無い水だが、ランサーは警戒をして身を屈めてそれを避けた。

 そこに待つのは俺の蹴り、ランサーは屈んだ状態から両手両足に力を込めて跳び退り、俺の一撃をいとも容易く躱した。

 

 

 

 静寂。

 

 

 

 ランサーは俺を見ていて、俺はランサーを見ている。

 一檄の終わり、流れは完全に止んだ。

 

 たった一檄、しかし、その中で俺達は確かに互いを語り合った。

 強いな、そう避けるか、そう来るか。

 

 喜びと感心、感嘆と驚愕。

 

 一手に込める意思の強さが、一手から感じ取るその技の積み重ねが、俺達の時間を何秒にも何時間にも引き延ばしていた。

 

 だがそれも、もう終わり。

 

 見れば、ランサーも何処か残念そうな顔をしている。

 そして、目が合った。

 

「ぷっ」

「ははっ」 

 

 互いに、唐突に笑みが零れた。

 

「強い、強いじゃねぇか坊主!全力でこそないが半分くらいは本気だったんだぜ?」

「アンタこそ、流石は英雄、その紅い槍に獣の如き刺突、そして…」

 

 俺はバゼットさんを見て、

 

「バゼットさんの手袋に刻まれているルーン文字、間違いない、アンタ、クー・フーリンだな」

 

「オイオイ、洞察力まで化物かよ、しかも坊主、お前ぇも本気じゃ無かったな?」

「いや、この武器では本気だったさ、強化の魔術も俺に出来る七割は使っていたし」

 

 身体全体では無く、今回は強化を小出しで使用していた。

 己の身であれば一瞬で行える強化、それは間違いなく一つの武器になっていた。

 

 それでもやはり英霊の強さには敵わない、やはり、もしも渡り合おうと考えたら今は見せるわけにはいかない領域まで見せることになる。

 

「マスターどうだ?坊主に勝てそうか?」

「難しいですね…単純な身体能力だけでしたら強化の魔術さえ使わせなければ倒せますが、彼は先程、何処からその剣を取り出したのでしょうか?」

 

 …まずいな、これ以上この話題を膨らまされるとこっちの情報が漏れかねない。

 

「その辺は全部内緒ってことでお願いします、それよりもバゼットさん、言峰に用事があったはずでは?」

「そ、そうでした!急ぎましょう!」

『はぁ…まぁいい、坊主、聖杯戦争が始まったらまたやろうぜ、その時は、全力で、な』

「上等」

 

 今回の戦いで見直すべき点も分かった。

 空中での対応についてだ。

 

 投影をフルで活用すればなんとかなる…か?

 その辺も少し修行に組み込んでみるとしよう。

 

 

 

 さて、言峰は教会にいるのだろうか?

 

 

 

 




今の士郎の全力をサーヴァント的に数値化すると…

衛宮士郎 
パラメーター

左:通常強化時。
右:一定条件下や戦闘方法を取った際。


筋力:E-(D)
耐久:E-(D)
敏捷:E-(D)
魔力:EX
幸運:D
宝具:???

こんなところです。

※追記 -(マイナス)表記と+(プラス)表記について、-表記は~に満たないの意味を持ちます。
    +についてはE+の場合、一定条件下においてEの二倍のステータス値に匹敵する、という意味を持ちます。

 当初、E+++(能力値的にはFだけど値に無いのでE)

 と書いていたのですが、分かりにくい形だった為何度か感想を頂き、今回の形に修正いたしました。

 感想を下さいました方、ありがとうございました。

宝具解説

丙子椒林剣(へいししょうりんけん)

ランク:C~D
種別:対人宝具
レンジ:1~3
最大捕捉:1~10人

 過去、聖徳太子がその腰に挿していたとされる剣、丙は寅の意を持ち、陽の意で火を持つ、子は()の意を持ち、陽の意で水を持つ。
 
 火と水、その両方を剣から出すことが可能だが、どちらも精々が日常生活に使用出来るレベル、ただし真名を解放することで剣が走った空間に熱、あるいは冷気を残すことが出来る様になるが、これもまた違和感を感じるレベルで別に脅威には成り得ない。

 むしろこの宝具の利点は頑丈な所、柄が砕け、鞘が無くなろうとも刀身だけは無事でいた程、さらに敵に奪われる心配も無く、所持する者以外は手に取ることが出来ない剣。

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