Fate/Endless Night   作:スペイン

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第十三話 そして、流れ着く

「着いたようですね、冬木市」

 

 私はようやく着いた、電車を乗り継いで数時間、飛行機で日本に到着した時には環境の違いで焦ったが、召喚されたことで反映されたという現代の知識を持つ英霊のお陰で何とかなった。

 

「さて、問題は冬木の教会が何処にあるかということですが…はて、地図はあってもこの地図…」

 

 広げた地図を手に持って色々な角度に向けてみますが、むぅ、分かりませんね。

 

『なぁマスターよぉ、その地図冬木市の物じゃねぇぞ、よくみろ、柊市って書いてあるじゃねぇか』

 

 霊体化した英霊からの指摘に、私は思わず地図を破いた。

 

「し、知ってました!!今のは貴方を試したんです!」

『おいおい、おめぇ以外には俺ぁ見えてねぇんだぜ?周囲の視線をちっとは気にしろ』

 

 うっ…

 

「と、とにかく教会に向かう為にも何方(どなた)かに道を聞きましょう」

『ま、そうだな、頑張れよマスター』

 

 うぅ…本当にこの英霊は、私が救いたいと思ったのは何だったのでしょうか。

 

 さて、それでは丁度目に着いたあそこのオレンジ色の髪をした青年にでも聞いてみますか。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

「え?冬木の教会ですか?」

 

 夕飯の買い出しをしていた俺と桜は、唐突にスーツを着たモデルの様な体系の女性に声を掛けられた。

 

「はい、知人に呼ばれまして、今度こちらで催される大会に参加すると言うことで参ったのです」

 

 …え!?

 

 そういえば、この人の傍から魔力の塊みたいな気配を感じるぞ、いや、それどころか何か、懐かしさを覚える様な。

 

 間違いない、この人、マスターだ。

 

「あぁ、聖杯戦争ですか」

 

「…なるほど」

「先輩!?」

 

 桜には魔術師であることは話してあるからな、ただ、俺がマスターになることまでは話していない。

 この数カ月、時間を置いて桜の中にあった刻印虫の除去を言峰は行ってくれた。

 数時間で済ませるとなると言峰の持つ魔術刻印を消耗する必要があったらしいのだが、時間を置けば消耗無しで何とかなったそうだ。

 

 加えて、桜の事情を上手く聞きだし、今では俺の家に住んでもらう様にしている。

 臓顕に何かと疑われたらしいが、何かあれば報告をするという建前でうちに住むことを許されたらしい。

 

「桜、隠しててごめんな、もう、出てるんだろ?」

 

 数日前から桜が手の甲を隠しているのには気が付いていた。

 俺の令呪は未だに現れていないが、世界の意思があるのならば必ず現れるだろう。

 

「…はい、でも、でも私」

「いや、マスターである以上は狙ってくる奴はいるかもしれない、頼む、召喚はしておいてくれ」

 

 残酷な選択だとは思う、しかし、桜が召喚をするのであれば安全なのだ。

 そう、桜が召喚しなければ令呪を教会にいる方の言峰に託してマスターの権利を捨ててしまえばいい。

 

 しかし、そうした場合は誰とも知らぬ者がマスターになってしまう。

 そうなれば、また新たな被害を生みだしてしまう危険性がある。

 

 ならば、魔術師として一定の力量を備え、信頼のおける桜の方がいい。

 

「もしも…もしも桜を狙うマスターがいれば、俺が守るから」

「―――ッ!」

 

 桜が顔を赤くして俯いてしまった。

 

「あの…」

 

 と、そこで眼の前の女性(マスター)が再度話しかけてきた。

 そう言えばこの人と会話していたんだった。

 

「もしかしてお二人はお付き合いしていらっしゃるのですか?」

 

「「え!?」」

 

 予想外の質問、てっきり早く案内を―――。

 と催促されると思っていたのに、まさか関係性を聞かれるとは。

 

「い、いえ、今の質問は忘れてください!」

「はぁ」

「そ、それよりも貴方達もマスターなのですね、駅前で出会うとは思いませんでしたが、これも運命、よければ前哨戦に一戦、いかがですか?」

 

 この人、今の俺達の会話を聞いていたのか?

 まだ英霊を召喚していないっていうのに戦おうだなんて、好戦的にも程がある。

 

「いや、また今度にしておきます、互いにマスターなら聖杯戦争が始まってから戦いましょう」

「む…道理ですね、私はバゼット・フラガ・マクミレッツ、バゼットで結構です」

「俺は衛宮士郎、冬木教会に用事があるんだったっけか?それなら俺も付いていくよ」

「そうですか?それではお願いします」

「桜は先に帰っておいてくれ、今日は日曜日と言っても藤ねぇが飯を寄越せって電話してきてたからな、間違いなく来るぞ」

 

 朝の五時から電話してきて…まったく。

 

「分かりました、先輩、良い人そうですがその、油断せずにいて下さいね」

「あぁ」

 

 

――――――――――――――――――――――

 

『んで、坊主はさっきの嬢ちゃんとどういう関係なんだよ?』

 

 歩き始めて数秒、桜と別れて冬木の教会を目指し始めたすぐの所でそんな声がした。

 

 この声は、ランサーか。

 

「アンタがこの人の英霊か、英霊ってのは恋路を知ることで力にでもなるのか?」

『ハッ!少なくとも気になることが無くなりゃ良い動きは出来るってもんだ、シロウって言ったか?お前、随分と慣れて(・・・)やがるな』

 

 慣れている?どういうことだ?

 

『自分で言うのもなんだが俺は英霊だ、かつては英雄とまで呼ばれた男だぜ?そんな奴に急に話しかけられたってのにお前は驚いた様子も無い、シロウ、お前ぇ何者だ?』

 

 確かにな、俺からすれば真名すら知っている英霊だ、それに、こいつは信頼すれば信頼に応える男だって知っている。

 卑怯なことは好きじゃない、そんな奴だ。

 だから警戒もする必要は無いが、それ以上に俺がバゼットさんもランサーも警戒しなかった理由は他にある。

 

「簡単な話しさ、アンタ等には敵意が無かった」

『…ブハッ!』

「…敵意、ですか」

 

 そう、敵意だ。

 俺は葛木との修行中に嫌という程それを浴びせられ続け、ついには感じ取れるようになった。

 

『なるほどなぁ、坊主、お前面白いぜ、この平和ボケした世の中で敵意なんてもんを感じ取れるのは一部の人間だけだ、なによりも、殺意じゃなく敵意だってのが異常だ、敵意ってのは殺意よりも身近にある、だから敵意に関して読めるってなると、並じゃねぇ』

「そうですね、殺意は隠せても敵意は隠せないと言いますが、それだけに敵意は日常に溢れています」

 

『坊主、いや、シロウつったな、一檄だけ交えようぜ』

 

 獰猛な視線、それを受けて俺は身体が震えた。

 

 武者奮い。

 

 いずれは交える(つるぎ)なら、ここで一檄を交えるのもまた定めか。

 

「―――ごめんなさいバゼットさん、貴女の誘いを断って何だけど」

 

「大丈夫ですよ、確かに敵の情報が手に入る絶好の機会、逃さない手はありませんからね」

 

 そこまでの考えは無かった、だがその通りだ。

 俺はこの女性の強さも、この女性と共にいる時のランサーの強さも知らない。

 

 その一端を垣間見ることが出来れば―――。

 

「交えようか、英霊」

『おう、人間』

 

 

 

 さぁ、教会へ歩を早めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 


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