私の得るべき答えを知っている、そんな気がしていた。
故に、その男と相対した時、私は心躍っていた。
しかし、その直後に失望させられた、あの男は強かった、しかし―――。
もう興味は失った、ハズだった。
私の運命は数奇な物だ。
一般人であるならばまず魔術には関わらないだろう。
ましてや聖杯戦争に直接関わる機会を持つ魔術師など何人いるだろうか。
そして、自らの師を殺してまで生き抜いた者など、殺した師の御息女を弟子にする者など。
―――私の運命は数奇な物だ。
衛宮士郎の家を訪れ、私はふと気になった物があった。
衛宮切嗣が残したという遺品だ。
どうでもいい物も幾らかあった。
服、衛宮士郎が送った手紙、風変わりな銃、何かを記した暗号文。
衛宮士郎は第四次聖杯戦争の詳細を知らない、衛宮切嗣が参加していたこと、そして彼がセイバーのマスターであったこと、そして、その勝者であること…。
私自身、あの男について語れるほどの知識は持ち合わせていない、その願いもまた、理解出来るものでは無いからだ。
だが、その遺品の中、あの男が好んで吸っていたという煙草を手に取った時、衛宮士郎は家には誰も吸う人がいないから、もし良かったら貰ってくれと言った。
故に貰った。
切嗣はあまり衛宮士郎の前で喫煙することは無かったという。
銘柄は『PEACE MAKER』、似た名前の煙草は知っているが、それとは違う物らしい。
ふと友人が零した『SHORT PEACE』とは皮肉な名前だという呟きを思い出した。
縁側へ座り、暗闇が辺りを支配する中で何故こんなことをと思いながらも、煙草のパックを開ける。
煙草を一本取り出し、口に咥える。
衛宮士郎の家にあったマッチ箱から一本を取り出し、摩擦によって火を生じさせる。
火の点いた煙草は白煙を生じながら暗闇の中に灯りを生みだす。
強くは吸わず、柔らかく吸う。
その後に来るのは渋味だ、様々なハーブが混ぜられているのだろう、その渋みは肺に入れ、吐きだした後も続き、後味として口内に残った。
―――あの男も、同じ月を同じ煙草を吸いながら見上げたのだろうか。
自分にとってはどうでもいいはずのそんな疑問がふと湧いた。
何故こんなことをしているのかと煙草を消そうと思うが、それを実行に移すことは無かった。
何故だろう、口の中に残るこの渋味が心地いい。
『PEACE MAKER』、それがあの男の夢なのだろうかと考える。
だとしたら、それを遺品として衛宮士郎に残したのは―――。
その意図が無かったのだとしたら、なんという皮肉だろうか。
そして私は考えを捨てる、元よりこの様な思考を巡らせる意味は無いのだ。
煙草から灰が足元に落ち、数分も経てばその場所は再び暗闇に支配された。
しかし、数分後暗闇は再び一つの灯りに切り裂かれる。
男が一人、誰かに告げるかの様に口を開く。
「衛宮切嗣、煙も天まで昇れば、そこに届くのだろうか」
その問いに答えは無い。
男は元より答えを求めていない。
ならその呟きには何の意味があったのか。
「もう一本、頂くぞ」
そう、その呟きには何の意味も無いのだ。