Fate/Endless Night   作:スペイン

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第十話 そして迎える三年生

 高校三年生、俺は今、ある場所に来ている。

 

 何故ここに来たのかと言うと、街中である噂が(まこと)しやかに囁かれていたから。

 

『なんでも、街外れの森で歩く巨木を見たっていう人がいるらしいのよ』

 

 単なるオカルト話とは思えなかった。

 いや、魔術を使用している俺がオカルトどうのこうのと言うのもおかしな話なのだけれど、それでもこの一件は唯の噂話で終わらせるには、俺の記憶が疼いた。

 

 思い出されるのはあの瞬間、自身を縛る紅い戒めを解き放ち、記憶と感情が渦巻く中で放った英雄の狂檄。

 

 是・射殺す百頭(ナインライブズ・ブレイドワークス)

 

 英霊ヘラクレスの武具から読み取った彼の半神が持ち得た奥義。

 あの光景が、瞼の裏に焼き付いた壊走とも呼ぶべき森の破壊者を打倒した瞬間が思い出される。

 

 もしかして、もう来ているのか?

 

 

 

「イリヤ…いるのか?」

 

 

 

 そう呟いた時、森の中から魔力の反応があった。

 そして、眼前に茂っていた木々が唐突に道を作るかのように退いた。

 

 それは誘われているかの様で、暗い森の奥にある死刑台へ誘われているかの様で、そして、自分の進むべき道を示されている様に感じた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

「衛宮士郎、お前に教えるのは至極簡単な魔術だ」

「…俺にはその至極簡単な魔術が難しくなる要因があるんだが?」

 

 ゴホンと咳払い、衛宮家の土蔵、言峰と二人で密閉空間にいるというのは何とも寒気のする話しだが魔術の訓練である以上は仕方がない。

 

「確かお前は既に展開した剣を撃ち出すことは出来たな」

「あぁ、今の俺は魔力量を気にしなくていい分、その辺は凄い使い勝手が良い」

「…魔力量を気にしなくて良いのなら神造宝具を投影することも出来るのではないか?」

 

「あぁ、それは無理だ、俺がそれを行うには何よりも格が足りない、なんて言えばいいのか俺にも曖昧なんだけど、あれは彼等だからこそ使え得る物なんだ、投影することは出来るかもしれないけれど、それは神造宝具でも何でもない、外見だけを模したレプリカになる」

「そうか…お前の投影というのも本当に使い勝手が良いのか悪いのか判別しにくいものだな」

 

 それは俺が誰よりも知っているから突っ込まないで貰いたいものだ。

 

「まぁその話は捨て置いて魔術の話しに戻る、まずはお前が行える強化の魔術、これは修行でどれほどまでに至っている」

「…それが、俺自身の強化はこの六年でようやく出来る様になったんだが、存在の強化とかになると武器関連にしか出来ないな」

「充分だ、次にお前の工房、何だこれは?」

 

 そう言って今立っている場所をまさに指差す。

 

「掃除は行き届いているし家具もある、寝起きする環境としては防寒機具もあり素晴らしいと言える、ある意味では男の子の憧れと言う秘密基地に近い物だな、しかし」

 

「魔術師の工房と考えれば、十点だ」

「十点満点か?」

「馬鹿め、百点満点だ」

 

 なんでさ…。

 

「いいか、魔術師であるのなら自身の訓練に使用する用具、そしてそれに合わせた環境を作るのが当然のこと、考えたことは無いのか?自身が鋳造した刀剣であれば投影がスムーズになるなど、強化がしやすくなるなどということを」

 

「無いな」

 

 頭に手をやる言峰、頭痛がしているらしい。

 確かに言われてみればそうだ、これまで自身の内から投影することばかりを考えていたが、自分で武器を造るというのは考えたことも無かった。

 

「分かった、そちらは私の方で何とか用意しよう」

「で、出来るのか?」

 

「舐めるな、私は国外に友人が何人もいる、友人が…な」

 

 深く聞くのは止めておこう。

 

「あとは結界だが、家の周囲に魔力遮断が張られていたがあれは衛宮切嗣の物か?」

「そう…だと思う、俺は張った覚えが無いからな」

「そうか、あの男の…」

 

 何処か遠くを見る言峰の眼は懐かしみを覚えているかの様だった。

 

「よし、まずは記憶の流入をする、これは私が監督役である為に覚えた魔術と言ってもいいのだが、現状であれば何よりもの助けとなる」

「記憶の流入って、アーチャーの腕からのとかでロクな想い出が無いんだけど」

「英霊と私の物では質が違う、何よりお前であれば一人分の記憶の流入など大したことは無いと思うがな」

 

 言われ、現在の自分が何千、何万という自分自身の記憶を所持している事に気が付く。

 

「記憶という一面だけで見ればお前は人間の領域を超えている、さぁ、行くぞ」

 

 手を俺の頭部に載せた言峰がゆっくりと魔力を流し始めた。

 

「今から流すのは英雄王の宝物の記憶だ、私がかつて見た…いや、見させられた数々の宝物をお前にも見てもらう、その中の一つ、何の原点かは知らないが名を(ハラシュ)、形状は(やじり)だがそこに繋がる()は無い、鏃を指の間に挟み振るってみれば嵐の訪れを告げるかの如く風の刃が敵を襲う」

 

 瞳の奥、いや、脳裏、それよりも深淵、心で見ているのかも分からない、しかし流れ込んでくる景色の中に、その鏃はあった。

 (ハラシュ)とは本来、布告使の名、嵐を告げる布告使、その名を付けられし鏃が俺の見る景色の中で輝くコレだということだ。

 

 他にも多くの何かがある、ソレらは武器にも見え、芸術にも見え、不思議な感情を呼び覚まされるものあれば、何かを思い出しそうになるものもある。

 

 これが宝物、バビロニアの王ギルガメッシュが集めし王の財宝、輝く物もあれば濁る物もあり、それら全てに共通するのは自分が手に取るには足らない存在だと思い知らされること。

 

 半神半人の王、魔人、英雄王、それが、ギルガメッシュ。

 

「見たか、彼の王の財産の一部を」

 

 呼びかけられなければ、きっと思考の渦に嵌まっていた。

 それ程までに何かを考えさせる物で、何かを伝えてくる物だった。

 

「あぁ、そして今なら投影も出来る、幾つかはどう足掻いても出来そうにも無い代物もあったけど、武器の形をしているもので俺の及ぶ範囲であれば、出来る」

「よし、ソレ等から使える物を見つけておけ、そして、お前が持つ平行世界の記憶、多くの武器を見ただろうが、その中で実際に投影して使用した物は少ないだろう、実戦で活用できるものを探すのも修行のうちだ」

 

「分かった」

 

「では、本格的に修行に入る、まずは魔術回路から衛宮切嗣が行っていた固有時加速の魔術を応用した自身の加速から入っていく」

「切嗣の魔術、詳しいんだな」

 

 少し意外だった、あまり関心と言う物を何かに持つタイプだとは思っていなかったから。

 だけどそれは、俺が今知っている言峰のイメージでしかない、葛木だって今では過去のイメージから大分変わっている。

 尊敬と憧れ、そして感謝が大きくなっている。

 

「当然だ、あの男の父は封印指定、聖堂教会に属し、代行者を務めていた者ならば知らぬ者はいないだろう」

「封印指定って、確か魔術が白日の下に晒す危険性がある魔術師とかのことだっけか?」

「詳しく言ってもお前では理解出来んだろうからな、その程度でも理解しておけば充分だ」

 

 切嗣の父親が封印指定…俺が知らない切嗣だ。

 いや、何でも知っているワケでは無い、むしろ知らないことの方が多いのだって分かってる。

 

 だけど、何だか、複雑だ。

 

「さぁ、教えてやろうというのだ、私を師と仰げよ、士郎」

「了解、よろしく頼む」

 

 こうして二人目の師の下、俺の魔術師としての特訓が始まった。

 

――――――――――――――――――――――

 

 森の中を進むと、城に着いた。

 アインツベルンの城、深い森の中、人が訪れることを拒むかのように奥地に建てられたその城。

 

 入口の門は重厚感を感じさせる鉄製、開けば軋みと重さで音を奏でる。

 迎えてくれたのは二人の女性だった。

 

「お邪魔させてもらうな」

 

 そう言った俺の喉元に、ハルバードの切っ先が突き付けられた。

 

「ダメ」

「貴方が衛宮士郎ですね、この城で勝手は許しません、拘束させてもらいます」

 

 体系で言えば二極に位置するであろう二人の女性にそう言われ、俺は前後を彼女達に挟まれた状態で城の中へと進むことになった。

 

 向かうは上階、階段を上がり、幾度かの扉を潜り、そして辿り着いた部屋。

 

「イリヤ、連れてきた」

 

「いいわ、入れて頂戴」

 

 懐かしいその声に涙が出そうになる。

 俺の中にある可能性(きおく)の幾つかが歓喜の声を上げている。

 

 さぁ、家族水入らずの団欒と行こうじゃないか。

 


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