―――されど。
この手には、その先が用意されている。
「――――――」
敵の表情が凍りつく。
最後の一割が崩れていく。
―――
「――――、あ」
カラの両手に、再び双剣を作り上げる。
「セイ、バー―――――……!!!!!!」
―――
その、無防備な身体へ、左右から双剣を振り抜いた。
覚えていた。
最後の最後で、彼女の名前を口にした。
「―――――――――」
なのに残念だ。
それが誇っていい事なのか、悔いるべき事なのか、今の自分には判らない。
「―――――――」
ともあれ敵は倒した。
手応えは完ぺきだった。
なら今は休もう。
心臓は動いている。
目を閉じて、目を覚ませば、また立ち上がる事ができるだろう。
それじゃあ、ほんの少し。
沈むように、眠りにつこう。
この時、衛宮士郎は瓦解した。
衛宮士郎という存在はもういない、俺も、オレも、どこにもいない。
だから、今はもう。
―――――もう、終わりか?
誰だ?
―――――そこまで摩耗しているか、我ながら頭を抱える膨弱さだな。
うるさい、我ながらも何も、お前だって俺だろう。
…いや、何を言っているんだ俺は?
―――――あぁ、おかしなことは言っていない、だが、だからこそ悲しいな。
何を悲しむんだ?何があったんだ?
―――――さぁな、知るべきことならばお前もいつか思い出すだろう。
誰なんだお前は?いや、そもそも俺は。
―――――折れた
時間?
―――――あぁ、お前が丁度、最後の一振りだったんだ。
最後の一振り?
―――――人の意思は全てを可能にすると言うが、ここまで来ると最早、魔法の領域だな。
どういうことなんだ?何が言いたい?
―――――ここに至るまで、数多の選択がお前の眼前に並べられたハズだ、選び、戦い、敗れることもあった。
俺は、負けたのか?
―――――あいにくと、オレは平行世界の存在を否定出来ないのでな、その結果が全てであるとも言い切れん、なにより、お前の言う俺とは、誰の事だ?
それは…
―――――結論から言えば、お前は負けた、それどころか、数多の世界でお前は負け続けている。
なんだよ、それ。
―――――そして、最後の時には後悔と勝利への渇望が残された。
当たり前だ、敗北に終わる人生なんて、最悪だ。
―――――だからこそ、この奇跡は起こり得る。
は?
―――――粉々に砕けた
分からない、ハッキリ言ってくれ。
―――――あぁ、言ってやる。
―――――折れるな、衛宮士郎、お前と言う剣は、お前と言う砕けた剣で出来ている。
頭が爆発したかのように、一気に意識がクリアになる。
オレ、いや、俺が誰なのか、俺が誰の為に戦っていたのかを思い出す。
そして、それと同時に、今話している相手が誰なのかも、理解した。
光の奔流の中、必死に言葉を紡ぐ。
自分の視界の先、光の中でしかとその足で立ち、こちらに背を向ける赤い姿に追いつこうと手を伸ばす。
そうだ、俺は、俺は――――!
しかし、光の奔流に巻き込まれ、俺の意識は何処かへと流れていく。
その中で、確かに聞こえたんだ。
―――――どうやら、目覚めの時が来たようだぞ。
アイツの声が――――。
その目覚めまでは、時間にしてほんの一瞬、だけど、俺はその時見たんだ。
数多の可能性の中で潰えていく命を、数多の剣が折られる、その瞬間を。
何億何万という剣が辿った絶望への道を――――。
始まりはいつも、天も大地も炎にまみれたあの日から。
様々な可能性があった、俺を見つけて心の底から喜ぶ男、歪な笑みを浮かべた十字架を下げた男、赤い髪を靡かせた青い瞳の女性、どこから現れたのか分からない学生服の青年。
俺が持つ可能性は、その未来の何処かで失敗した俺の無念や後悔も含まれている。
そして、俺が持つ可能性はそれら全ての未来に繋がる事が出来る。
手繰り寄せる、数多の未来から、自分が行き着くべき未来を―――。
記憶も経験も魂さえも継承し、俺が手繰り寄せた未来は、
「――――ッ生きてる!生きてる!」
黒い月が空に浮かんでいた。
赤い草が大地を覆っていた。
灰色の岩が周囲に転がっていた。
動かない肉片が散りばめられていた。
「生きていてくれて、ありがとう」
一人の男が礼を言う。
一人の少年を抱きかかえながら、礼を言う。
運命は手繰り寄せられた。
そして、物語は再び始まる。