Fate/Endless Night   作:スペイン

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第1話 スパークスライナーハイ

 ―――されど。

    この手には、その先が用意されている。

 

 

「――――――」

 

 敵の表情が凍りつく。

 最後の一割が崩れていく。

 

 ―――唯名(せいめい) 別天二納メ(りきゅうにとどき)

 

「――――、あ」

 三度目(げんかい)を超えて、その先へ。

 カラの両手に、再び双剣を作り上げる。

 

「セイ、バー―――――……!!!!!!」

 

 

 

 ―――両雄(われら)共ニ命ヲ別ツ(ともにてんをいだかず)……!

 

 

 その、無防備な身体へ、左右から双剣を振り抜いた。

 

 

 

 

 

 

 覚えていた。

 最後の最後で、彼女の名前を口にした。

 

「―――――――――」

 

 なのに残念だ。

 それが誇っていい事なのか、悔いるべき事なのか、今の自分には判らない。

 

「―――――――」

 ともあれ敵は倒した。

 手応えは完ぺきだった。

 なら今は休もう。

 心臓は動いている。

 目を閉じて、目を覚ませば、また立ち上がる事ができるだろう。

 

 

 

 

 

 それじゃあ、ほんの少し。

 沈むように、眠りにつこう。

 

 

 

 

 

 

 

 この時、衛宮士郎は瓦解した。

 衛宮士郎という存在はもういない、俺も、オレも、どこにもいない。

 

 

 だから、今はもう。

 

 

 

 

 

 ―――――もう、終わりか?

 

 

 誰だ?

 

 

 ―――――そこまで摩耗しているか、我ながら頭を抱える膨弱さだな。

 

 

 うるさい、我ながらも何も、お前だって俺だろう。

 

 …いや、何を言っているんだ俺は?

 

 

 ―――――あぁ、おかしなことは言っていない、だが、だからこそ悲しいな。

 

 

 何を悲しむんだ?何があったんだ?

 

 

 ―――――さぁな、知るべきことならばお前もいつか思い出すだろう。

 

 

 誰なんだお前は?いや、そもそも俺は。

 

 

 ―――――折れた(お前)を鍛え直すのは少々骨が折れる、それに、どうやらそろそろ時間の様だ。

 

 

 時間?

 

 

 ―――――あぁ、お前が丁度、最後の一振りだったんだ。

 

 

 最後の一振り?

 

 

 ―――――人の意思は全てを可能にすると言うが、ここまで来ると最早、魔法の領域だな。

 

 

 どういうことなんだ?何が言いたい?

 

 

 ―――――ここに至るまで、数多の選択がお前の眼前に並べられたハズだ、選び、戦い、敗れることもあった。

 

 

 俺は、負けたのか?

 

 

 ―――――あいにくと、オレは平行世界の存在を否定出来ないのでな、その結果が全てであるとも言い切れん、なにより、お前の言う俺とは、誰の事だ?

 

 

 それは…

 

 

 ―――――結論から言えば、お前は負けた、それどころか、数多の世界でお前は負け続けている。

 

 

 なんだよ、それ。

 

 

 ―――――そして、最後の時には後悔と勝利への渇望が残された。

 

 

 当たり前だ、敗北に終わる人生なんて、最悪だ。

 

 

 ―――――だからこそ、この奇跡は起こり得る。

 

 

 は?

 

 

 ―――――粉々に砕けた(お前)という存在が、数多の世界からその知識と経験と魂を持ち合って、今、新たな(お前)を創ろうとしている。

 

 

 分からない、ハッキリ言ってくれ。

 

 

 ―――――あぁ、言ってやる。

 

 

 

 

 

 ―――――折れるな、衛宮士郎、お前と言う剣は、お前と言う砕けた剣で出来ている。

 

 

 

 

 頭が爆発したかのように、一気に意識がクリアになる。

 

 オレ、いや、俺が誰なのか、俺が誰の為に戦っていたのかを思い出す。

 

 そして、それと同時に、今話している相手が誰なのかも、理解した。

 

 

 

 光の奔流の中、必死に言葉を紡ぐ。

 自分の視界の先、光の中でしかとその足で立ち、こちらに背を向ける赤い姿に追いつこうと手を伸ばす。

 

 

 そうだ、俺は、俺は――――!

 

 

 しかし、光の奔流に巻き込まれ、俺の意識は何処かへと流れていく。

 

 その中で、確かに聞こえたんだ。

 

 

 ―――――どうやら、目覚めの時が来たようだぞ。

 

 

 

 アイツの声が――――。

 

 

 

 

 

 その目覚めまでは、時間にしてほんの一瞬、だけど、俺はその時見たんだ。

 数多の可能性の中で潰えていく命を、数多の剣が折られる、その瞬間を。

 

 

 何億何万という剣が辿った絶望への道を――――。

 

 始まりはいつも、天も大地も炎にまみれたあの日から。

 様々な可能性があった、俺を見つけて心の底から喜ぶ男、歪な笑みを浮かべた十字架を下げた男、赤い髪を靡かせた青い瞳の女性、どこから現れたのか分からない学生服の青年。

 俺が持つ可能性は、その未来の何処かで失敗した俺の無念や後悔も含まれている。

 

 そして、俺が持つ可能性はそれら全ての未来に繋がる事が出来る。

 

 

 手繰り寄せる、数多の未来から、自分が行き着くべき未来を―――。

 記憶も経験も魂さえも継承し、俺が手繰り寄せた未来は、

 

 

「――――ッ生きてる!生きてる!」

 

 黒い月が空に浮かんでいた。

 赤い草が大地を覆っていた。

 灰色の岩が周囲に転がっていた。

 動かない肉片が散りばめられていた。

 

「生きていてくれて、ありがとう」

 

 一人の男が礼を言う。

 一人の少年を抱きかかえながら、礼を言う。

 

 

 運命は手繰り寄せられた。

 

 

 

 そして、物語は再び始まる。

 

 


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