魔法先生も異世界から来るそうですよ!   作:さゆとき

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第4話

 

日も暮れ始め、周囲が赤みを帯びてきた箱庭の噴水広場前に───黒ウサギさんの説教が飛び交う。

 

「な、なんであの短時間に“フォレス・ガロ”のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状態になったのですか!?」「しかもゲームの日取りは明日!?」「準備している時間もお金もありません!」「一体どういう心算(つもり)があってのことです!?」

「聞いているのですか3人とも‼︎」

 

「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」

 

「だまらっしゃい‼︎‼︎」

 

 まるで事前に打ち合わせでもしていたかのような言い訳に激怒する黒ウサギさん。

 さて、黒ウサギさんがどうしてこんなにも激怒しているかというと──

 

 ・黒ウサギさんと別れた2人はジン君の案内で箱庭に入り、今いる“六本傷”のカフェテラスで軽食をとっていた。

 

 ・3人で楽しく会話をしていると、ピチピチタキシードを着た巨大な男、ガルド=ガスパーが乱入してくる。

 

 ・ガルドはジン君のコミュニティの惨状を話し、自分のコミュニティに入るようにと勧誘してきた。

 

 ・しかし、飛鳥さんの恩恵(ギフト)の力でガルドが如何にしてコミュニティを拡大していったかを聞き出した。

 が、なんでも〈相手の女子供をさらって脅迫し、旗印をかけたゲームに乗らざるを得ない状況を作った。そして、その子供達はもう殺した〉という最低最悪のやり方だった。

 

 ・そしてそれを聞いた飛鳥さんが、〈コミュニティが瓦解するだけでは足りない、あなたのような外道は己の罪を後悔しながら罰せられるべき〉という思いから、『私たちと【ギフトゲーム】をしましょう。貴方の“フォレス・ガロ”の存続と“ノーネーム”の誇りと魂を賭けて、ね』と提案する

 

 そうして現在黒ウサギさんが大激怒という状態に戻る。すると十六夜君が、

 

「別にいいじゃねぇか。見境なく選んで喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」

 

「い、十六夜さんは面白ければいいと思っているかもしれませんけど、このゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ?」

 

「まぁ、確かに自己満足だな。時間をかければ立証できるものを、わざわざリスクを負って短縮させるんだからな」

 

「確かにそうね。でもね、私は道徳云々よりも、あの外道が私の活動範囲内で野ざらしになっていることも許せないの。ここで逃せば、絶対にいつか狙ってくるもの」

 

「僕もガルドを逃したくないと思っている。彼のような悪人を野放しにしちゃいけないから」

 

 黒ウサギさんは諦めたのか、

 

「はぁ〜──。仕方のない人たちです。まあいいデス。“フォレス・ガロ”程度なら十六夜さんかネギさんが出れば楽勝でしょうし」

 

 といってきたが、

 

「何言ってんだ?俺は参加しねぇよ」

「僕も今回は遠慮しようかな」

 

「当たり前よ、貴方達は参加させないわよ」

 

 当然こうするよね。

 

「だ、駄目ですよ御3人様! コミュニティの仲間なんですからちゃんと協力しないと」

 

「そういうことじゃねぇよ黒ウサギ」

 

 十六夜君が真剣な顔で

 

「いいか?この喧嘩は、こいつらが売って、やつらが買った。なのに俺たちが手を出すってのは無粋だって言ってるんだよ」

 

「あら、わかってるじゃない」

 

「───。ああもう、好きにしてください」

 

 丸一日振り回されすぎて疲弊したのか、黒ウサギさんは自慢のうさ耳をヘニョらせて、がくりと肩を落とした。

 

 

 ※※

 

 

 その後僕たちは黒ウサギさんの提案でギフト鑑定をする為に、“サウザンドアイズ”と言うコミュニティに行くことになった。

 商店に向かうペリベッド通りは石造で整備されていて、街路樹には季節にあった桜が満開に咲いていた。

 すると飛鳥さんが不思議そうな顔で

 

「桜の木───ではないわよね?花弁の形が違うし、真夏になっても咲き続けるはずがないもの」

 

「いや、まだ初夏になったばかりだぞ。気合いの入った桜が残ってもおかしくないだろ」

 

「え、何を言ってるんですか?今は春なんですから普通ですよね」

 

「───? 今は秋だったと思うけど」

 

 ん?僕らは顔を見合わせて首をかしげると、黒ウサギさんが笑いながら説明してきた。

 

「皆さんはそれぞれ違う世界から召喚されているのデス。時間軸以外にも歴史や文化、生態系などところどころ違うところがあるはずですよ」

 

「へぇ?パラレルワールドってやつか?」

 

「いや、多分ですが立体交差平行世界論じゃないですか?」

 

「ネギさん正解です。ただこれを説明すると長くなるのでまたの機会ということに」

 

 お、どうやらお店に着いたみたいだね。

 っと、ちょうど割烹着の女性店員さんが看板を下げるところだったようで───黒ウサギさんが滑り込みでストップを──

 

「まっ「まったなしですお客様。うちは時間外営業はやっていません」──」

 

 ───かけることもできなかったか。それにしても流石は大手商業コミュニティ、押し入る客の拒み方にも隙がない。

 

「なんで商売っ気のないお店なのかしら」

 

「ま、全くです!閉店前の5分前に客を締め出すなんて!」

 

「文句があるなら他所へどうぞ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

 

「出禁!?これだけで出禁とかお客様なめすぎでございますよ!?」

 

「なるほど、“箱庭の貴族”であるウサギのお客を無下にするのは失礼ですね。中で入店許可を行いますのでコミュニティの名前をよろしいですか?」

 

 黒ウサギさんがどんどんヒートアップしていくが、店員さんの一言で言葉に詰まってしまう。

 

「俺たちはノーネームっていうコミュニティなんだが」

 

「ほほう。ではどこのノーネーム様でしょうか?よかったら旗印を確認させていただいても宜しいでしょうか?」

 

 全員の視線が黒ウサギさんに集中する中、彼女は心底悔しそうな声で

 

「その───あの───私達に旗はありま『いぃぃぃやほぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウザギイィィィ!』ってキャァーー」

 

 空中から飛来した白い物体は黒ウサギさんにぶつかり、そのまま用水路に転がり落ちていった。

 

「──おい店員。この店にはドッキリサービスがあるのか?

 なら俺も別バージョンで是非」

 

「ありません」

 

「なんなら有料でも」

 

「やりません」

 

 十六夜君と店員さんは真剣な顔して何言ってるんだか…。

 

「白夜叉様!?どうしてあなたがこんな下層に!?」

 

「そろそろ黒ウサギが来る予感がしておったからに決まっておるだろうに!フフ、フホホフホホ! やはり黒ウサギは触り心地が違うのう!ほれ、ここが良いかここが良いか!」

 

「し、白夜叉様!ちょ、ちょっと離れてください!」

 

 って、白夜叉さんって呼ばれた人がこっちに縦回転で飛んでくる───

 

「ネギ、パース!」

「ゴバァ!」

「ちょっと!? よっと、大丈夫ですか?」

 

 まさか蹴り飛ばしてくるとは──

 

 「う、うむ。おんしのお陰で助かったぞ。それにしてもおんし、飛んできた初対面の美少女を足で蹴り飛ばすとは何様だ!」

 

「十六夜様だぜ。以後よろしくな和装ロリ」

 

「僕はネギ・スプリングフィールドですよ」

 

「な、なに⁉︎おんし今スプリングフィールドといったか⁉︎」

 

「え、えぇ、そうですけど?」

 

「そうか、おんしが──」

 

 スプリングフィールドに反応した?

───いやまさか、ね。

 

「あなたはこの店の人なの?」

 

「おお、そうだとも。このサウザンドアイズの幹部、白夜叉様だよご令嬢。仕事の依頼なら恩師のその年齢の割に発育の良い胸をワンタッチ生揉みで引き受けるぞ」

 

「オーナー。それでは売り上げが伸びません。ボスが起こります」

 

 冷静な声で女性店員が釘をさしてきた。ちょうどその頃黒ウサギさんが濡れた服を絞りながら上がってきたところだった。

 

「うう───まさか私まで濡れることになるなんて」

 

「因果応報──かな」「ニャー」

 

 

「まあいい。話があるなら店内で聞こう」

 

「宜しいのですか?彼らは旗を持たない“ノーネーム”の筈。規定では

 

「“ノーネーム”だとわかっていながら名を尋ねる性悪店員に対する詫びだ。身元は私が保証するし、ボスに睨まれても私が責任を取る。いいから入れてやれ」───」

 

 少し拗ねたようにこっちを見てくる店員さんの前を通り、白夜叉さんの後に続いて僕たちはサウザンドアイズの暖簾をくぐった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あけましておめでとうございます。

正月はのんびりしよう!という思いでいたらいつの間にか一週間経っていて……



それでは、今回も読んでいただきありがとうございました!

次回、白夜叉の試練。
どうぞお楽しみに〜

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