◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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じゃ、行くとしますかぁ

 珱嗄が中学を卒業して2年。珱嗄は2年前からずっとぐーすか寝ているばかりだ。本当なら珱嗄は高校三年を始める頃なのだが、ニート生活をすっかり気に入ってしまったのか全く学校へ行く気配が無い。

 実際、高校に行くだけなら僕が手を回して箱庭学園に通わせることも可能なのだが、珱嗄が行こうとしない限り無理だろうなぁ。それに、13組に入ったら永久自習の校則で結局学校に行かないかもしれない。

 

 これが不登校の息子を持った母親の心情という物なのかな? 確かにこれは辛い物があるね。

 

「zzz……」

 

「全く……そんなことしてたら何時まで経っても面白い事なんか味わえないよ?」

 

 文字通り、寝てばかりいる珱嗄。それは、起きて寝てを繰り返している訳じゃない。本当に2年間という年月を寝て過ごしているのだ。一度も起きることなく、一度も食事や会話をすることなく。

 当然、そんなことしてたら身体は衰弱して栄養失調で死んでしまうだろう。だが、珱嗄には僕と同様膨大な数のスキルがある。寝ていても以前と同様の肉体を保っている。まさに、健康そのもの。

 

「ああ、そういえば……珱嗄の注目してた黒神めだかが箱庭学院に入学するんだっけ? 時間が経つのは本当に早い物だね」

 

 最近ではすっかり独り言が多くなってしまった僕。当然、珱嗄とは2年間会話して無いし、夢の中に現れようとしてもスキル無効化スキルが常時彼を護っているのでそれも出来ない。

 

「……さて、それじゃあそろそろ計画を次の段階に進めようかな」

 

 以前から始めた新しい僕の「出来ない」。それは、【完全な人間作り】。箱庭学園を創ったのも、病院を設置して異常者や過負荷の子供達のデータを集めたりしたのも全てがこの為だ。

 

「じゃ、珱嗄。僕はちょっと出てくるね」

 

 僕は寝ている珱嗄にそう告げ、家を出た。いい加減封印も解けてくれないかなぁ……家の中なら珱嗄のスキル防護が働いてるから封印も消えてくれるんだけど……外に出たら途端に復活するねちっこさ、全く嫌になるぜ

 

 

 

 ◇

 

 

 ―――なじみが外へ出た次の瞬間。泉ヶ仙珱嗄の瞼がピクリと動いた。ゆっくりとその青黒い眼を開き、布の擦れる音を出しながら、ゆらりと上体を起こした。

 

「―――分かってるさ。だから、今まで寝てたんだしね」

 

 珱嗄はそう言って2年前と同様口元をゆがませて不敵に笑う。2年間寝ていたのは、その間何も面白い事が無いと知っていたから。あと、普通に休みたかったから。

 

 どちらにせよ、スケールのでかい休憩だった。

 

「さて、そろそろ物語が始まる訳だし……必要な情報はなじみの独り言から最低限得ているし……まぁイケるだろ」

 

 

 睡眠中に意識を外に向けられるスキル【睡眠学習(スリーピングデスク)

 

 

「じゃ、行くとしますかぁ……」

 

 珱嗄は一つ伸びをして、その瞳を輝かせながら家を出たのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 さて……この2年の間、なじみの奴が主観でやってたみたいだけど……それは大幅カットで。正直、物語に関係ないし、読者からしてもさっさと本編やれよって感じで飽きてくるだろうからね。

 

 まぁ? なじみが俺の分身を作って擬似デートしてたり、俺の寝ている傍で色々とシテいたり、一生懸命女子力なるものを磨いていたりと可愛いサイドストーリーもあったのだが……まぁ語らなくても良いよね。

 

「さて、箱庭学園も久しぶりに見たな。中学三年の受験生に混ざって一回見学しに来た事もあったし」

 

 見上げれば、とても大きな時計塔を中心に広大な面積を誇る超マンモス校、箱庭学園の校門が俺を迎える。そこには、新入生が在校生と共に登校しているのが見えた。そんな中、色々と制服を改造している生徒がちらほらと見えるのだが、それ以上に俺の着物姿は目立っていた。

 

「んー……とりあえず、俺がこの高校に受かった事にして教室行くか」

 

 過去を塗り替えるスキル【三回廻ってやり直せ(スタートオーバー)】を発動。俺が過去に箱庭学園を受験して合格し、13組に入って以降来ていないという方向へ塗り替えた。これにより、今から俺もこの学校の生徒。しかも三年生だ。

 さて、それじゃあ教室に向かうとしよう。現実の受験生にとってこれほど欲しいスキルはないだろうな。ホント、スキルって便利。

 そう思いつつ、歩き出すと、背後から話し掛けてくる声があった。

 

「―――見ない顔だな」

 

「んあ?」

 

 背後にいたのは、巨大な人影。2mに届いているかと思わせるほどの巨大な肉体に、長い薄黄土色の髪、鋭い瞳にはこちらを窺う様な意思を感じさせる。

 

「……うん、やっぱり起きて正解だな。面白そうだ」

 

「何を言ってんだ?」

 

「ああ、自己紹介しようか。俺の名前は泉ヶ仙珱嗄、面白い事が大好きな男だよ。ちなみに3年13組の生徒だよ。今まで来なかったんだけど、気まぐれで来てみた」

 

「……なるほど、俺の姿を確認出来つつ忘れる様な素振りもないトコを見ると異常なのは確実だな。俺も3年13組の生徒だ。クラスメイトだな」

 

「へぇ……」

 

 見れば見る程、会話すればする程面白そうな雰囲気を醸し出す彼。名前は日之影空洞、【知られざる英雄(ミスターアンノウン)】と呼ばれなかった男にして、前生徒会長か。

 ちなみに、この情報もスキル参照。視認した人物の情報を得るスキル【人権診慨(ノンプライパシー)】を使っている。なじみと初めて会った時もコレ使ってるから。

 

 でも、答えを知るスキルは創っていない。いや、一回保有してた事もあったんだけど……正直、展開が分かってつまらないから、スキルを削除するスキル【葬失陥(スキルロス)】で一回削除した。

 今は一番最初の考えたスキルを創り出すスキル【嗜考品(プレフェレンス)】もスキルのオンオフが付けられる様になってよっぽどの事が無い限り常時オフにしている訳だし、現在はスキルが増える事もない。

 

 まぁソレは置いておいて、今は目の前の彼の事。

 

「それじゃあまぁ、これから登校するからよろしく」

 

「おう、わかんねぇ事があったら何でも聞いてくれ」

 

 そう言って、俺と空洞君は教室に向かって歩き出す。制服の空洞君と、相変わらず着物姿の俺、傍目から見たら俺が一人で歩いている様に見えるのだろうが、それはつまり俺しか目立ってないわけで、少しだけ気配を消せる空洞君のキャラを羨ましく思ったのだった。

 

 まぁ、スキル使えば出来るんだけどね?

 

 


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