◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
珱嗄となじみは、光に包まれたかと思ったら、教室の扉の前に立っていた。見れば、廊下がどこまでも続いており、目の前の扉以外は全て壁だった。そして、珱嗄はそんな中でとなりに立つなじみを見た。彼女も少なからず驚いているようで、きょろきょろと当たりを見ながら少し慌てていた。
そして、そこで珱嗄は気が付いた。自分の身体に起こっている異変に。
念能力と魔法の力が戻っている。昔と同様に自分の身体をオーラが纏っているのが分かるし、全ての魔法の知識と展開の方法が頭の中を駆け巡る。どうやら、この別次元においては昔の力が使用可能の様だ。
「な、なんか珱嗄から物凄い威圧感を感じるんだけど……」
「気のせいだよ」
珱嗄はそう言ってスルーする。元々、ハンターハンターの世界から既に数億年の時が経っている。珱嗄のオーラの量もそれに応じて増えているし、その質もそれに応じて向上している。普通に纏をしているだけでメルエムと戦った時並に他人へ威圧感を与えてしまっていた。
更に言えば、それに魔法の力と人外のスキルが加わるという凶悪な掛け合わせが為されているのだ。威圧感どころか常人ならショックで気絶か死ぬくらいありえそうだ。
「まぁ今の俺なら世界の一つや二つ簡単に吹き飛ばせそうだ」
「さらっと怖い事言うね……」
「まぁいいじゃないか、ほら行くぞ」
「あ、待ってよ!」
珱嗄は扉を開けて、中に入った。それに続くようになじみもパタパタと付いてくる。扉を開けた先には教室があり、そこには二人の人物がいた。
手入れのされていないボサボサの黒髪に、黒いタンクトップの上に黒いコートを着て、こちらを吃驚した眼で見る男と、癖のある白髪ショートの髪に、太ももまで隠す薄手の白いロングコートを着て、大きな帽子を被っており、猫の様な吊り目を丸く見開いている女だ。
二人とも視線は珱嗄に集中しており、お互いに対しても驚きを感じているようだった。
「よう、久しぶり!」
珱嗄がそう言うと、二人はぴくっと反応する。そして、珱嗄がどういう状況なのかと困惑している二人に対してゆらりと笑ってみせると、二人は脱力したように歩み寄ってきた。
「久しぶり、オウカ」
「久しぶりだね、オウカ!」
「ああ、そうだな。クロゼ、ネコー」
「ピトーだよ!!」
そう、相手はクロゼとピトーだった。珱嗄とピトーの懐かしいやりとりに三人で噴き出す様に笑
う。なじみはそんな三人の表情を、特に珱嗄のそんな表情を見て、疎外感を感じた。久しぶりに会った親友やペット?との会話で開放的な笑顔を浮かべる珱嗄は、なじみも見たことが無かったのだ。
見れば分かる。珱嗄にとって、彼らは自身と対等の存在なのだ。実力が下だとしても、親友で、対等で、無条件で信頼し合える関係なのだ。だから、ああも開放的な笑みを浮かべているし、ああも警戒心なく接する事が出来るのだろう。
少しだけ、嫉妬した。
「それにしても、これはどういう状況だ? 俺は確か死んだと思ったんだけど?」
「ボクも」
「ああ、蘇生した」
「さらっと凄いこと言ったな今」
「どういうことなの……」
珱嗄とクロゼ達が話しているなかに、なじみは入っていけない。とりあえず近くの机に腰掛けて、三人の会話が終わるまで静観することにした。
「実は俺最近面白い力を手に入れてさ。それで二人を蘇生させてみた」
「なるほど……お前の規格外はそこまで行ったのか」
「でも……また会えて嬉しいよ……オウカ」
珱嗄に対して、ピトーとクロゼはとても嬉しそうな表情を浮かべた。
「ああ、そうだ……紹介したい奴がいるんだ」
「ん? そういえばその子は?」
「オウカ、まさかまた女の子を誑かしたの? 全く……何度目だと思ってるの?」
クロゼとピトーはなじみを見て各々反応を返した。クロゼは普通にオーラを垂れ流している一般人の女の子だと判断し、ピトーは珱嗄が誑かした少女だろうと判断した。
実の所、珱嗄とピトーの旅は100年近く続いたのだが、その間珱嗄は出会う女の子に何故かモテた。珱嗄が何かをした訳ではない、寧ろ何もしなかったのに勝手に恋が始まっていたのだ。
恋が始まるのは決まってしばらく経ってからなので、一目惚れという訳ではないだろうが、今までそんな素振りも無かった相手がいきなり恋を始めているから厄介だった。ピトーはいつもその恋愛に巻き込まれていた。
「知らん」
「だろうね」
「まぁとりあえず……安心院なじみ、今はコイツと一緒に楽しくやってるよ」
「どうも、僕の名前は安心院なじみ……親しみを込めて安心院さんと呼びなさい」
なじみは紹介されたので、そう自己紹介した。すると、クロゼとピトーはニコッと笑った。
「ははは、面白いお嬢ちゃんだな。それじゃ安心院さん、俺はクロゼだ。一応オウカの親友をやってる、コイツの事、これからもよろしく頼む」
「ボクの名前はネフェルピトー。ネコーじゃなくてピトーって呼んでね、良いかな? ピトーだよ? よろしくね」
二人はなじみの言葉に自己紹介で返した。そして、それぞれ握手を交わす。
「ちなみに、オウカは渡さないよ! オウカはボクのだからね!」
「何言ってんのお前?」
「100年一緒に旅したんだから、ボクとオウカはもう家族みたいなものだよ」
「いやそうじゃなくていきなり何言いだしてんだよ」
「……死人が何を言おうが僕には関係ないね。それに、たかが100年ちょっとじゃないか」
何故か張り合いを始めるなじみ。珱嗄はピトーとなじみの板挟みで苦笑する。
「ボクの方がオウカの事をよく知ってる!」
「僕の方が珱嗄を面白くさせてあげられるよ!」
わーぎゃー騒ぎ始めた女子二人。珱嗄はそんな二人の間に立ちながら顔だけ振り返ってクロゼを見る。そして、困った様に笑みを浮かべると、クロゼもそれに対して困った様に笑みを浮かべた。