◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
少しだけ昔の話をしよう。そう、あれはまだ箱庭学園が無かった頃、言ってしまえば人間がまだ文明的な発明をする以前の話。具体的な年数はもう忘れてしまったが、顔を上げればまだ自然の方が多かった時代の話だ。
二人は誰もいない草原で、今でいう所のピクニックをしていた。特に何か用意していた訳ではない。女子が料理をバスケットに入れて持ってくるような展開は無いし、男子が女子の服装を可愛いと褒める事もない。恋愛漫画みたいなやりとりは特になく、ただ草原の中で吹き抜ける風を感じながらのんびりと時間が過ぎ去るのを感じていた。
会話はあまりなかったけれど、二人の間に気まずさはなく、寧ろ風の音だけが聞こえていたその時間は、二人にとって心地良いものだった。
安心院なじみはこの時、まだ珱嗄への恋愛感情を自覚していなかったが、それでも少なからず珱嗄へ好意を寄せているのは確かだった。だからか、今思うと無意識的にそういう好意に従って動いていた事もよくあったと思う。
安心院なじみは、隣に座って身体を撫でる風に気持ちよさそうに眼を細めている珱嗄を見た。いつもと違って自然な微笑みを浮かべている珱嗄に、少しだけ心が浮かれた。
「ねぇ珱嗄」
「ん?」
何か話題がある訳じゃなかったけれど、思わずなじみは珱嗄に話し掛けていた。少し慌てたものの、珱嗄に悟られないように無難な話題を考えて、そのまま口にした。
「珱嗄って昔は何をしてたの?」
「昔?」
なじみは、珱嗄を自分と同じ人外だと認識している。だが、珱嗄がいつ生まれたのかは知らないのだ。この世界においてはなじみと初めて会った時に生まれた。ということになっているが、なじみにとっては空から珱嗄が落ちて来たという認識であり、珱嗄が生まれたという認識はない。
つまり、自分と出会う前に珱嗄は何をしていたのかという疑問が生まれるのは、当然と言えば当然だった。
「昔ねぇ……」
珱嗄はその問いに空を見上げて考えた。昔の事、それはつまりこの世界に転生してくる以前の世界の事になる。思い出せば切りがない。ハンターハンターの世界や、リリカルなのはの世界で作った思い出は、おそらく1300年程の年数になるだろう。
親友や義理の妹、教え子や娘、ペット的な感覚だったが家族になった者もいた。話せば尽きることなく話し続けられるだろう。
「そう言えば、今の俺は何でも出来るよなぁ……そうだな、一回会ってみる?」
「え?」
珱嗄は考えた。今の自分だから出来ること、『死者の蘇生』や『異世界旅行』といった規格外の事が行なえる今だから出来ること。それは、『過去の友人や家族に会う』ということだ。スキルでなら、それが出来る。出来てしまうのだ。
「会うって……誰に?」
「俺の親友とか、娘とか、ペットとか、義妹とか……もう死んでしまった奴らだけど」
安心院なじみは少し眉を潜めた。特に、義妹と娘のあたりで。何故か分からないが、少しだけ気になったのだ。
「まぁ……興味がないっていえば嘘になるかな?」
「それなら良いじゃないか……じゃ、会ってみますか」
珱嗄は発動させる。たった今作りあげたスキルを。そして再会する。数億年ぶりの―――親友たちに
安心院なじみは会う。珱嗄がずっと昔に築き上げた―――絆に
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―――――異世界を纏めるスキル『