◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
さて、めだかボックスの時点で、珱嗄には『
珱嗄はこのスキルで様々なスキルを作り、今まで過ごしてきたのだが、その中にはこういうスキルがある。
異世界を渡るスキル『
これは、めだかボックスという漫画の世界に転生した珱嗄だからこそ思い付いたもので、他の漫画の世界に移りたいと考えた際に思い付いたスキルだ。珱嗄はこれで、幾つかの世界へと遊びに行ってみる事にした。安心院なじみにも同様の効果で別名のスキルを譲渡してあるのだが、現在なじみは不在である。
「さて、どんな世界になるかな?」
珱嗄はこのスキルを敢えてランダム性のある物にしている。行く世界が珱嗄にも分からないのだ。もしかしたら変な世界に行くかもしれないし、もしかしら平和な世界に行くかもしれない。殺し合いのない世界もあり得るだろう。
「楽しみだ」
珱嗄はそう言って、スキルを発動させた。そして次の瞬間。珱嗄はその姿を消したのだった。
◇ ◇ ◇
――珱嗄inダンガンロンパ――
珱嗄が眼を開けた時、視界に入って来たのは鉄と球磨川を彷彿とさせる無骨な螺子で密閉された静かな教室だった。状況を考えると、どうやら珱嗄は監禁されているようだ。
とりあえず珱嗄は鉄板で覆われた窓に近づき、螺子を回してみた。
「あ、回る……」
珱嗄がちょっと力を込めたら螺子はキュッと甲高い音を立てて外れた。珱嗄は少し気まずそうな表情を浮かべた後、何も無かった様に螺子を元に戻した。
そして、その後教卓に眼を向けて、プリントがあるのを見つけた。
「っと、なんて書いてあるのかなー……っと……」
プリントにはこう書いてあった。要約すると、
『オマエラ、八時に体育館で、入学式を取り行います。』
まぁそういうことだ。時計を見ると、8時10分。
「さーて遅刻だ、どうしよう」
珱嗄はそう言って、頭を掻き、体育館へ向かった。
◇
体育館に辿り着いた珱嗄は、ドアに耳を近づけて中の様子を窺った。すると、中々物騒な話をしているのが分かった。
『殺し方は、問いません! 誰か殺した人は、ここから出られます!』
何処かで聞いた事のある声が聞こえてくる。すると、十数名の反抗的な声が聞こえて来た。いよいよもって遅刻の様だ。
まぁそんな事を気にする珱嗄でも無い。気楽に考えながら音を立てて入った。
「ちーす」
『!?』
「転校生の泉ヶ仙珱嗄です。敬意を込めて珱嗄さんと呼びたまえ」
「いや、入学式に転校生は無いと思うんだけど……」
パーカーを着たアンテナ君がそう言った。珱嗄はとりあえず気にせず周囲を見渡す。すると、壇上に、白黒のクマがいた。なんというか、趣味の悪いぬいぐるみである。
珱嗄はとりあえず、考えるのを止めた。いつもどおり、思った通りに行動する事にした。
「遅かったね、珱嗄君! 8時集合って言ったでしょ! 遅刻するなんて、寝坊すけさんだねぇ~」
「なぁそこの不良、アレ何?」
「あん? 俺の事かそりゃあ? モノクマっつー趣味の悪ィぬいぐるみだよ、さっきから妙なことばっかり抜かしてやがる」
「へー……モノクマ? ははは、そりゃ変な名前だ」
「馬鹿にするなっつーの! それに、ぬいぐるみじゃなくて、学園長なんですけど」
モノクマの言葉に珱嗄は面倒そうに首を振った。そして、スキルを使ってその場にいる全員の詳細を情報を取得していく。スキルなんて誰も知らないから使ってもバレない。
人数は珱嗄を含めて16人。どうやら、此処にいる者はそれぞれ『超高校生級』と呼ばれる才能を持っているらしい。
苗木誠 『超高校生級の幸運』
大和田紋土 『超高校生級の暴走族』
桑田怜恩 『超高校生級の野球選手』
江ノ島盾子 『超高校生級のギャル』
腐川冬子 『超高校生級の文学少女』
十神白夜 『超高校生級の御曹司』
舞園さやか 『超高校生級のアイドル』
霧切響子 『超高校生級の???』
セレス以下略『超高校生級のギャンブラー』
山田一二三 『超高校生級の同人作家』
朝比奈葵 『超高校生級のスイマー』
大神さくら 『超高校生級の格闘家』
石丸清多夏 『超高校生級の風紀委員』
葉隠康比呂 『超高校生級の占い師』
不二咲千尋 『超高校生級のプログラマー』
なるほど中々愉快な面子である。ちなみに、珱嗄は『超高校生級の人間』となっていた。なんだその才能は。霧切響子は何故か情報制限みたいに謎のままだった。神の見えざる手か。
「まぁいいや、遅刻した珱嗄君は、他の人から詳細を聞いてね! じゃ、これで入学式は終わりとなります! 豊かで陰惨な学園生活を、どうぞ楽しんでくださいねー!」
モノクマがそう言って消えて行った。
「なんか頭の悪そうなクマだな」
「それでも、この状況を支配しているのはあのモノクマよ」
「霧切響子だっけ?」
「何故貴方が私の名前を知っているのか気になるけど、まずは情報把握が先ね。私達はこの学園に閉じ込められたのよ。そして、此処から出るには、この中の誰かを殺さなくてはならない。貴方もこれを持っているでしょ?」
霧切が取りだしたのは、学生手帳型スマートフォン。珱嗄は着物の袖を探り、同じものを取りだした。なんというか、用意周到というか、状況に優しいスキルである。
「まず、重要なのは今話した事と、この学生手帳に書かれている校則を守ること。さしあたって今注意すべき事はそれだけよ」
「そう……ちなみに校則破ったらどうなんの?」
「おそらく、殺されると思うわ」
「モノクマを攻撃しても、か」
「ええ、先程大和田君……そこにいる彼がモノクマに食い掛かった時、モノクマは爆発したわ」
「へー、で……どうすんの?」
「それは今からこの学園から出る方法を模索してから考える事になるでしょうね」
珱嗄に大体説明してくれた霧切響子は、そう言うと、さっさと何処かへ行ってしまった。それに続く様に全員が体育館から出て行った。
「なんだアイツら。此処から出たいのか……」
珱嗄は体育館にも張られている鉄と螺子に眼を向けた。とりあえず、皆が戻ってくるのを、螺子を外したり付けたりしながら待つ事にした。珱嗄は自力でいつでも出れるし、今更人殺し位で揺れ動く精神もしてない。大した脅威でもなかった。
「ちょちょちょちょ! 何してんの珱嗄君!」
「あ、モノクマ。去って言った割には再登場早かったな」
「その螺子なんで取れるの!?」
「馬鹿だなお前……螺子なんだから捻子ったら取れるに決まってんだろうが!」
「めちゃくちゃ正論!!?」
「それにだな、鉄如きで俺を閉じ込められるとでも思ったか! せめてオリハルコンくらい持ってこいやこのクマが!!」
「それ伝説の鉱石だよ!!」
「全く……だからクマとか呼ばれんだよ……」
「あれ? これ僕が悪いの? 僕が悪いの?」
珱嗄が螺子を取り外ししているのを監視カメラで見たのかモノクマが現れた。結果、珱嗄に弄ばれているけれど、まぁいいだろう。
「まぁ、俺としては面白そうだから、協力してやるよこんなアホ臭いぬいぐるみなんて作っちゃって悦に浸ってるお嬢ちゃん」
「………うぷ、うぷぷ、うぷぷぷぷぷぷ! 良いね良いね、それは良かった! ここから出られたら困っちゃうからね!」
モノクマはその場でくるくると回りだした。珱嗄はモノクマの頭を掴んだ。
「え?」
「なんか、その笑い方ムカつく。ドラえもんに謝れ」
「うぎゃああああ!?」
珱嗄はモノクマの頭と胴体を引き千切った。すると、頭だけになったモノクマが、ぷんぷんと怒りだす。
「何するんだ! 学園長への暴力は校則違反だよ! やっちゃえ、グングニルの槍!」
「知るか」
「えええ!?」
飛び出て来た槍の全てが、何故か一瞬で全て叩き折られていた。反則過ぎる。
「それは校則以前に全面的なルール違反だよ!!」
「いいかクマ、ルールってのは破る為にあるんだよ」
「守る為にあるんだよ!!」
「そんなもん誰が決めたんだよ!」
「この学園においては僕だよ!」
「ははは、首だけのクマがほざきおる」
「首だけにしたのは君だけど!?」
モノクマは首だけなのに中々ツッコミをこなしてくれる。この調子でツッコミ役として頑張って貰おう。
「……えーと……何、してるのかな? 珱嗄さん……」
「おや君は苗木君。一番地味なのに主人公っぽいオーラが特徴的だね」
「いや、モノクマの首が引き千切られてるのと、叩きおられたその棒切れが気になる所なんだけど……」
「ああこれ……いやーモノクマを引き千切ったら、お仕置きとして槍が出て来たから、全部叩き折ったんだよ」
「ごめん、理解が追い付かないや」
「ま、とりあえず何も無かったんだよ」
「う、うん……とりあえず分かったよ……」
モノクマの頭を投げ捨てて、珱嗄は苗木の前に立つ。小柄な苗木は背の高い珱嗄の胸元に頭が来る。珱嗄はそんな苗木に視線を向けながら、話す。
「で、どうだった? めぼしいものはあったかな?」
「うーん……いや、無かったよ……残念だけど」
「あ、そう。まぁいいじゃん? とりあえず誰か殺そうぜ」
「うん……うん? いやさらっと物騒なこと言わないでよ!?」
「さて……これからどうしようか?」
「急に真面目に戻ったね……でも、皆で力を合わせれば、きっと外に出られるよ!」
苗木がとても真面目に主人公っぽいことを言う。なんというか、人に好かれる性格をしているようだ。
だが、この場合、珱嗄の力だけで何とかなってしまう分、他のメンバーの力が蛇足っぽくなってしまう。
「まぁ、珱嗄君だけでなんとかなりそうだけどね!」
「モノクマ……しぶといね、首だけなのに」
「学園長ですから!」
「学園長関係無いよね?」
「うぷぷぷ、まぁ精々頑張ってくださいねー!」
すると、床ががちゃっと開いてモノクマの身体と頭が落ちて行った。
「まぁいざとなればこうやって螺子外せるし、どうにかなるって」
「うん……そうだよね、何とかなるとよね……あれ? なんか今重大な事を見逃した様な気が……」
「気のせいだよ」
「……そ、そっか……でもそうだね! 頑張ろう!」
苗木はそう言って、胸の前でガッツポーズをする。珱嗄はそんな苗木の頭上で、ゆらりと笑っていた。