◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

8 / 89
半纏、絶対誰にも言うなよ

 さて、中学校生活を続けて早3年。遂に卒業の時が来た。なじみが死に、球磨川君がどっか行ってからという物、仕事は多いわイベントは何も起きないわで面倒な事ばかりだった。

 めだかちゃんは微妙に俺に尊敬の念を抱いてくれてたみたいだし、女生徒に告白された事もあるし、文化祭じゃめだかちゃんが色々とはっちゃけてやらかすし、会長を引き継ぎする際のあれこれを放棄したらめだかちゃんに徹夜で追いかけ回されるし、色々と小さなイベントは有ったのだけど、まぁ普通の学校生活の範囲内だよね。

 

 ああ、それとなじみの奴が懐かしい奴を連れて帰って来た。しばらく死んでいたんだけど、戻って来たんだけど、その際に不知火半纏の奴を連れて帰って来たんだよ。まぁ俺としてもしばらく会ってなかった奴だから懐かしいねぇと思ったりした。

 

 まぁ、なんにせよ卒業式の日がようやくやって来た訳だよ。高校受験なんかしてないし、行く宛てもないからしばらくニート生活を送るんだけどね! 退屈な毎日だろうけど、中学生活と言うデカイ生活を乗り越えた俺はさながら五月病の如く気だるさに包まれているのだ。しばらくの間のんびりダラダラした生活を送りたい。

 

『―――では続いて、卒業生代表挨拶。泉ヶ仙珱嗄君宜しくお願いします』

 

 へ? あれあれ、おかしいな。俺が卒業生挨拶するなんて聞いてないぞ?

 

「珱嗄君、呼ばれてるよ?」

 

「あ、うん」

 

 隣に座ってた同級生の女子が俺に促すので、とりあえず立ち上がり壇上へ進む。その途中でめだかちゃんを見つけたのでアイコンタクトを取る。

 

 

―――何故俺が挨拶する事になってるんだ?

 

―――毎年挨拶は前生徒会長がやる事になってます。

 

―――何故教えてくれなかった?

 

―――聞かれませんでしたので

 

 

 しれっとそんな事を眼で語り、プイッとそっぽを向いてしまっためだかちゃん。これはあれだな、昨日めだかちゃんの仕事を暇潰しに邪魔し続けたのを拗ねてるな絶対。くそ、教えてくれても良いじゃないか。

 そんな事を考えている内にマイクの前に立っていた。とりあえず軽く頭を下げて前に出る。んー……この分じゃめだかちゃんの奴教師陣にも手を回して口封じしてたな。全く、良くやるぜ。

 

『あー……何処かの誰かさんが手を回してこの挨拶の事を俺に知らせてくれなかったので、言葉は何も考えてません。なので、とりあえず何かしら即興で話そうと思います』

 

 この言葉にくすくすと笑う声が聞こえてくる。まぁ、受けてればいいかな。

 

『さてさて、今日で俺達卒業生は文字通り卒業する訳だが……中学生活は楽しかったか? 辛かったか? 幸せだったか? なんにせよ、何も思っていない奴はいないと思う。俺も弄れる後輩とかいきなり消えた同級生とか慕ってくれた女子とか色々関わり持ってなんやかんやで楽しかったよ。まぁ、いつでもリア充になれる状況に嫉妬を抱いて襲い掛かってくる奴もいたけどね』

 

 さらに笑い声が上がる。

 

『ま、これから先高校生活が待っている訳だが……何、不安がる事はない。現実は適当で、未来は退屈で、世界は平凡かもしれない。だが、安心しろ。自分自身が動けば、生きる事は劇的になるから』

 

 これは受け売り。原作で黒神めだかが第一声で発した台詞を色々変えただけのパクリ台詞。だが、この世界においては名言は言ったもん勝ち。この時点で俺のもんだ。

 

『じゃ、高校でも頑張って。以上、そつぎょーせーだいひょー泉ヶ仙珱嗄でした』

 

 また一つ頭を下げて席に戻っていく。その際に、何を思ったか適当な演説に大きな拍手が鳴り響いた。ワーワーと騒ぎ立てる全校生徒にうんざりした表情で席に着く俺。なるほど、だから俺の席は一番前だったのか。出席番号順だと思ってたのに。

 

 まぁなんにせよ、こうして俺の卒業式は終わったのだった。

 

 

 

 

 

「先輩、卒業おめでとうございます」

 

「白々しいなめだかちゃん。あんな意地悪をするとか陰湿だぜ」

 

「毎度毎度仕事をしなかった罰です」

 

「ま、なんにせよ。卒業した訳だ。ありがとさん」

 

「はい」

 

 そう言うと、めだかちゃんは少し俯いた。どうしたのだろうか?

 

「先輩。私は常に生徒会長として生徒の模範となれる様に努めています。だからという訳ではないですが、私は小学校でも卒業式という行事で涙を流した事はないです。悲しくはありましたが、別れを惜しむ程では無かったので」

 

「うん」

 

「だから、泣いている者を見ていてもなんで泣いているのか分からなかったのです」

 

「うん」

 

「でも……今なら分かります。別れを惜しむ人が出来るというのは、こんなにも胸をざわつかせるものなんですね」

 

 めだかちゃんが顔を上げた。その顔にはぽろぽろと涙が溢れていて、表情もくしゃくしゃに歪んでいた。

 

「……そうかい」

 

 多分、めだかちゃん的に見て俺は恋愛の対象と言う訳では無いだろう。この子には人吉善吉というパートナーもいる訳だし、そう言う風に見る相手は彼以外にはいないだろう。

 しかし、めだかちゃんが大なり小なり俺の事を尊敬していると以前言ったのを聞いた。この子の万能性を見れば、今まで尊敬出来る様な人物などいなかったのだろう。だからこそ、尊敬できる俺がいなくなるのは少し寂しく思うのかもしれない。

 

「先輩……寂しいですが、こればかりは仕方ありません。折角だし、この際今まで思ってた事聞いてもらえますか?」

 

「うん、いいよ」

 

「すぅ……先輩は私の目標です。いつか、先輩の様に全ての生徒から慕われる様なそんな人物になりたいと思います。いままで、ありがとうございました」

 

「……ん、確かに聞いたよ。でも、俺みたいになっちゃ駄目だな」

 

「……ですね」

 

 二人で笑う。そして、しばらく談笑した後、俺は帰路に着き、めだかちゃんと別れた。最後の最後まで俺に対して敬語だったなぁ……他の三年生には敬語なんか使わなかったのに。

 

「さて、ニート生活満喫しますかぁ……」

 

 俺はそう呟いて、制服から着物に早着替えして家に転移したのだった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 はい、それじゃ今からしばらく主人公はこの僕、安心院なじみだよ。親しみをこめて安心院(あんしんいん)さんと呼びなさい。

 え? 死んだはずの僕がなんで此処にいるのかって? 馬鹿だな死ぬはずないじゃないか。ちゃんとスキルで対策してあったさ。珱嗄風に言うなら……スキルって本当便利! だね。

 中学生生活を終えた珱嗄は今部屋のベッドでぐーすか寝てるよ。寝顔がね、凄く可愛いんだよ、もう抱きしめたい位。流石は珱嗄、僕の好みドストライクをいつも貫いてくれるじゃないか。

 珱嗄がカッコ可愛過ぎて悶え死にそうだよ!

 

「っとと、いつまでも珱嗄を見てる訳にはいかないか。早くこの封印解かないとなぁ」

 

 珱嗄に頼ればこんな封印すぐに解く事が出来るんだけど、それは僕の矜持と言うかプライド的ななにかが許さない。とりあえずは自分で何とかするとしよう。

 

「んー……でもなぁ、しばらく何かする訳じゃないし……」

 

 ちらりと珱嗄の方を見る。

 

「ぐー……すぴー……」

 

「………もう少し珱嗄を眺めてようかなっ」

 

 そう言って、僕は珱嗄の傍で寝顔を見る。ああ、両手がふさがれてなかったらカメラを使ったのになぁ。あ、そうだ半纏使えば良いじゃん。

 

「なぁ半纏。写真撮って写真」

 

「………」

 

「……今だけは動いても良いんだぜ?」

 

「………」

 

 尚も動かない半纏。チッ……役に立たない男だぜ。ちくしょう。

 

「ああ、でも珱嗄の寝顔で癒されるから良いや」

 

 

 

 

 ―――翌日の朝、僕はいつのまにか珱嗄のとなりで添い寝していたのだけど………それは僕だけの秘密だ。

 

 

「半纏、絶対誰にも言うなよ」

 

「…………」

 

「……少しは反応を示せよ。そんなんじゃ週刊少年ジャンプだとすぐに忘れられるモブキャラになっちまうぜ?」

 

 それでもやっぱり、半纏は反応を示す事は無かった。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。