◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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まぁこれからじっくり分かりあっていこうよ。箱庭学園へようこそ!

 舞う血飛沫、弾ける火花、進む時間、空間が捻子曲がり、時は巻き戻り、技術を真似て、追い縋る。一切の傷を負う事の無かった人外に、少しでも手を届かせようと必死に手を伸ばす。ゆらりゆらりと躱して、逆に投げ飛ばす人外は、その一切の攻撃を己が身に届かせる事は無かった。

 悔しい、悔しい。でも楽しい。これほどまでに自分の攻撃を届かせてくれない相手が、めだかにとっては何処までも楽しくて、嬉しくて、そして尊敬出来た。本当の所は小さい頃より出会っていた二人だが、本当の所で出会ったのは中学時代。そこで彼女は彼を尊敬し、自分もいつかあんな風にとさえ思った。

 最初の印象は、不真面目な先輩。生徒会に入ってからは、少しは考えを持っている先輩。彼が卒業する頃には、敬愛しとても強い人になった。今でこそ完璧な人間などいないと言っている物の、あの頃はこの人こそ完璧だとも思ったのだ。

 

「―――お前の学校生活はどうだった?」

「最高でした」

 

 そんな敬愛し、される二人は激戦を繰り広げる中でそんな会話をする。攻撃の手は一切緩まない。

 

「―――珱嗄さんは私と居てどうでした?」

「最高だった」

 

 お互いが今までに悔いを持っていない。お互いはお互いの存在があったからこそこの学園生活の多くで大切な事を学んだし、面白い日々を送る事が出来た。そこには他の仲間も入るだろうが、めだかは珱嗄に助けられた事が多く、珱嗄はめだかによって楽しく日々を送る事が出来たのだ。

 

「出来る事なら、ずっとこうしていたい」

「でも、時間は有限だ。今で言えばもっと短い間」

「ええ、だから」

「そろそろ終わりにしよう」

 

 珱嗄の言葉と共に、一度距離を取って音が止む。歓声も、打撃音も、無い。しんと鳴りやんだ空間で、二人だけが相手を見ていた。

 

「これが最後です。私の最高の一撃、受けてくれますか?」

「いいぜ、胸を貸してやろう。来いよ黒神めだか――――俺に届かせてみな」

 

 珱嗄はゆらりと笑ってちょいちょいと手招く。そこにあるのは、圧倒的なまでの実力差と自身への自信。黒神めだかが少しでも珱嗄に攻撃を届かせる事が出来れば、それが一番の誇りに出来るだろう。

 

「では、不肖この黒神めだか―――参る!」

 

 地面を蹴るめだか。珱嗄はただ待ちうけるのみ。その距離はおよそ10m程で、一瞬でそれは縮められる。めだかが一歩踏み込み、髪が漆黒に染まる。それは、ずっと前に会得した最初の完全なモード。

 

 

 改神モード

 

 

 めだかはこれで珱嗄に挑む。そして最近会得したスタイルの基礎を使って相手の気持ちを読み、先手を取る。珱嗄の気持ちを完全に理解するのは無理で先手は半分ほどしか取れていないが、それでも十分。

 

「あああああああああああああ!!!!」

 

 咆哮を上げて珱嗄に突っ込んだめだか。珱嗄はめだかのその黒神ファントム通常版による速度に反応し、受け止める。力と力は鬩ぎ合い、お互いの刃を相手に届かせようと前へ前へと進む。

 その衝撃は地面へと伝わり、地割れを起こした。砂煙が舞う。二人の姿が隠れる。そして、ギャラリーが全員その中心に視線を向けて、二人が現れるのを待った。

 

「―――わはは、やっぱりお前は最高だな」

 

 珱嗄の笑い声。それと共に煙が晴れ、二人の姿が見えた。そこには珱嗄が立っており、めだかが倒れていた。どう見てもめだかの負けだ。

 

「めだかちゃんの……負け?」

 

 善吉の呟きが周囲に響く。そして、制限時間が過ぎた事を告げるチャイムが鳴った。これで正真正銘、めだかの負けだ。

 

「おめでとうめだかちゃん。お前の一撃、確かに届いたぜ」

 

 だが、珱嗄はそんな言葉をめだかに言う。その視線の先、めだかの手の中には……確かに珱嗄のコサージュが握られていた。めだかは最後の一撃で珱嗄を打倒しようとしたのではなく、その胸に付いたコサージュを奪う為だけに全力を注いだのだ。

 

「――――――うむ、清々しい結末だった!」

 

 黒神めだかは仰向けのまま、にっと笑ってそう言った。百輪走、これで100輪の花束が揃った。黒神めだかは、こうして箱庭学園を去ったのだった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ―――4月

 

 箱庭学園は人吉善吉達生徒会が指揮って行なわれた入学式を迎えていた。卒業したメンバーと同じ位濃い新入生や、扱いの難しそうな新入生がいて退屈はしなさそうだと思う。

 勿論、めだかの宣言で一年からやり直していた安心院なじみはまだ学園に通っているし、珱嗄は卒業したので此処には居ない。

 

「―――以上です」

 

 そんな中、善吉の挨拶は終わり、続いて新任の教職員の紹介になった。まずは理事長。

 不知火理事長が辞めて、次なる理事長はというと、

 

 

「新しい理事長の黒神めだかだ。よろしく」

 

 

 黒神めだかだった。凛と笑って自己紹介する彼女は、箱庭学園に教師として戻ってきた。それを見て、送り出した善吉達は嬉しそうに笑う。まだまだ、彼女の周囲では騒動が起こっていくのだろう。でも大丈夫だ。何故なら、学んできたからだ。

 めだかの紹介も程々に、彼女へ襲い掛かる血気盛んな新入生が三人。だが、彼女にやすやすと吹き飛ばされる。

 

 

「まぁこれからじっくり分かりあっていこうよ。箱庭学園へようこそ!」

 

 

 人と人との出会いは、無かった事にはならない。一人と一人が出会って、皆になっていく。言葉を繋げて、分かり合う事が出来るのだから、このさきじっくりと繋がっていこう。それが、箱庭学園で黒神めだかという人間が伝えた言葉なのだから。

 めだかは壇上を降りるなか、天井に遮られた空を見上げる。その表情は晴れやかで、清々しい物がある。

 

「ふふふ、まだまだ楽しい日々が送れそうだ」

 

 そんな言葉に、人外の男が何処かでいつも通り―――ゆらりと笑った気がした。

 

 

 

 

                           完


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