◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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―――お前は『最高』だ、めだか

 さて、それからしばらく。残り時間はもう30分を切った辺りで、黒神めだかは97輪のコサージュを回収し終えていた。残るコサージュは3輪、その内の1輪をその胸に付けた球磨川禊とめだかは対峙する。

 ここまで様々な相手が彼女の前に立ちはだかり、散って行った。人吉善吉を始め、雑魚キャラを自称した面々、委員長勢、マイナス13組、十三組の十三人(サーティーンパーティ)、風紀委員、生徒会、不知火一族、鍋島猫美、保護者勢、挙げれば多くの強敵達。それだけの数の強者達に背を押され、黒神めだかは此処にいる。

 

「『……やぁめだかちゃん』『待ってたよ』『本当は僕の以外に安心院さんのコサージュも渡すつもりだったんだけど』『さっきご本人の登場って感じに回収されてね』『残念だけど僕の後はあの二人だ』」

「ああ、分かってる。というか、球磨川。お前それ以外に何か言う事は無いのか? 私に負けた後では喋る事が出来ると思うなよ?」

「『あははまさか』『そっちこそだよめだかちゃん』『97輪も集めておいて気付いてないのかい?』」

「?」

 

 球磨川禊は薄ら笑いを浮かべながらも自分のコサージュを手に取り、そのコサージュに人吉善吉が仕込んだ仕掛けを公開する。

 

「『このネームプレートが二枚重ねになっていること』『そしてどうしてナンバリングされているのか』『不思議に思わなかったのかい?』」

「! 二枚重ね……ナンバリング……あ! ……あ、ああ!!」

 

 二枚重ねになったネームプレートはぺりぺりと二枚に分ける事が出来て、そのナンバリングにならって並べてみると、そこには一枚一枚に書かれた97名のメッセージと、パズルの様に描かれていためだかへの全員からの送る言葉。

 

 

 ―――めだかちゃん、ありがとう!

 

 

 目頭が熱くなる。頬が緩む。気付けば涙目で、ふるふると歓喜の感情が身体を駆け巡り、肩を震わせていた。

 

「……こんな時、なんて言えばいい?」

「『何も言わなくていい』『皆から受け取った言葉の花束』『ただ受け取ってあげなさい』」

「ふん……善吉の奴め。私が何処へ行こうと何れ追いついてくる奴だと思っていたが……あの男、最後の最後で私を追い抜きおった」

 

 心底楽しそうにめだかは言った。

 

「『さて、それじゃあ始めようか』『ああ、お願いだから負けてもらえるとか思わないでね』『全力全開、全身全霊、全速前進』『全力で来てよ』」

「ああ、任せておけ。それではいざ――――――勝負♡」

 

 球磨川禊と黒神めだか。生まれながらの勝者と敗者は何度目かの衝突を始め、そしてその一瞬の攻防の後……決着は着いた。

 

 

 ――――あはは、また勝てなかった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 残り時間も疎らな終盤戦。最後の最後……黒神めだかと対峙した最後の相手は、勿論の事二人の人外達。人外の女は余裕そうな笑みを浮かべて佇み、人外の男は楽しそうにゆらりと笑って座っていた。

 場所は、箱庭学園の校庭。その中心で対峙する黒神めだかと人外達の周りには、多くのギャラリーがいた。球磨川を含む、98名の猛者達と箱庭学園の全校生徒、校外の関係者達。ぐるりと囲むように三人の周囲は人で覆い尽くされていた。

 

「やぁ、めだかちゃん。待ってたよ」

「ああ、安心院さん。まさかこんなに早く再開出来るとは思わなかったぞ。まぁまずは言っておこうか……お帰りなさい」

「ただいま、めだかちゃん。まぁ挨拶はこれ位にしようか……僕と珱嗄が最後の2輪だ。で、二人一片に相手するのは流石にめだかちゃんもキツイだろうからさ」

「まぁそうだな」

 

 めだかとなじみは友人の様に、敵として会話する。珱嗄はそんな二人を眺めながら笑っているばかり。

 

「だから――――先鋒は僕だ」

 

 何処かで聞いた事のある台詞。果たして、それは漆黒宴で影武者を相手取る時の台詞だった。

 

「うむ、3兆年生きた人外である貴女に……一つ、御指導いただこうか」

「何処からでも掛かって来なさい。今なら特別サービスで、全力で叩き潰す事くらいしかしてやれないぜ?」

 

 前置きはこれくらいで良いだろう。二人の少女は楽しそうに笑ってなんの予備動作も無く動きだした。衝突は一瞬の間。衝撃波を撒き散らし、周囲のギャラリーの応援の声を掻き消す轟音が鳴り響く。

 

 

 人外がスキルを発動させる、人間はそれを躱してスキルを発動させた。

 

 人間のスキルが人外に届く、だが人外はそれを真っ向から掻き消した。

 

 人外の蹴りが人間を吹き飛ばす、だが人間はすぐさま体勢を整え迫った。

 

 人間は人外の腕をとり、投げ飛ばした。だが人外は天地を反転させて逆に投げ飛ばした。

 

 人間の拳が届く―――

 

 人外の頭突きが届く―――

 

 

 そうして数秒の中で行なわれた攻防を見届ける事が出来たのは、おそらく数名。その他大勢のギャラリーは、ただただその暴れっぷりに笑みを漏らし、負けじと大声で応援の声を張り上げた。

 

「――――珱嗄は手強いぜ?」

「――――無論、だが私は去って見せるぞ」

 

 短く交わされた一瞬の会話。めだかの凛とした笑みに、安心院なじみはにこりと笑ってわざと隙を見せた。めだかはその隙を的確に衝いてなじみの胸に付いたコサージュを奪い取ったのだった。

 

「ありがとう、安心院さん。私は貴様のおかげで強くなれた」

「よせよ、僕は何もしてない。なにせ平等で平等なだけの、ただの恋する乙女だからね」

 

 安心院なじみは、にこりと普通の少女の様に笑って言った。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 珱嗄side

 

 

 なじみが負けた。とはいえ、この結果は予測済みだ。あの人外はめだかちゃんを大層気にいってたみたいだし、これは元々めだかちゃんを送る為のイベントだ。空気を読んだといった所か

 さて、めだかちゃんがこちらを振り向いた。最後が俺とは中々に面白いじゃないか。足に力を込め、立ち上がる。いつも着ていた青黒い着物の裾がひらりと揺れた。

 思えば、真面目に戦うのはいつ以来か……うん、きっと4000年くらい前になじみをボコボコにしてた石動弐語の時かな? あれはムカついたね。今じゃいい思い出だけどさ。

 

「珱嗄さん、貴方で最後だ。心置きなく戦おうではないか」

 

 めだかちゃんがこちらにそんな言葉を言ってくる。主人公とは如何にもそれらしい雰囲気を纏っている物だ。全く、俺には到底なれそうにもないな。なる気も無いけれど。

 

「そうだね。このコサージュが、最後の1輪だ。だが、俺はそう簡単には負けてやらないぜ?」

 

 とりあえず、軽くそう返す。構えるめだかちゃんの瞳は、とても楽しそうだ。そういえばめだかちゃんとマジバトルするのは初めてか……いやはや感慨深い物があるね。これもある意味、人間らしいというものかな?

 

「ギャラリーが静かだね」

「珱嗄さんが真面目に戦おうとしてるからだ。なんせ珱嗄さんは学園……いや世界最強だからな」

「おっと、そいつは持ち上げ過ぎだぜ」

「それだけ認められているのだ」

「嬉しい限りで」

 

 なるほど、俺の強さはそこまで人を惹き付けるものがあるのか。転生人生を始めてからもうかなり長い事過ごしてきたけれど、ここまで認められたのなら鍛えてきた意味もあったという物だ。

 

「それじゃあ始めようか。時間ももう無いだろうし」

 

 腰布を解いて青黒い着物を脱ぎ捨てた。なじみが回収して嬉しそうに羽織っているから汚れはしないだろう。今の俺の格好は黒いインナーに黒袴のみ。随分と身軽になった。

 

「っ……ははは、着物を脱いだだけなのにかなり変わるな……迫力で倒れそうだぞ」

「怖気づいたか」

「まさか」

 

 めだかちゃんは腰を落とした。後は地面を蹴るだけ。

 さて、それじゃあ戦いながら……めだかちゃんについて考えて行こうか。めだかちゃんが突っ込んできた。黒神ファントム(ちゃんとした版)だ。そんなに速くないので適当に投げ捨てる。

 

「はああああああああああ!!!」

 

 思えば、めだかちゃんと出会ってから俺の原作は始まった。小さな主人公の瞳には多大な可能性が詰まっていて、胸を躍らせたものだ。そこから成長していく彼女の周囲には、既に主要キャラの影がちらほらと感じられたし、彼女の起こす偉業の数々は数十億年待ち侘びた意味もあったという物だ。

 

「ぐっ……! まだまだ!」

 

 人吉善吉を始めとして、多くの人間を魅了してきた彼女の人生は本当に面白かった。まるで漫画の様な異様さと、怪物の様な異形さと、人間の様な人間らしさが混ざり合って、女の子の様な女の子である彼女が出来ていた。

 その頃から俺はなじみ曰く最強無敵の馬鹿とか世界最強とか呼ばれていたけれど、俺としてはそんな物よりも彼女の存在は面白く感じたよ。彼女、というより彼女を取り巻く環境と彼女を中心として騒動が、だが。

 

「終神モード……! 黒神ファイナル!」

 

 いやはや、それからという物随分と楽しませてもらった。生徒会の活動から最近の不知火一族とのいざこざまで、休む暇なく楽しかった。球磨川君を勝たせるのに協力した事も、なじみに現実を思い知らせた事も、善吉君とめだかちゃんの選挙戦も、漆黒宴での言葉遊びも、言彦との喧嘩も、月の破壊も何もかもが変わらず面白かったよ。まさしく娯楽主義者にぴったりの娯楽生活だった。

 だから、俺は今こう思う。めだかちゃん……いや、黒神めだか、お前は―――

 

 

「―――お前は『最高』だ、めだか」

 

 

 さて、めだかのことを考えるのはそろそろお終いにしよう。これ以上は善吉君に嫉妬されてしまうし、なじみも良い気はしないだろう。何せ、アイツは嫉妬深く、独占欲が高いからね。

 

「おや、考え事は終わったのですかな?」

「ああ、終わったよ。今まで適当にあしらって悪かったね」

 

 考え事の最中、俺に掛かって来ていためだかを単純作業の様に投げ飛ばしていたのだが、そのせいでめだかの身体にはそこらじゅうに擦り傷が出来ていた。

 

「で、先程は何と?」

「ああ、俺は改めて思ったよ。いいか黒神めだか、俺は自他ともに認める世界最強の人外だ」

「ええ」

「でも、俺はそんな称号には意味は無いと思ってるんだよ。そんな物より、俺はお前にこそ相応しい称号の方が、随分と面白いと思う」

 

 そうだ、最強なんて面白みの欠片も無い。ただ強いだけの何かに何の意味があるというのだ。だから俺は最強よりも最高を良しとする。

 

「お前は最強以上に最高だよ。お前の周りで起きた全ての騒動に、感謝しよう。さぁ掛かって来い、俺は今気分が良いから、お前に言葉を送る事しか出来ないぜ?」

「それで十分。珱嗄さん、貴方は知らないかもしれませんが……私は中学時代から貴方を尊敬してましたよ。だから、その言葉だけで私は――――何よりも滾って来たぞ!!」

 

 凛と笑う少女とゆらりと笑う人外。

 

「ガッ!?」

「今までの戦闘は戦闘じゃない。ただのお遊びだぜ、めだか」

 

 少女が動きだそうとしたその時、スタイルの先読みと異常な速度を駆使してめだかの懐に潜り込み、腹に掌底をぶつけて吹き飛ばす。

 

「ごふ……あれ、珱嗄さん今までより速くなってないか?」

「俺の着物は幅が広いから空気抵抗も激しいんだよ。頑丈だから通気性も悪いし。だから着てるだけで速度が若干落ちるんだよね」

「そんな週刊少年ジャンプみたいな設定今出しますか……!」

「面白いだろ? まるで打ち切り漫画みたいで」

「確かに!」

 

 笑いながらぶつかる俺とめだか。楽しいね、こんな戦いは今までの人生でも一番楽しいぞ。

 

「制限時間はあと10分。10分もあるんだ、楽しもうぜめだかちゃん? 大丈夫、この勝負が終わった頃には地面に倒れて嬉し泣きしてるだろうよ」

 

 もとより、俺はこの勝負で勝つつもりはない。これはめだかを送り出す為のイベントだからね。

 さぁ黒神めだか、格好良く最高のお前を出し切って、俺に負けろ。お前は最高だが、最強に勝てると思うなよ? 俺は敗北したお前を笑って送り出してやるよ。

 

 

 


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