◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
百輪走を始めて約半数以上のコサージュを集めた黒神めだかの前に現れたのは、不知火一族。そこには人外組の三人の内の一人、不知火半纏や英雄の残響である獅子目言彦までもが立ちはだかっていた。
だが、彼らもまた黒神めだかを送る為にこのイベントに参加した者達。めだかと戦い、笑って、散って行った。不知火半纏もそのコサージュをめだかに渡し、変態影武者達も倒れ、不知火半袖は黒神めだかの言葉で諦めるに至った。
「半袖、あのお嬢様はなんだって?」
「……私の分まで青春を楽しんでくれ、だってさ。めだかちゃんが居ないと楽しさ半減なのにね………でもまぁ友達の頼みだしなー、仕方ねー聞いてやるか! あひゃひゃひゃ☆」
楽しげに笑う半袖。めだかの背中を押す、そんな重要な役目を果たせた後の気持ちは、清々しいよりも爽快だった。
「いやいや、随分と楽しそうだねぇ」
「――――っ! なんだ、珱嗄さんじゃないですか! あひゃひゃ、そう言う貴方は何故此処に? めだかちゃんはもう行っちゃいましたよ?」
「決まってる、俺も彼女の相手を頼まれたんでね。ちょっと本気を出そうかと思って」
「!」
そこに現れたのは珱嗄。ゆらゆら笑いながらもコサージュを胸に付けて、楽しそうな口調で言う。
「とはいえ、珱嗄の言ってる本気ってのは全力でその力を振り回すって訳じゃねーぜ?」
そして半袖の背後から聞こえた聞き覚えのある声。半袖はばっと振り向いた。
「やぁ半袖ちゃん。お久しぶり」
「安心院さん……!?」
「おいおいそんなに吃驚する事かい? 僕の大好きな珱嗄が僕を死んだままにするとか本気で思ってたのかい? 全く、いつもの事ながら君は少し頭が回らない所があるよね」
そこに居たのは安心院なじみ。珱嗄によって復活した人外組の三人の内の一人だ。奇しくもこの場にその人外が三人集まってしまったのだが、特に気にする事も無い。
「さて、僕達は今球磨川君を探して学園中を歩き回ってるんだけど……ここまで捜して居ないとなるといよいよスキルに頼らざるを得なくなるなぁ……ていうか、もしかして入れ違っちゃったかな?」
珱嗄になじみは歩み寄り、そう言う。すると珱嗄はそんななじみの言葉に少し考えた後、まぁそうかと短く呟いてくるりと踵を返した。
「ああ、そうそう。忘れてた忘れてた……言彦」
「む、なんだ安心院」
「よくも殺してくれたなこの野郎」
「むごっ!?」
安心院なじみはそう言ってげしっと横たわる言彦の腹を踏みつけた。その攻撃に言彦は呻き声を上げた物の、子供っぽい安心院なじみの行動に、
「げっげっげ……随分と人間らしくなったものだな安心院。うむ、新しい」
「ふん、僕の事は親しみを込めて、安心院さんと呼びなさい。
「げげげ……それは失礼したな。では改めよう。今の貴様は、新しいぞ
「へぇそんな事を言うのか言彦。今ここで殺してやろうか?」
「げげげ、そう言って儂に勝った事があったか馬鹿め」
バチバチと火花を散らす二人の姿を見て、珱嗄はゆらりと笑った。
「どっちもどっちだ」
◇ ◇ ◇
さて、それから若干の時間が経つ。黒神めだかは現在、不知火一族を倒した後駆け足で進み、鍋島猫美と勝負を延長させたり、婚約者候補である言葉使い達を相手取り、言葉遊びの勝負で勝利したりして順当にコサージュを集めていた。
「次は貴様らか。ふむ、此処でもあの男が居ないとなると……来てないのかと不安になるな。というかお姉様、さっきも居ませんでしたっけ? 十三組の十三人の所で」
「……私は意見を有さない。思うことなど何もない」
「キャラ崩壊も甚だしいですよ!?」
そして終盤、次に現れたのは生徒会の面々。日之影空洞や悪平等の五人、現在と過去の生徒会のメンバーがめだかの前に立ちはだかる。
「名瀬夭歌と黒神くじらは別の人物なんだって。あとあの人ならちゃんと来てるよ。めだかちゃんとは一対一で相対みたいだよ?」
「ふむ、もがなちゃんがそう言うのなら心配は不要か……ではあやつと会ってやるためにもここは押し通らせてもらおうか」
「そうですね、でも俺達もただじゃ負けませんよ。貴方がこの生徒会室でそうして来たように、全力で戦わせてもらいます――――それでは、貴方への感謝に基づき――――」
阿久根は答える。すっと構えながら、めだかへの感謝と尊敬と送迎の心を持って全員がにっと笑った。そして、言う言葉は生徒会としていつも言って来たあの言葉。生徒会は、いつもこの言葉から始まったのだ。
『――――生徒会を、執行する!!!!』
そして、また彼らは散っていく。散っていく中で、確かに黒神めだかの背中を押す。前へ前へと、彼女を進ませたのだった。
◇ ◇ ◇
そして、黒神めだかが次なる戦いの場へと移動している時、珱嗄達は元の場所へと戻って来ていた。つまり、時計塔だ。
「ああ、やっぱりいるや」
「『!』『安心院さんに珱嗄さん……』『まぁもう復活してるだろうとは思ってたけど』『この場に来るなんて予想外だよ』」
「まぁ僕の珱嗄にイベント参加要請が来たからね。来なかったら当初の予定通りに君に丸投げしてたんだけど……ちょっと予定が変わったからさ……僕のコサージュを返してくれ」
「『まぁいいけど』『それにしてもめだかちゃんは幸せだね』『珱嗄さん達みたいな人外に送り出されるなんて』」
「ん、とはいえここは君の場所らしいからね。俺達は下に行ってるよ、精々頑張ってね」
「『うん』『精々頑張るとするよ』」
交わす言葉は短い。彼に会いに来たのはコサージュを回収するためだ。珱嗄が参加する以上自分も参加したいのだろう。安心院なじみは自分の胸にコサージュを付けて満足そうに珱嗄の腕に自分の腕を絡ませた。そしてそのまま時計塔を去る。
「『……』『ていうか、さっきからちょくちょく惚気てくるのは嫌がらせ?』『僕の珱嗄、とか』『デレデレにも程があるよ』『さり気なく腕組みやがってちくしょー』」
珱嗄達が去って行った後、球磨川禊はジト目になってそう呟いたのだった。通称、執心院さんは進行形で惚気まくりである。