◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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そいつはいいな。さて、しばらくぶりに本気を出すとしよう

 黒神めだかが雑魚キャラ群団を一走の下に薙ぎ払う前、人吉善吉による一輪目を得た辺りの時点で珱嗄はコサージュを胸に付けて何かとよくいた場所である時計塔の頂上に座っていた。風が吹き荒ぶ中、安心院なじみと共にめだかの様子を見ていた。

 

「あ、ほらめだかちゃんが善吉君と別れたよ」

「ああ」

 

 下を見れば、めだかによって殴り飛ばされた善吉の姿があり、去り行くめだかの背後で肩を震わせていた。涙を流している事くらいは人外の二人でも分かる。いや、この二人だからこそ分かるのだろう。ある意味この二人もめだか達と同じで、長い間ずっと隣に居続けた者同士なのだ。違うとすれば、めだか達は別れ、珱嗄達は繋がったという点だろう。

 

「切ないねぇ」

「でも、青春だぜ」

「なるほど、残酷な程に優しい言い方だ」

「違いない」

 

 お互いに笑みを浮かべ、そしてまた視線を黒神めだかに移す。なじみは珱嗄の地に付いている手を見てその手に自分の手を重ねた。珱嗄はそうして重ねられた手を一瞥し、ゆらりと笑ってその指を絡ませた。

 正真正銘のバカップル。ラブラブにも程がある。

 

「ねぇ珱嗄」

「なんだよなじみ」

 

 なじみが視線はめだかに固定したままに珱嗄の肩に頭を乗せ、そう言い、珱嗄はそれに視線をなじみに向けながら答える。

 

「僕は、幸せだぜ」

「……そうかい。でも、これから俺達はもっともっと楽しい思い出が出来て、その分もっと幸せになれるさ」

「わはは、くさい台詞だね」

「そりゃそうだ。どっかの漫画の引用だからね」

「ふふふ。でも、そういうのも悪くない」

 

 安心院なじみは立ち上がる。珱嗄もそんななじみに習う様に立ち上がった。

 

「行こうか。めだかちゃんを送り出してやろう」

「やれやれ、大変なお仕事だな」

「大丈夫、僕と君が一緒なら、なんだって出来るさ」

 

 珱嗄の腕に自分の腕を絡ませて笑う安心院なじみの表情は若干頬を紅潮させており、傍から見ればただの可愛らしい恋する乙女。人外という要素は此処には入って来ない。なにせ相手もまた人外、数十億年という時間を超えて繋がったこの絆は、断てる者など居はしない。

 

「そいつはいいな。さて、しばらくぶりに本気を出すとしよう」

 

 珱嗄はゆらりと笑って、その足を進めた。目指すは黒神めだかの下、二人の人外は進み始めた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 現在黒神めだかは57輪のコサージュを手に入れていた。珱嗄達が時計塔から動きだして約45分程、残り時間も半分を超えた所だ。ここまでで倒したのは、人吉善吉、雑魚キャラ群団、委員会連合委員長勢、十三組の十三人裏表全員、教師及び父兄のメンバー、マイナス十三組の志布志と蝶ヶ崎、という粒揃いの57名。

 彼女はこれをモノの45分で倒してきたのだ。全く持って驚嘆の至りである。

 

「はぁ……はぁ……全く、先の父兄方にはすっかり遊ばれてしまったな……まぁコサージュを手に入れたので良いとしよう」

 

 だが、この時点で花の数も時間も半分を超えている。そして此処で現れる敵は、今までの戦いでも今回のイベントの中でも最大の敵だった。

 

「そうか、ここで貴様か―――不知火!」

 

 現れたのは、黒神めだかの奮闘と珱嗄の怒りによって学園に戻ってきた友人、不知火半袖。彼女はなんと影武者達と不知火半幅、そしてそこにいるだけの悪平等(ノットイコール)不知火半纏とかの英雄の残響である獅子目言彦を引き連れて、黒神めだかの進む道を阻む。不知火の里の最大戦力である。

 

「悪いけどあたしは全力で引きとめさせてもらうからね! めだかちゃん!」

 

 楽しそうに笑う半袖の瞳には大きな闘争心が宿り、なにがなんでも引きとめるという気概がその言葉に宿っていた。

 そんな半袖に対して黒神めだかは歯を見せて笑う。何せ二人にとってこれが初めての戦いだ。消耗戦の最中とはいえテンションも気合も上々だ。

 

「言彦に反転院さんとか、ゲストにも程があるぞ。友情万歳だ、不知火!」

 

 故にめだかは拳を握る。これほど楽しい戦いが今までにあっただろうか、歯向かう全ての敵が自分の為に拳を握ってくれるなど、学園生活において最高の贈り物だ。

 

 百輪走も佳境を迎える。光陰矢のごとし、時が過ぎ去るのは早すぎる。

 

 だが、彼女の前に現れるのは英雄の残響以上の化け物。

 

 この楽しい壮行会も、終わりは近い。

 

 


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