◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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最初の一輪を、お前に贈ろう

 百輪走。このイベントは黒神めだかという少女を送り出す為だけに大勢の敵や友人、父兄や教師達が集まる壮行会だ。

 人吉善吉を始め、生徒会の面々や卒業生、果ては世界を守っていた里までもが彼女の為に動いた。彼女と多くの人が出会った結果がこれなのだ。人を愛し、愛された少女の最後はどうなるか、それが今から始まり、瞬きの間に終わる。

 

 見届けよう、彼女の最後を。

 

 見送ろう、彼女の背中を。

 

 戦おう、彼女の思い出の為に。

 

 笑おう、彼女との友情の為に。

 

 拳を握れ、スキルを振るえ、言葉を届かせろ。異常や過負荷でなくてもその凡庸さで牙を剥け。それが少女の対する友情であり、少女に対する対抗であり、少女に対する送迎である。

 始めよう、百輪の花を奪い、百輪の花を守る戦いを。

 

 これが最初の一輪目だ。

 

心置きなく、容赦なく、己が愛した男から、その拳で奪って行け。男はそれをみっともなく阻むだろう。

 少女を送りたい、だが送りたくない。それが男の想い。なんと格好の悪い事だろうか。故に、彼に格好良く自分を送らせろ。自分を愛し寄り添い続けた彼に、最後の最後まで格好付けさせろ。

 

「俺は、お前をみっともなくても引きとめたい。だから、俺に格好良くお前を送らせてくれ。相談だ」

「ああ、受け付けた」

「それじゃ―――最初の一輪を、お前に贈ろう」

 

 少女は拳を握り、少年は腰を落として構えた。勝負は一瞬、一撃の下に決まる。

 

「ところでめだかちゃん。お前にはねーのか? みっともなくても此処に留まりたいって思いとか」

「ふっ、そんなもの―――」

 

 二人はその口端を吊り上げながら動きだす。お互いの拳はお互いの顔面を狙い、進む。

 

「あるに決まっているだろう!」

 

 そして少女の拳が少年の顎を打ち抜き、少年はその威力に足を地から離して吹き飛んだ。背後にあったテーブルをその身で壊し、持っていた一輪目を奪われる。

 

「だから感謝しておるよ善吉。こうして私を格好良く去らせてくれる事に。さらばだ善吉、私は貴様のおかげで幸せだった!」

 

 少女は駆けだす、少年に背を向けて。ここで二人の道は違えるのだ。少女は進み、少年は2歳の頃より付き添って来たこの14年間に終止符を打つ。

 

「あーあ……結局、最後の最後まで格好悪かったなぁ俺……まぁいいか、もう格好付ける相手もいねぇ。じゃあな、めだかちゃん……俺も普通に幸せだったぜ……!」

 

 別れたくは無い。だが、少年は最後の最後まで少女から格好良く映っていた。故に、こうして格好悪く涙を流し、そう言った少年は、どこまでも惨めでみっともなかったが、どこまでも美しく格好良い輝きを放っていた。

 こうして百輪走は始まる。残り時間は90分、残りのコサージュは99輪。少女は振り向かず、進みだした。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「さて、善吉を倒したのは良いとして……他の奴らは何処にいるのやら……この学校は広い故、隠れられたら私もお手上げだ」

 

 少女、黒神めだかは人吉善吉と別れた後、その足で他のメンバーを探していた。祭はまだまだ始まったばかり。とりあえず手近な校舎の扉に手を伸ばす。

 そして開けた先、そこには

 

 

「ようこそ黒神めだか。まずは俺達雑魚キャラ群団がお相手するぜ?」

 

 

 廊下にめだかを見送る様にズラリと並んだ初期の敵キャラ達。スキルでの勝負が始まる以前の普通や特別といったクラスの面々だ。

 めだかが生徒会長になった際の最初の投書で敵対した剣道部、水中運動会で元会計の喜界島を含めて敵対した競泳部の屋久島と種子島、対立候補だった鹿屋や、『十三組の十三人(サーティーンパーティ)』への加入を競って対峙した平戸ロイヤル、フラスコ計画阻止の為に視察に言った時計塔の門番だった対馬左脳と対馬右脳ら等々、多くの雑魚キャラを名乗るメンバーがめだかに再度牙を剥く。

 

「なるほど、最初は貴様達か。だが私の知る限りこの学園に雑魚キャラなど存在しない。故にいきなり失礼、最初から最終奥義、終神モード黒神ファイナルで行かせてもらう!」

 

 だがそんな彼らに対して彼女は手加減をしない。いつも全力で相手にぶつかっていく、それが黒神めだかなのだから。

 クラウチングスタートの状態から駆け出し、かの英雄獅子目言彦ですら一度沈めた威力を誇るめだか最大の矛が彼ら雑魚キャラ達を一走の下に薙ぎ払う。

 

 だが彼らは薙ぎ払われて尚、笑った。元より止められるとは思っていない。寧ろ最終奥義を使ってまで自分達を全力突破してくれた事を嬉しく思った。

 いつでも全力で、いつでもまっすぐな彼女に自分達は魅せられ、そして好きになったのだ。

 

 その献身さに魅せられ、前を向く事が出来た。

 

 その愚直さに感化され、人を信じる事が出来た。

 

 その輝きの眩しさに近づきたくて、ぶつかる勇気が持てた。

 

 たったの一年の中に過ぎない思い出だったけれど、ほんの一瞬のまばたきの間に過ぎ去ってしまう様な短い時間の中だったけれど、自分達は黒神めだか(おまえ)と競う事が出来た事が楽しかった。お前と戦って負けた事を誇りに思う。

 

 

 ―――なぁどうだい黒神。俺達は、お前の思い出になれたかい?

 

 

 答えは返って来ない。だが、自分達を薙ぎ払った少女の自分達を見る瞳の輝きと眩し過ぎる程の自信に満ちた笑みを見れば、自然とその答えは分かるだろう。

 雑魚キャラを雑魚キャラとしてではなく、対等の相手として見てくれる。その事の何と嬉しい事か。

 

 だから去りゆくお前に花と共にこの言葉を贈ろう。

 

 

 ―――ありがとう。そして、頑張れ

 

 

 これで良い。お前が築いたんだぜ? だってよ、頑張る奴を応援するのが、この学校の校風なんだろう? なぁ、黒神めだか。

 やられた方もやった方も悔いはない。互いに笑みを浮かべて清々しい程の終わりを迎える。黒神めだかに最初に歯向かって行った猛者達は、こうして少女の背中を力強く押していった。

 

 

 

 

 

 

 現在奪った花の数、『26』輪。原作との違いは、後々少女へと降り注ぐ。

 

 


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