◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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百輪走

 出会いがあれば、別れがある。別れがあれば、新たな出会いがある。それがこの世界の中で何度も行なわれる自然の摂理である。元よりこの地球上で人間が人間に出会う事の出来ない場所など、それこそ危険地帯や動物達の世界くらいなものなのだから。

 

 そして、この物語にもそれは確かに存在する。黒神めだかを中心として構成されたこの世界で、多くに生徒が彼女と出会い、仲間と出会い、最後は1+1が二人になり、三人になり、やがて皆になっていく答えを得た。

 故に彼女はこの出会いの場所を去り、次なるステージへとその歩みを進める。箱庭学園から去る事を決めたのだ。黒神家の家長を継いだその時から、この事は決定事項、黒神めだかは退学届を出した。

 だが、そんな別れを人吉善吉を始め、多くの生徒は認めない。いや、認めたくは無い。彼女と共に過ごし、彼女と共に卒業したいと思うのだ。

 

 故に、人吉善吉は彼女と対話する。言葉が心を通じさせる事は嫌という程学んだ。お互い好き同士の少年と少女は会話し、対話し、分かり合う。分かりあった先で、少年は少女の隣にいる事を止めた。

 

 ―――一緒に居たいけれど、居られない

 

 ―――一緒に居て欲しいけど、居られない

 

 二人の想いは前を向いていた。少女は前に進み、少年はその背を見送る。十四年間隣に居続けた少年は

、少女の隣を外れてその背を押した。

 

 でも、しかし、だからこそ

 

 少年が背を押す事を決めた所で納得がいかないのも事実。行って欲しくないのも、一緒に居たいのも本心。

 

 ならばどうするか?

 

 少年は少女を送り出すべく全校生徒を巻き込んで少女の壮行会を壮大に行なう事にした。送り出す、が簡単には行かせない。それが少年が敵を好んだ少女に送る最高の贈り物であり、最大の試練。箱庭学園が黒箱塾だったときからあった一人の生徒を制裁するための試練。その名も、

 

 

『百輪走』

 

 

 生徒会が厳選に厳選を重ねて選び抜いた100人を相手に戦い、勝ち抜き、その100人の持つコサージュを全て奪い取った先に出来上がる花束を手に入れる事で、晴れてこの学園を去る事が出来る。

 

 ―――去れる物なら去ってみろ

 

 これが、少女に恋した愛された少年の出した答えだった。最後の最後まで、格好付けよう。まだ、少女は自分を見てるじゃないか。ならば最後まで、彼女が振り向いた時自分の姿が見えなくなる程進んだ時までは、俺は格好付けて見せようじゃないか。お前の幼馴染は最後まで格好良いんだと見せつけてやる。

 

 それが、俺に出来る最高の意地なんだから。

 

 かくして始まるとある少女の壮行会。相対するは100人の精鋭、去るべき場所は己が母校。抜けられるモノなら抜けてゆけ。箱庭学園壮行会編。『百輪走』、始まり終わり―――

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「……なるほど、なじみの考えたアレ。マジでやるんだ? それで俺にもその100人の中に入って欲しいと」

「はい、お願いします。珱嗄さん」

「面白い、承ったぜ善吉君。この一輪、俺が預かろう」

「ありがとうございます!」

 

 少年、人吉善吉は百輪走を行なうべく100人の選抜生徒にコサージュを渡してその役を頼みこんでいた。一応生徒主催な物の、卒業後もしばらくは箱庭学園の生徒であり続ける決まりなので卒業生である珱嗄もまだその役目を負う事が出来るのだ。

 

「で、善吉君。俺はめだかちゃんを引き止めればいいのかな? それとも、押し出せばいいのかな?」

「……それは……」

 

 珱嗄の言葉に、善吉は言い淀む。頼めば珱嗄はどちらでもこなしてみせるだろう。つまり、ここは分岐点だ。めだかを引きとめて欲しいと言えば引きとめられるし、送り出して欲しいと言えば送り出すよう動いてくれるのだから。

 

「……っ…」

「ふむ……ま、いいや。俺は俺の好きなようにやろう。その方が面白い」

「……はい」

「だが、迷ってる様じゃめだかちゃんは満足してくれないぜ? いつもみたいに反骨精神を剥き出しにして精一杯格好付けろよ一般人(ノーマル)

 

 珱嗄はそう言って、ふっと笑った。善吉は珱嗄の言葉に拳を握り、思い直した様に大きな声で返事をした。

 

「……全く、恋愛ってのは何時の時代も難しいものだな」

 

 歩き去っていく善吉の背を見ながらそういう珱嗄。だが、そう言いつつもその表情は笑みを浮かべていた。そしてそんな珱嗄の隣にすっと別の人影が現れる。

 

「この僕もその恋愛に捕らわれちゃった一人の少女だものね」

「人外を捕まえるなんて最早無敵だね」

「でも、悪くは無い気分だぜ?」

「違いない」

 

 隣に現れたのは安心院なじみ。未だに珱嗄と靱負以外復活を知らない平等な人外である。

 

「ところでそのコサージュ、ちょっと見せてくれないかな?」

「ん、ほら」

「へぇ……なるほど。珱嗄、面白い事考えた。耳貸して」

「ん?」

「あのね――――」

 

 珱嗄はなじみの耳打ちの無い様にとても楽しそうにゆらりと笑う。その表情は何処か悪戯を思い浮かんだ少年の様に純粋で、犯罪を計画したテロリストの様に凶悪だった。

 

「いいね、流石はなじみ。思わず抱きしめたくなるくらいだ」

「そいつは重畳、構わず抱きしめてくれて構わないんだぜ?」

 

 少女を送り出す相手として、少年は人選を間違えた。相手は人外同士のペア、早々簡単に事が運ぶと思ってはいけない。

 

「さぁて、楽しい楽しい壮行会の始まりだ」

 

 珱嗄はゆらりと笑い、なじみは珱嗄の楽しげな横顔に微笑みを浮かべた。

 

 

 


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