◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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御帰り、愛してんぜ。人外

 卒業式、それは如何なる学校といえど行なわれる事が確約された正式な行事である。

 高校でいえば、平均的な勉強期間である三年間を過ごした者が晴れて卒業する式典。社会へとその立場を進めて行く為の行事だ。

 それは箱庭学園も同じ。卒業式は行なわれるのだ。この場合、此処までの登場人物の中でこの卒業式で送られる側の生徒は、人類最弱の過負荷、球磨川禊や元英雄である日之影空洞がそれに当たる。そして、黒神めだかと共に月へと向かって行った、あの平等な人外を愛した人外もそうなのだ。

 

 だが、箱庭学園の全生徒から好かれた黒神めだかも、過去多くの戦いでずっと笑っていたあの人外も、月から帰ってくる事はなかった。否、未だ帰って来ないだけだ。何処で何をしているのかは知らないが、彼女達は必ず帰ってくる。そういう確信が送る側である善吉達や送られる球磨川達にはあった。

 

 なんせ、あの人外が付いているのだ。月を破壊した所で死ぬとは到底思えない。だから――

 

 

「いやはや、中々見事な送辞であったぞ善吉。そして禊お兄ちゃん、遅刻とはいえこれで賭けは私の負けだな。だが直ぐにリベンジするから油断するなよ?」

 

 

 黒神めだかは卒業式の真っ只中、善吉の送辞、球磨川の答辞が終わった直後、その姿を現した。いつもの様に凛とした雰囲気を纏いながら、誰もが待っていたであろう到着を、遅れ馳せながらちゃんと間に合わせて見せたのだ。

 

「―――『ほら、どうだい。面白いだろう?』『僕の人生は』……また勝てた」

 

 球磨川はそんな黒神めだかに涙を流しながらそう言った。球磨川禊は過去に一度、めだかに勝っている。故に、二度目の勝利。しかも今回は完全勝利だ。

 

「ただいま皆。そして、卒業おめでとうございます。先輩方?」

 

 黒神めだかは凛とした立ち振る舞いの中、歯を見せて笑いながらそう言った。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 ――珱嗄宅

 

 

「それにしても、月の破壊とは中々に面白かったねぇ」

 

 珱嗄は卒業式にも関わらず、卒業式には出ずに自宅で寛いでいた。現在この家には珱嗄しかおらず、其処にいるだけの人外不知火半纏も、瀕死状態だったがどうにか蘇生が間に合った帯刀靱負もいなかった。正真正銘、珱嗄唯一人である。

 

「まぁ月は壊した後元に戻したし、不知火半袖も学園に戻ったし、めでたしめでたし、か」

 

 だが、珱嗄はそう言うもどこかまだ満足していない表情だった。

 

「……いやいや、そういう訳にはいかないだろう」

 

 珱嗄は立ち上がる。他の全員が満足してい様と、していなかろうと、自分自身が満足していないと気が収まらないのだ。それが娯楽主義者であり、珱嗄という人物の人間性である。

 

 ―――そんな時、不意にインターホンの音が鳴り響いた。

 

 珱嗄の家は普段滅多に人が訪れない。それなのに来客が来た。珱嗄はその音が鳴って一拍置いた後、ゆらりと笑った。そして立ち上がり、軽い足取りで玄関へ向かう。

 

「―――」

 

 扉を開けると、そこには珱嗄が待ち侘びた人物が佇んでいた。珱嗄とその人物は互いに微笑んで、何も言わずにその手をお互いに伸ばした。

 

 

 

 ―――御帰り、愛してんぜ。人外(なじみ)

 

 ―――ただいま、愛してるよ。人外(おうか)

 

 

 

 見間違う事もない。それは、珱嗄を想って死んだ少女。安心院なじみだった。

 

 

 

 


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