◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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中学生活はつまらない

 俺が病院を去ってからという物、俺となじみのいる街ではめざましい変化が表れていた。それは確実になじみのせいであり、確実に原作を辿った結果なのだった。

 まず、なじみが病院以外で作りあげた教育施設。つまり学校だが、創立当初の名前は黒箱塾。そして、13年経った現在は箱庭学園として有名な進学校になっていた。まぁ凄い。

 

 で、俺はというと、そんな変化にも……ああそうなのかと思いながら、なじみに誘われるままに中学校へと入学していた。スキルを使えば年齢とかいろんなアレコレはどうにかなるので問題ない。とりあえず、高身長な俺だが、中学3年になった頃にはあまり気にされなくなった。

 現在の俺となじみの学校での立ち位置は、生徒会会計と副会長。あぁ、会計は俺で副会長はなじみ。そんで肝心の会長だが、13年前病院にやってきたあの不気味な少年だ。名前は球磨川禊。今ではその凶悪(マイナス)性を随分と退化(しんか)させていた。

 

 別名、【却本作り(ブックメーカー)】改め【大嘘憑き《オールフィクション》】。最凶最悪の過負荷(マイナス)と称された最弱の男。

 

 そんな男となじみと俺はいつものように学校生活を送っていた。

 

 

「というか、よくもまぁ会長なんかなれたもんだ」

 

「『そんなの当然だよ!』『だって僕は真面目で正直な少年だからね!』」

 

「嘘ばっか吐いてる君が言っても信憑性ゼロだぜ」

 

 なじみと俺に辛辣に当たられて少ししょんぼりする球磨川君。だが、気にせず俺となじみの会話は続いた。

 

「それはそうと、会長に対する不満や批判が殺到してるんだけど、球磨川君……さっさと始末付けて来い」

 

 なじみは球磨川君のケツを蹴り飛ばして生徒会室から放り出し、殺到した意見用紙を投げ付け、扉を閉めた。

 

「やっぱりお前は最高だな。球磨川君みたいなマイナスでもやっぱり石ころ程度にしか捕えてないのか」

 

「当たり前じゃないか。僕はただ平等なだけの悪平等(ノットイコール)さ。それに、それを言うなら君こそ異質じゃないか。異常(アブノーマル)以上に異常で、過負荷(マイナス)以下に最低で、悪平等(ノットイコール)以上に平等。何処にも分類出来ないのに、普通(ノーマル)特別(スペシャル)ともいえない曖昧さ。それなのに、言彦や僕といった化物以上の規格外。君ほど意味不明な存在を僕は知らない」

 

 まぁ、随分と長々と語ってくれたけど、俺はそこまで複雑じゃない。ただ単に、ハンターハンターの世界で身体能力を鍛え、リリカルなのはの世界でそれを極限まで強化し、この世界で全能のスキルを手に入れただけの一般的な人間なのだから。

 

「とは言っても、大した事はしてないけどね」

 

「コードネームとか検体名とかを君に付けるなら、さしずめ【逸孤軍隊(パーソナルソサエティ)】とかかな」

 

 中二病みたいな名前を付けるな。大体、あぶのーまる~だのまいなす~だののっといこーる~だの色々と呼び方変えてるけど、良いじゃないか異常と過負荷と平等で。無駄に変換しなくてもさぁ……。

 

「まぁいいけど……そんな名前、一切使わないし」

 

「だろうね」

 

「分かってるなら作るなよ」

 

「良いじゃないか。君とのくだらないやり取りが、僕にとってはとても楽しい時間なんだから」

 

「ふーん……」

 

 なんだか、最近なじみが俺に対して随分と好意的になってきた。いや、なんかタガが外れた様な感じでべたべたしてくる。おしゃれに気を配る様になったし、俺が数億年前に上げたリボン……あの言彦が武器に使おうと奪った奴な。アレもスキルで厳重に保護して今も大事に使っているし、なにより俺に良く関わってくるようになった。

 今までは一ヵ月に一回会いにくるか来ないかという所だったのに、今では毎日の様に俺の下へやってくる。そして一日一回は俺にひっついてくるし、この中学生活では何度か自作自演で俺の彼女という噂を流したこともある。まぁその度に俺が揉み消したんだけどさ。

 ま、噂の件は俺への悪戯だろうけど……あの時だけはマジで中学生か! とツッコミたくなった。

 

「ま、それは置いとこうか。さて、もう仕事も球磨川君がやってる奴以外は終わったんだし……先に帰ろうぜ」

 

「うん」

 

 そう言って、俺となじみは席を立つ。ちなみに、俺となじみの住んでいる家は、昔から変わらずあの木造建築。俺が作った家を外見は木造建築なのにスキルで内側の空間を豪邸並みに広くして住んでいる。強度は核爆弾を何発ぶち込んでも壊れない安心スキルシェルター。スキルによる破壊や消滅なんかも受け付けず、侵入者は警備スキルによってその者の自宅へと強制的に転移させられる。実際にあの家に入れるのは俺となじみ、そして両名のどちらかが認めた客人だけだ、

 

「じゃあ、帰りに夕飯の買い物でもしていこうか」

 

「良いね。今日は何にする?」

 

「じゃあ、珱嗄の好きなオムライスでどう?」

 

「昨日は和食だったし……うん、いいんじゃない?」

 

「それじゃいこっか」

 

 そう言って、俺となじみは扉を開けて帰路に着くのだった。

 

 

 ―――そして事件は起きた。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「球磨川……!」

 

「『あ、めだかちゃん!』『どうしたの? そんな血相変えて』」

 

「その人を……何故」

 

「『え? ああ、安心院さんの事?』『何言ってるんだよ。僕が来た時には既にこうなってたんだ』『だから』『僕は悪くない』」

 

 卒業間近の時期に、球磨川禊は事件を起こした。安心院なじみの殺害事件。まぁ、この時は俺は居合わせていないので、後になじみから聞いた事を語っている訳だ。

 なんでも、なじみの事が好きになった球磨川君は、その気持ちが本物かどうか確かめる為に、顔の皮を剥いでも愛せるかを試したとの事。

 結果、なじみはその日死んでしまい、その現場を1年の新入生徒会役員である黒神めだかに見つかってしまった訳だ。ちなみに、俺は黒神めだかとはまだ知り合っていない。

 

「……っ……球磨川ぁああああ!!」

 

 一気に怒りが頂点に達した黒神めだかは髪を薄紫色に染め上げ、我を忘れた瞳で球磨川禊に殴りかかった。その豹変ぶりに、驚愕した球磨川は為すがままに殴られる。抵抗も空しく、殴られ続ける。

 

「私は貴様を許さない!」

 

「『ぐっ……!』『がふっ……!』」

 

 一撃ごとに床に罅が入り、校舎が段々と軋み、壊れていく。しかし、球磨川は未だに殴られ続けている。黒神めだかは、校舎なんて気にも留めずに殴り続けた。

 しばらくすると、球磨川の抵抗がぱったり無くなる。いや、抵抗する力も残されていないのだ。

 

「ふー……ふー……!」

 

「『……ごめんよ、めだかちゃん』『反省したよ』『僕はもう君達の目の前には現れない』『約束するよ』『だからもう許してよ』『めだかちゃんなら、信じてくれるよね?』」

 

 口からは血を流し、似合っている学ランもボロボロになり、身体は既に死ぬ瀬戸際という程にダメージを受けていて尚、球磨川はそう言った。

 それに対し、幾分怒りも収まってきた黒神めだかは、釈然としない様だが人間好きの性分が功を奏し、球磨川に言った。

 

「っ……分かった……信じよう……っ!」

 

「『………ふ』」

 

 その言葉を聞いた球磨川が、不敵に笑った事は黒神めだかも気付く事は無かった。

 

 

 こうして、安心院なじみは死に、スキルによって全校生徒からその存在を消し去った。球磨川禊も、会長を辞めて転校、この学校を去って行った。

 生徒会会長と副会長の同時不在により、急遽会長は俺へと委任され、副会長に黒神めだかが収まった。

 

 この事件を知るのは、去って行った球磨川と俺、そして死んで行ったなじみと黒神めだかの4人だけだった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「会長、仕事してください」

 

「面倒だ。めだかちゃん……やっといて」

 

「……はぁ」

 

 まぁ、あの事件は良いんだよ別に。問題なのは俺が生徒会長に収まってしまったって事で、仕事がめんどすぎるんだよ。現在は2学期の中盤だから卒業間近とはいえまだ任期があるのだ。ということは会長職を全うする義務を押し付けられてしまった訳だ。球磨川め……覚えてろよ、次会った時が貴様の命日だ。

 そうそう、このまえなじみが球磨川君に封印された。で、ようやくあの子が【却本作り(ブックメーカー)】から【大嘘憑き(オールフィクション)】へとスキルの鞍替えをした。やっぱり俺からしたら球磨川君は最初のスキルより、大嘘憑きの方が合ってると思う。

 

「はい、これに承認判子を押してください」

 

 すると、副会長の黒神めだかが俺の会長机の上に大量の書類を置いた。山の様に詰まれた書類に判子を押す作業だけはやれとめだかちゃんがうるさいので引き受けたのだが、他の仕事を全部やってくれているから文句は言えない。

 

「はいはい……」

 

 ここで、役に立つのがスキルだ。課題を想像通りに終わらせるスキル【休み休み言え(ワーカーホリック)】を発動させる。すると、次の瞬間には承認判が全ての書類に押されていた。本当、スキルって便利。

 

「……ふあ……めんどくせぇ……」

 

 なじみもいなくなり、球磨川君もいない。ただ中学生活を送る事の何が楽しいのか。学校に通えない奴らもいるんだから贅沢言うな、と前に言って来た大人もいた。まぁ俺より遥かに年下で、100年も生きていない子供だったが、言っている事は正論。しかし、俺はそんな言葉を聞いても全く響かなかった。

 だって、そうだろ。学校に行けない事が不幸なんじゃない。学校に行きたいと思える事が幸せなのだ。なんせ、学校に行ける奴らは皆―――学校に行きたくないと少なからず思っているのだから。

 

「ま、どうでもいいんだけど」

 

「? …何か言いましたか?」

 

「何も。ただ、もうすぐ文化祭だなーと」

 

「ああ、確かにそうですね」

 

 黒神めだかと俺だけの生徒会。そんな二人が文化祭での予算の決算やポスターの作成、資材の注文、クラス毎の出し物の管理等々、二人だけでやるには随分と仕事が多い。面倒極まりないな。

 

「面倒だよね」

 

「そんなことないですけど」

 

 実を言うと、俺とめだかちゃんの仲は結構良いとは言えない。それはそうだ、仕事しない会長と尻拭いさせられる副会長。そんな二人が仲良くなるケースなんて滅多にないだろう。それこそ、副会長側が会長に恋でもしてなきゃ無理。まぁ、双方の性格次第だよね。

 

「怒ってる?」

 

「ええ」

 

「そっか」

 

 カラカラと笑う俺。正直、俺はめだかちゃんの事が嫌いでは無い。かといって好きという訳でもないけど。なんやかんやで仕事をしてくれるし、俺の仕事しない態度を見かねた教師達に色々とフォローを入れてくれた事もあったし、まぁフォローの方はいらなかったな……生徒会辞められるし。

 

「さて……何をしようかな」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 私は、黒神めだか。現在は生徒会副会長を務めている中学一年生だ。突然だが、最近の私が良く考える事は、生徒会長であり、私の先輩に当たる人物の事でいっぱいだ。

 別に、恋をしているという訳でもない。ただ、その人物……泉ヶ仙珱嗄先輩には良く迷惑を掛けられる事が多く、毎度毎度ため息を吐かされるばかりだから。

 

「さて……何をしようかな」

 

 私がワークデスクで自分と会長の分の書類を処理している傍で、窓の外を眺めながら力なくそう呟く珱嗄先輩。何故こんな人が生徒会長なのかと思うが、前会長である球磨川よりはマシだと思う。

 だが、こんな人でも私は尊敬している部分がある。何故かは知らないが、この人は全校生徒に随分と信頼を得ている。良く分からないがこの人には人を引き付ける魅力があるようで、仕事をしない癖に高いカリスマ性を垣間見せる事がある。

 

 善吉曰く、私には高いカリスマ性があるとのことだが、先輩の方がより高い事は分かる。実際、私がこの人を尊敬する様になった日、あの時私は、確かに見た。この人のカリスマ性を。

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

「会長! いい加減仕事をしてください!」

 

「面倒だよ」

 

「そんなの言い訳にしかなりません!」

 

 めだかは会長を引き継いだ珱嗄に対し、憤慨していた。仕事をせず、その後始末を全てめだかに回してくるからだ。

 仕事が辛いという訳ではない。この程度の仕事ならめだかの処理能力を持ってすればどうにでも出来る。だが、仕事をしない会長に何の意味があるのかと考えるのだ。また、そんな会長は全生徒に示しがつかないとも思うのだ。

 

「……会長。ここまで貴方の態度にはほとほと呆れ返っていましたけど……見逃してました。でも、もう無理です。これ以上そんな態度を取り続けるのなら、私にも考えがあります」

 

「へぇ、どうするの?」

 

「殴ってでも仕事をさせます」

 

 この時、めだかの中には本気でそうしようという考えがあった。自慢じゃないが、めだかは今まで喧嘩や武道で負けた事はないし、多少自分は強いのだという自負もあったのだろう。故に、先輩だろうと一生徒であるだけの一般生徒に負ける筈が無いと思っていた。

 

「やってみると良いよ。なんなら、また球磨川君みたいに……追い出してみるかい?」

 

「っ……いいえ、追い出しはしません。更生させてしっかり仕事させます」

 

「なるほど。そいつは分かりやすい」

 

 やってみろという風に珱嗄は両手を広げてにたりと笑った。

 

「……ふっ!」

 

 めだかは地面を蹴って一歩で間合いを詰める。そしてそのまま人間の弱点である鳩尾にその拳を叩き込んだ。めだかの全盛期である現在の拳、ダンプカーにも匹敵する威力を持つソレは確実に珱嗄の鳩尾に入った

 

 筈だった。

 

 

「やっぱりこの程度か」

 

「っ!?」

 

 真上から聞こえて来た珱嗄の声。視線を上げると、そこには変わらず笑みを浮かべている、だがどこかつまらなそうだった。

 

「全く、やっぱり中学生活はつまらない」

 

「なっ……」

 

 めだかは気付けば顔を掴まれ、宙に持ち上げられていた。

 

「なぁ、めだかちゃん。やっぱり俺は生徒会長には向いてないよ」

 

「む!? けほっ……どうして」

 

 めだかはぱっと放され、地面に足を着ける。

 

「俺はさ、流されるままに生徒会に入り、流されるままに会長になった。でも、実際会長に向いてるのは球磨川君とか俺みたいな奴じゃなくて、めだかちゃんみたいな子だよ」

 

「なら、どうして会長なんか…」

 

「それは俺が面白い事が好きだからだ。生徒会長なら色々とやれることも多いだろ? 全生徒と面白い事が出来れば中学生活も面白くなるだろ」

 

「……それで、会長を」

 

 めだかは珱嗄の言葉を曲解した。珱嗄からしてみれば、全生徒を使って面白い事を出来たらいいなぁ程度の考えだったのだが、めだかからしたら、全生徒と共に楽しい中学生活を送る為に尽力したい……という風に聞こえたのだ。やはりというか、めだかは都合のいい性格をしていた。

 

「すいません会長。私、会長を見くびってました」

 

「え? ああ、うん……そうか」

 

 

 

 

――――

 

 

 そう、この人は仕事をしないけど、何時も皆の事を考えているのだ。だから、今だって何も起きないこの現状を嘆いている。文化祭を話に持ち出したのもそのせいだろう。

 

「はぁ……仕方ない。文化祭まで待つとしよう」

 

 そう呟いた先輩。とはいえ、仕事をしないのは変わらない。少しは反省して欲しい物だ。

 

 


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