◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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そうかい、俺は人吉善吉。一秒だって一人じゃ生きていけない普通の格好良い男子高校生だよ

「それにしても、だ。言彦の不可逆の破壊ってのはどういう理屈なんだろうねぇ……もしかしたら倒せばその効果は無くなる、とか都合の良い物だったりするのかな?」

 

 さて、不知火(言彦)と一時的だが晴れて逆説使いのスタイルを見に付けた人吉善吉が戦っている中、珱嗄は地べたに寝っ転がりながらもその戦いを眺めていた。

 ふと思った事を呟きながら、周囲に転がる瀕死の仲間達を一瞥し、溜め息を吐く。

 

「とはいえ、主要キャラが死ぬのはジャンプの定番と言っても死にすぎは良くないか……」

 

 珱嗄はそう言って、名札使い宜しく何も無いがカードを掲げる様な動作をする。そして、赤い瞳をすっと開いてオリジナルスタイル、名言使いを発動させた。

 

「『―――魔法(マジック)カード発動! 死者蘇生!』……ばい、武藤遊戯」

 

 死者蘇生。某遊戯王で主人公武藤遊戯が発動させたカードである。効果は、死者のリスク無しでの蘇生。また、これはスタイルという道具を使って使用される技であるが故に、珱嗄が死んだとしてもその効果を失う事はない。

 例えるのなら、水鉄砲。珱嗄の名言使いは水鉄砲本体であり、そこから出される技は発射された水だ。その水によって濡れたとして、水鉄砲本体が壊れたからといって濡れた事が無かった事になる訳ではない。つまり、そういう事だ。

 

「あれ? これ使えばなじみの奴復活出来るんじゃね?」

 

 おっと気付いてしまった驚愕の事実。珱嗄の名言使いは他のスタイルとは少し違って効果を発揮する威力や条件が違う。思い付きだったが随分と規格外のスタイルを作っちゃったものだ。反省。

 

「あーあ、そう考えたら急にやる気無くなってきた。あ゛ーめんどくせー……」

 

 両手を後ろに着いて上体を少し後ろに倒す。そしてそのままぐだっと空を見上げた。ぼーっと眺める中、響くのは言彦と善吉の一撃必殺が空振る音だけ。めだかは死者では無かったから未だに倒れ伏しているが、球磨川達は生き返っている。それこそ、無傷の状態で。まぁ気絶してるから動かないけど。

 

「さて、そろそろ善吉君の勝負も終わるかな?」

 

 視線を前に戻すと、言彦と善吉の勝負は終盤を迎えていた。止まる言彦の腕、不敵に笑う人吉善吉。

 

「一瞬だけ、不知火に身体の主導権を戻した? ばーか! その一瞬を狙い澄ますのが、俺の親友不知火半袖だぜ!」

「ぬ、ううう!!」

「破壊されれば二度と元には戻らない。なら、そんなお前が、お前自身を殴ったらどうなるんだ?」

 

 一撃必殺を持つ相手には、その一撃必殺をぶつけるべし。ずっと昔から決まっている攻略法の一つだ。誰も、自分の力には勝てないだろう。何せ、その力を鍛えて来たのは自分自身なのだから。

 そしてそれを実行する様に、言彦から身体の主導権を奪い取った不知火半袖は、自身の身体にその拳を向ける。

 

「半袖、貴様分かってるのか! 儂がどれ程稀少で! 未知で! 保存すべき者なのか! 不知火ならば貴様も十分も理解出来る筈だろう!」

「………」

「―――おい善吉、何を黙っているのだ。勝者ならば格好良く名乗りを上げて引導を渡してやれ。ああそうだ、ついでだから言っておけよ。ほら、私の幼馴染はどんなふうに格好いいんだっけ?」

 

 焦る言彦を置いて、善吉に語りかけるめだか。満身創痍だが、その顔は善吉の勝利に満足気だった。

 

「お、おおおお! 儂は! 儂は過去に存在した、唯一、たった一人の英雄! 獅子目言彦だぞおおおお!!!」

「―――そうかい、俺は人吉善吉。一秒だって一人じゃ生きていけない普通の格好良い男子高校生だよ」

 

 骨の鳴る音と、破壊されていく言彦の魂が崩れる音が響く。それを見て、珱嗄はゆらりと笑った。獅子目言彦の敗北と、戦いの終わり。

 破壊の権化、デストロイヤー獅子目言彦は、普通の凡庸な男子高校生人吉善吉の前に、多くの心を背負った男の前に敗北した。

 

 ―――こうして、獅子目言彦はその長い生涯における戦いを終えたのだった。

 

 

 

 

「―――予想通り」

 

 

 

 

 それと同時、なにやら自分の腕に視線を落としていた珱嗄の口元が、今までにない程に、ゆらぁりと吊りあがった。

 

 

 


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