◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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不知火ちゃんを取り戻すんだろう? こんな所で何をもたもたしているのかな?

 黒神めだかは、主人公である。

 

 この作品の主人公は当然の事珱嗄であるが、それ以上にこのめだかボックスという世界では彼女が主人公だ。

 故に、敗北する事は無いし、死ぬこともない。この世界においては蘇生がかなり安易な手段として存在している故に、死亡は多々あるが最終的には復活している。

 

 それは単に、主人公というポジションを持っているからの事であって、彼女が誰よりも強いからという理由ではないのだ。

 確実に彼女より強いだろうと読者が思っていようと、彼女は何かしらの手段を取ったり、都合良く覚醒したりして、結局その強敵を打ち破る。

 

 それが少年漫画の鉄則であり、過去様々な作品でも描かれてきた王道である。

 

 だが、今回は主人公のポジションを珱嗄というイレギュラーが取っている。それはつまり、彼女は都合よく覚醒しないし、良い作戦もタイミング良く思い付かないし、強敵相手に死んでしまう事もある。

 結局何が言いたいかというと――――

 

 

「げげげげげげげげげ!!!!」

 

 

 獅子目言彦という破壊屋に、圧倒的な実力差を持つ怪物に、如何なる攻撃も通用しなかった相手に

 

「――――……」

 

 黒神めだかというキャラは、圧倒的な実力差のある彼女は、如何なる攻撃も通せなかった彼女は、敗北したのだ。

 死んでしまった。殺されてしまった。生き返れない。蘇生できない。主人公を奪われた少女は、何も出来ずに死んでしまったのだ。

 

 そして、彼女という強者に敗北し、少年漫画の鉄則通り仲間となった者達も、彼女が勝てなかった相手に敗北し、死んだ。

 球磨川禊も、人吉善吉も、鶴喰鴎も、全員、死んでしまった。

 

「げっげっげ、これが貴様の考えた展開か化け物」

「まぁ勝てるとは思ってなかったけどね」

「それでどうする? 貴様のお仲間がこうして死んでしまった訳だが、貴様は儂をどうする? 此処で殺すか?」

「さっきまで顔を青くしていた奴が良く吠えるじゃないか。言った筈だぜ? 俺はお前に微粒子程の興味もない。気が済んだなら帰れば?」

 

 それでも、珱嗄という人外は手を出さない。

 

 

 ―――仲間が死んだ、だからなんだ。

 

 

 ―――逆転は起きなかった、だからなんだ。

 

 

 ―――目の前に言彦が居る、だからなんだ。

 

 

 だからと言って、珱嗄が動く理由にはならない。勝負を挑み、負けたなら、勝者に敗者は何も言えない。珱嗄はそれを見届けたのだから、終わった戦いに手を出すなど不届き千万。

 

「でも、まだ戦いは終わらないようだけど?」

「何……!?」

 

 言彦の後ろ。まだ立ち上がる者がいた。

 

「なんだ貴様……まだ儂に歯向かうというのか! 貴様は一体何がしたいのだ!」

「いやいや、私は何もしないよ。ただ生きてるだけの、なんとなくな人間だし」

「じゃあ何故儂の前に立ちはだかる! 何が狙いだ!」

 

 立ち上がったのは、贄波生煮。その鋭い刀を構えて、死体の転がる瓦礫の中、言彦に対峙する。

 

 

「受け狙い」

 

 

 立ち上がった贄波生煮は言彦の問いに、そう答えた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 珱嗄side

 

 

 言彦の実力は確かに強い。俺には劣るものの、安心院なじみを有無を言わさず殺してみせた実力は、俺というイレギュラーを除けばこの世界で随一と言っても良いだろう。

 黒神めだかはまだ人間離れしているだけの人間だ。化け物に勝つにはまだ力が及ばない。

 

 それでも、俺は見てみたい。この世界が週刊少年ジャンプというのなら、主人公であった彼女とその仲間はこの逆境を乗り越えていける筈だ。

 この場にある力、登場人物の心、抱えた思い、全部の要素を掛け合わせて、正しい道を示してみせて欲しい。

 

 これもまた娯楽。彼女達が役者で、俺が観客。最後には必ずハッピーエンドを迎えて見せる演劇を、俺は見たい。観客参加型など、観客が自由に物語を変えていいと言ってる様な物じゃないか。

 

「ほら、だから君の出番なんだぜ。『人吉君』」

 

 だから、少しだけ背中を押そう。死人は何も言わない、言えない。逆を言えば、生きているならば言葉は伝えられるのだから。

 

「っ! ここは……?」

「やぁ人吉君。随分とまぁ弱気になってる様だね」

「!? あ、安心院さん!?」

 

 俺は先程杠かけがえが使って自身を贄波生煮に置き換えたスタイルを使った。

 

『換喩使い』

 

 ある言葉を概念の近しき他の言葉に置き換える事が出来るスタイルだ。

 

 これにより、俺の事を人外という言葉で表現し、人外という言葉を『珱嗄となじみ』という言葉に置き換える事で、俺の姿をなじみに置き換えたのだ。

 

「ほら、見てみなよ。君達がやらなくちゃいけない事を、何も関係ない子がやってるよ?」

「! 贄波……じゃない、杠!?」

「不知火ちゃんを取り戻すんだろう? こんな所で何をもたもたしているのかな?」

「……でも、俺は元々この場の誰とも話せない様な普通の奴なんだ……」

「クソみてーな弱音なんか聞きたくねーな。君は君だよ、そこに普通とか異常とかは関係無い。僕からしてみたら皆平等だ」

 

 人吉善吉、お前は一番不知火半袖を分かっている。一番不知火半袖を理解している。だからお前じゃないといけないのだ。

 

「今は珱嗄が童謡使いで君を蘇生させているんだ。永続性は無いし、どうせ死ぬなら最後に親友位救って見せろよ。僕にめだかちゃんを倒すって啖呵切った時の威勢はどうしたんだい?」

「安心院さん……」

「いつまでもグダグダ言ってねーで早く行け。彼女に言葉を伝える方法位なら僕が示してやるからさ」

 

 手を取って、伝える。スタイルはパターン。振動として伝えられる。伝授するのは贄波生煮の『逆説使い』。だからこその逆説だ。

 

「全く、死人に此処まで鞭打つなんて鬼畜だぜ。おちおち寝てもいられない。ほら、伝授は終わったよ。行ってらっしゃい、言ってらっしゃい」

「――――ああ、ありがとう」

 

 それでいい。死ぬ気で親友を救えよ人吉善吉。それがお前の人間としての価値で、それがお前の出来る最大の事だ。

 平等な人外を利用した、自由な人外の、ほんの少しの手助け。心苦しくはあるが、それでもこの役目だけはきっと、安心院なじみしか出来ないのだろう。人吉善吉を4ヵ月に渡って根気よく修行を付けた彼女しか。

 

「全く、俺も焼きが回ったもんだ」

 

 きっとこれが、人間らしい行動なのだ。困っている人の背中を押して、頑張ってる奴を応援する。人外を自負する俺だが、やっぱりこう言う行動を取るのも、たまには悪くない。

 だってこれもきっと、いや確実に、俺にとって面白いと言える展開なのだから。

 

 

 

 


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