◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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―――喧嘩、しようぜ(ぞ)

 箱庭病院には現在、11人の人間が居た。鶴喰梟、杠かけがえ、寿常套、黒神めだか、不知火半袖、人吉善吉、球磨川禊、鶴喰鴎、贄波生煮、潜木傀儡、そして泉ヶ仙珱嗄。

 そして現在、この中で寿常套は黒神めだかの前に沈み、潜木傀儡は鶴喰梟のスタイルで監禁中で動けない。

 残った9人の動向を言うのなら、鶴喰梟と泉ヶ仙珱嗄は共に院長室でめだか達を待っており、めだかは現れ、スタイルで64万人に増えた杠かけがえと戦闘中、球磨川禊と人吉善吉は不知火半袖と対峙しており、鶴喰鴎と贄波生煮は院長室へ走っていた。

 

 直に鴎と生煮が院長室へ辿り着き、最終的にはめだか達も来るだろうと珱嗄は思っている。スタイルを全て見て会得してしまった珱嗄としては、最早何もすることがないのだ。

 

 

 だが

 

 

 この世界において、原作とは少し違う事が起きてしまった。獅子目言彦、この存在だ。

 

 本来なら、鶴喰親子のあれこれが起き、球磨川達が乗り込んできて、そこで獅子目言彦が鶴喰梟を踏みつぶしながら現れる筈だった。鶴喰梟はそこで死亡するが、確かにそうなる筈だった。

 なのに、今、たった今、その未来は変わった。

 

 泉ヶ仙珱嗄の前に、潜木傀儡の前に、鶴喰梟を踏み殺して、獅子目言彦は現れたのだ。鶴喰鴎がやってくる前に、球磨川禊達がやってくる前に、獅子目言彦はやって来てしまった。

 

 

「新しい! 儂の新しい敵は! どこだああああああああああああ!!!!!!」

 

 

 咆哮の様な大声で、建物にビリビリと振動を与えながらそう叫んだ獅子目言彦。この事で、この病院内にいる全員が獅子目言彦の到着を察した。

 そして、この場において、獅子目言彦に対峙できるのは泉ヶ仙珱嗄のみ。

 

「―――久しぶりだな。言彦」

「む? お前は……成程コレは新しい! 安心院なじみに続いてお前とも再会できるとはな娯楽主義者! 久しいな!」

 

 空気椅子から立ち上がり、『青黒い』瞳を揺らす珱嗄。口元を吊り上げ、獅子目言彦を見据えた。

 そして、その状態から凄まじい殺気を発する。それこそ、潜木傀儡が後方へ飛び跳ね、身体の底から震えあがるほどの。

 

「む………」

「っと……」

 

 言彦はその殺気に気圧され、一歩足を後ろへ下げた。すると珱嗄は気が付いた様に殺気を抑える。どうやらつい放ってしまった様で、軽い調子でゆらりと笑った。

 

「悪い悪い。ちょっとなじみが殺されたから少し気が立ってたみたいだ」

「なるほど、確かに貴様と安心院は昔から仲が良かったからな。それは悪い事をした」

「いやいや、別に気にしてないぜ。言いたい事はお互い伝えたしね。復讐なんて考えてないぜ?」

 

 『青黒い』瞳を鋭くして、珱嗄はそう言った。言彦はそんな珱嗄に嘘つけと心の中で突っ込んだが、自身の行動という事で口には出さなかった。

 

「で、まぁ新しい敵といっても今は俺しかいない訳だ。ってことで言彦」

「ああ、そうだな。昔から貴様とは他愛ない理由でこう言った物よ」

 

 二人は笑い、互いにその殺気をぶつけあいながら言った。

 

 

「―――喧嘩、しようぜ(ぞ)」

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 ズンッ……!

 

 

 地響きが病院内にいる全員に伝わる。全員が真っ先に言彦と珱嗄の戦闘が始まった事を察した。64万人の杠かけがえと戦っていためだかも、やりくるめられ泣いた不知火半袖や、善吉に殴られた球磨川禊や殴った人吉善吉も、院長室に向かっていた鶴喰鴎と贄波生煮も、倒れた寿常套も、分身した杠かけがえも、全員。

 絶え間なく続く地響き。聞こえてくる珱嗄と言彦の笑い声と打撃音。古い病院は衝撃に耐えきれず地響きの度に崩壊へと向かって行く。

 

「これは……珱嗄さんか……!」

『あらあら、やはり珱嗄様。あの獅子目言彦と対等に戦っておられるのですね。流石は私のお慕いしているお方』

 

 めだかの言葉に残り23万人の杠かけがえが同時にそう言う。だが、そんな流暢な事を言っている場合では無い。むしろヤバい状況なのだ。

 珱嗄は言彦など一捻りと言ったが、当然無傷で済むほど言彦も長く生きてないだろう。昔は有った経験の差は縮まり、昔ほど簡単に行く筈がない。

 

「この……仕方ない。スタイルの習得故に観察しつつの戦闘だったが……時間が無い、本気で行かせてもらうぞ!」

 

 黒神めだかはそう言って、乱神モードを発動させた。所謂、話を聞かないモードである。これなら、コミュニケーションを必要とするスタイルに対抗出来るのだ。

 何故なら、激昂した相手にスタイルは通用しないのだから。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 鶴喰鴎と贄波生煮が院長室に辿り着いたと同時、病院は崩壊した。ガラガラと瓦礫に変わっていく病院。彼らは床が崩れ、地面へ落ちて行く中で見た。

 言彦と珱嗄が落ちている瓦礫を踏み台に移動し、尚戦闘を続けているのを。

 

 珱嗄が殴れば、言彦も殴り返す。言彦が蹴れば、珱嗄も蹴り返す。

 

 オウム返しの繰り返しとばかりにお互いがお互いを傷つけあっている。そして、この時初めて、珱嗄は生まれてきて初めて、その身に傷を負っていた。

 

「げげげげげげげ!!」

「ははははははは!!」

 

 笑う。お互いが口から、鼻から、腕から、足から、血を流しながら殴る。コレは最早戦闘ではない。誇りのある戦いではない。コレはただの喧嘩だ。物をとられた子供の様な、路地裏の不良の様な、何処にでもあるありふれた喧嘩。

 

 破壊屋と人外はそんな喧嘩を地形を変えるレベルで行なっている。

 

「げっげっげ、ようやくだ。ようやく貴様に一撃を届かせたぞ!」

「何言ってんだよ。これ位で満足してるようなら拍子抜けだぜ?」

 

 ゆらりと口元を吊り上げて、青黒い着物をはためかせ、面白そうに笑う珱嗄。言彦はそんな珱嗄に対し、また笑って構えた。

 

「全く持ってその通り。では次は勝利をもぎ取るとしよう。この言彦、珍しく滾って来たわ!!」

「最近どうも面白い事が無かったからな。憂さ晴らしに付き合えや!」

 

 再度ぶつかる珱嗄と言彦。原作で黒神めだかがあれこれ考えた空気の壁とかは余裕で破壊し突破していく二人。もはやその速度は黒神ファントムを優に超えていた。

 

「さて、続けようか」

「無論」

 

 言彦と珱嗄の喧嘩は、更なる破壊を生みながら、再開された。

 

 

 


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