◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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コレは寿常套のスタイル、『童幼使い』だよ

 

 ―――箱庭病院

 

 

 ここはこの物語の原作を見れば、様々な物が出会い始まった場所である。例えば黒神めだかと人吉善吉の出会いの場所。例えば球磨川禊と黒神めだかが出会った場所。例えば志布志飛沫と蝶ヶ崎蛾ヶ丸が潰した場所。例えば泉ヶ仙珱嗄と人吉瞳が働いていた場所。例えば――――鶴喰梟が院長を務めていた場所である。

 

 そして、潰れた後も取り壊されずに残っている不気味な廃病院。それが今の箱庭病院だ。珱嗄達はそこへやって来ていた。志布志飛沫の【憎武器(バズーカーデッド)】によって罅割れボロボロの院内を歩く珱嗄達。

 珱嗄は以前働いていた事も有って内部構造は把握済み。迷い無く進んでいた。

 

 だが、変化が起きたのはとある角を曲がった時。

 

「あれ? なんか今変な感じしなかった?」

 

 最初に違和感に気付いたのは鶴喰鴎。珱嗄はゆらゆら笑っている。その『和服型改造制服』を揺らしながら。だが、気のせいだろうと更に前に進む。

 流石に珱嗄は気付いていた。この変化に。気付いてて尚教えない。そしてさり気なく最後尾を歩く様に並び順を変動させ、前へ前へと進ませる。

 

「それにしても良く覚えてるもんだな。ずっと前の事なのによ」

「何を言うか善吉。ここは私や貴様にとっても思い出深い場所だろう」

「『そうだね』『かくゆう僕も』『瞳先生とファーストキッスを交わした場所でもあるよ』」

「お前人の母親とどんな思い出作ってんの!?」

 

 変化に気付かない。珱嗄は笑う

 

「それにしても、スタイルの創始者ってのはどんなもんなんだろうね?」

「それは分からないよ。私のスタイルも我流だからね。めだ姉に私がスタイルを教えられないのもそこにある」

「『あはは』『それじゃあバーミー君は』『元々スタイルを使えたわけじゃなかったんだね』」

 

 変化に気付かない。珱嗄は笑う

 

「………」

「………」

「………」

「「「!!?」」」

 

 変化に、気付いた。珱嗄は笑う

 

「えええええ!? 俺達の身体が、幼くなってる!?」

 

 そう、幼くなっているのだ。珱嗄を除いて、全員の身体が幼くなっている。おおよそ2歳児程の身体に、若返っているのだ。そしてなにより、言彦によって与えられた傷の全てが、無くなっていた。

 

「ははは、随分と可愛くなったね皆。小さいなぁ」

「珱嗄さん、は無事なのか……だがコレは一体……?」

「コレは寿常套のスタイル、『童幼使い』だよ」

 

 そう、この場にはいないがこの現象は漆黒宴で登場した婚約者候補の一人。寿常套のスタイルがこの場で発動していた。童謡を歌う事で、それを聞いた対象を若返らせるスタイルだ。

 ただ、童幼というスタイルは普通とは違って、別に歌を聞きとれていなくてもいい。その歌による空気の振動が伝わる範囲、それがこのスタイルの効果範囲。

 その効果範囲に入った故にめだか達は幼くなってしまったのだ。珱嗄が同じ位幼くなっていないのは、ただ生きてきた年月が多すぎているだけだ。

 

 というより、珱嗄はこの世界に生まれた時から現在と同じ肉体年齢だったのだ。ということは、珱嗄は生まれた直後まで若返らせられたとしても、赤子になることはない。このスタイルの天敵みたいな男なのだ。

 

「ははは、まぁアレだ。どうやら不知火半袖はもう此処にいるみたいだね。それに、寿常套と杠かけがえも居るみたいだ。ずいぶんとまぁ……役者が揃ったもんだ」

「珱嗄さん、そんなの言ってる場合ではないかと……」

「まぁこのまま赤ん坊になっても困るし、俺がちょいと捻ってやっても良いんだけど……めだかちゃん、お前は此処にスタイルを学びに来たんだ。現スタイル使いを相手にしてみるのも勉強になるだろ。という訳で、自分で何とかしろ」

 

 珱嗄はそう言うと、そのままゆらりと笑ってスキルで転移した。向かい先は、鶴喰梟の居る院長室である。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「! おや、随分とまぁ大物が来た物だな。泉ヶ仙珱嗄、私は君を招いたつもりは無いのだが……まぁいい、俺は我慢して、君を歓迎しよう」

「やぁやぁ鶴喰梟。死んだとか世間は言ってるけど、幽霊になった気分はどうだ? まぁ興味は無いけどさ。とりあえず、面白そうだから俺はお前に歓迎されてやるよ」

 

 珱嗄がやってきた院長室には、鶴喰梟と檻に入れられた潜木傀儡しかいなかった。どうやら不知火半袖は既に善吉達の下へ言った様で、杠かけがえも居なくなっていた。

 

「で、何の用?」

「用なんかねぇよ。死人に用が有るとしたらなじみの方に会いに行くわ。自惚れんなよ小僧」

 

 珱嗄はそう言って少しだけ惚気た。だが鶴喰梟はそんな珱嗄にめくじら立てる事もなく笑った。どこかダンディーな笑みを浮かべながら珱嗄に対して会話を続ける。

 

「まぁお前に何かした覚えは無いし、最低限関わらない様にして来た筈だからな。ま、ゆっくりしてけよ化け物。俺は居て欲しくもないが我慢してお前と会話しよう」

「そいつはどうも。つってもお前と話す事は何も無いんだけどね? 正直なところ、俺の目的はお前のスタイルを見る事だからね」

「なるほど、それならばそれを見せたらお前は帰ってくれるわけだ。いいだろう、見せてやるよ。獅子目言彦に唯一対抗出来る手段をな」

 

 鶴喰梟は立ち上がり、両手を広げてそう言った。珱嗄の目的はスタイルを習得すること。ついでにめだかに習得させてみよう的な考えなのだ。正直なところ、スタイルを習得しなくてもいいのだが、アブノーマル、マイナス、スキルと色々な玩具を手にして来た珱嗄からすれば、スタイルという新しい玩具が目の前に転がって来たこの状況で、欲しいなぁと考えるのも当然の事。

 やはり珱嗄は珱嗄。面白い事には貪欲な男なのだ。

 

「それで、お前は何が見たい? どうせ漆黒宴で色々見たんだろう? 贄波の逆説使い、叶野の漢字使い、潜木の誤変換使い、桃園の名札使い、そしてついさっき寿常套の童幼使い。あと見てないのは……まぁ一つだけか。いいぜ、じゃあ俺の生み出した最後のスタイル。嘘八百使いを見せてやる」

『結構使い勝手がいいんだぜコレ。いろんな作業が短い間で終わるからな』

 

 鶴喰梟がそう言い終わった後、鶴喰梟が続いて言葉を吐いた。珱嗄の目の前には鶴喰梟が二人。嘘八百使いとは、嘘を重ねて自分の分身を生み出すスタイル。他にも色々出来そうではあるが、主立った使い方は分身の生成のようだ。

 

「へぇ……随分とまぁ面白いスタイルも有ったもんだ。それじゃあまぁ……一人に戻れ」

 

 ばきゅん。この音が珱嗄の指から放たれ、分身の鶴喰梟が消し飛んだ。

 

「………随分とまぁ……物騒な力を持ってるなお前……流石の化け物。とりあえず、征獄(うごく)なよ」

 

 鶴喰梟がそう言うと、珱嗄は潜木傀儡の様に突然現れた檻に入れられた。

 

「……なるほど。獄中って訳か。動くと征獄を間違えた誤変換……ま、こんなのは俺を捉えておくには少しばかり小さすぎる」

 

 すると、珱嗄を囲ってた檻が消え失せた。それこそ、霧の様に消え失せて行った。

 

「……驚いたな。スタイルをこうも簡単に使いこなすとは……」

 

 獄中にある珱嗄の使ったスタイルは、同様に誤変換。極小と獄消を間違えた誤変換。

 そして、珱嗄がスタイルを使ったという事は、誤変換以外にも使えると見た方が良い。今や全てのスタイルを視た珱嗄は、新たな玩具を手に入れたも同然なのだから。

 

「とはいえ、使い勝手が良いのは認めてやるよ」

 

 珱嗄は青黒い着物の裾をゆらりと揺らし、『青黒い』瞳を輝かせてそう言った。

 

 そして、スタイルを習得した珱嗄はもう興味が無いといった表情で、空気椅子を開始。足を組んだ状態でめだかを待つ事にした。

 

「おいおい、帰ってくれるんじゃなかったのかよ」

「俺は帰るなんて一言も言って無いぜ」

「………」

 

 珱嗄は鶴喰梟に飄々とそう言って、黙らせた。

 

「さてさて………めだかちゃんはどうなるかな?」

 


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