◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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そいつは聞けない相談だな

 獅子目言彦と、帯刀靱負が、一つの部屋に入ってからほんの30秒。この30秒の間で起こったやり取りは、その場にいた全員の眼に焼き付いている。黒神めだかにも、球磨川禊にも、人吉善吉にも、安心院なじみにも、潜木傀儡にも、不知火半幅にも、不知火半袖にも、そしてなにより獅子目言彦と帯刀靱負本人達にも、強く眼に焼き付いていた。

 

 ほぼ同時に一つの部屋へ飛び込んできた獅子目言彦と帯刀靱負。この二人はまず2秒ほど立ち止まり、お互いを見た。その2秒で感じた事は、片や興味無し、片や殺意。

 そして次の瞬間、帯刀靱負が猛スピードで突撃。意表を衝いた攻撃は、獅子目言彦の鳩尾にその小さな手刀を届かせた。

 

 だが

 

 その攻撃は言彦の防御力の前に打ち砕かれ、その手刀は血飛沫と共に破壊された。だがそれでも、帯刀靱負は止まらない。砕けた手刀を引き、返す刀でもう一方の拳を跳びあがって言彦の顔にぶつけた。が、同じ様に跳ね返され、破壊される。

 

 

 着地して蹴りを加える。が、破壊される

 

 

 蹴りの勢いで回転しもう一度蹴る。が破壊される。

 

 

 肉体をスキルで動かし、跳びあがって肩からぶつかる。が、破壊される。

 

 

 更に無理をして飛びあがり、頭突きをする。が破壊される。

 

 

 四肢と頭蓋を破壊されたが、地面に落ちる前にその首筋に噛み付く。が、そこまで。

 

 

 うっとおしいハエがいるかのように獅子目言彦は帯刀靱負の胴体にその大きな手をぶつけて薙ぎ払った。胴体もまた、破壊される。

 

 

 無事なのは生きていくのに最低限の内臓。だが致命的なまでに頭蓋骨が破壊され、脳にまでそのダメージが入っていた。致命傷、それも獅子目言彦による。言彦による破壊のダメージは、治らない。それが例え、スキルでも。

 帯刀靱負の身体は、瀕死の状態。それでもなお、彼女の瞳は獅子目言彦を睨みつける。脳にダメージがいって、もはや意識は朦朧とし、様々な情報処理が出来ていない中でも、彼女は言彦に殺気を送り続けていた。

 それがこの千年溜まりに溜まった殺意。獅子目言彦に対する復讐と憎悪は、それだけの物だったのだ。

 

 だが、殺意だけでは獅子目言彦を殺せない。身体は動かず、神経の一本一本に至るまでズタズタだ。もはや戦闘どころか日常生活すら出来ない。

 と、そこに絶望の一声が掛かる。

 

 

「む? なにやら蠅が飛んでいた様だな。全く、この言彦に纏わり付くとは気持ち悪いな」

 

 

 あれだけの攻撃、あれだけの執念が、蠅と同じ。千年分の殺意と憎しみが、たったそれだけの事で一蹴された。

 圧倒的、それだけしかない。

 

「あ……く……ぅ……!!!」

「靱負ちゃん!」

 

 倒れた靱負を見て、駆けよったのは安心院なじみ。珱嗄が連れてきて共に暮らす少女だ、妹分的な思いもあったのだろう。抱え上げるが、その身体は既に満身創痍以上に死体同然。全知全能の安心院なじみでも、その治療は不可能だった。

 

「……めだかちゃん」

「な、なんだ」

「僕が15秒間だけ、時間を稼いでやる。だからその隙に逃げろ」

 

 靱負のおかげで、原作の様に善吉と球磨川が飛び掛かる様な事にはならなかったが、それでも状況は致命的。あの安心院なじみでも、時間稼ぎ位しか出来ない。

 

「おい安心院さん! アイツは誰だ! もったいぶらずに教えろ!」

 

 逃げろというのに、黒神めだかは状況の確認を行なう。だが、安心院なじみは何も言わず、靱負をめだかの近くへ置いて、嫌な汗を流しながら立ち上がり、言彦の一挙手一投足を見ていた。

 

「げっげっげっげっげっげっげっげ!! あ、新しいいいいい!! この再会! 実に新しいな平等主義者よ! えーと、今風に発音するなら安心院なじみか!」

 

 会話の流れをぶった切ってそう行ったのは獅子目言彦。高笑いしながら安心院なじみを指差した。

 

「僕の事は親しみを込めて安心院さんと……呼ばれたくねーな、お前には」

「安心院さん!」

「ははは、そう聞いてやるなよ。なんせ、この獅子目言彦は………人外が初めて勝てなかった相手なんだから」

「!!?」

 

 会話をするなじみと言彦の間に入って問いただすめだか。だが、その問いには言彦によって入室の際にボロボロにされた半幅が答えた。

 そしてその事実は、安心院なじみに大きな信頼を寄せていためだか達に大きな衝撃を与えた。なんせ、あの安心院なじみが、勝てなかった相手なのだから。

 

「おいおい、間違えるなよ。僕が初めて勝てなかった相手は言彦じゃねーよ。ま、それでも五千年前、当時の僕ときたらこいつに少なくとも一億回は敗北した。当時もスキルは1京はあったんだけどね」

「………!!」

「ほら分かったら早く逃げろよ。僕の好意に甘えて」

「………甘える!」

 

 安心院なじみの言葉に、黒神めだかは改神モードを発動。黒神ファントム(ちゃんとした版)を使用し、倒れた不知火と帯刀靱負、善吉と球磨川に潜木傀儡、そして言彦に武器扱いされていた半幅奪い取って、全員抱えて部屋から飛び出して行った。

 その背中を見て、安心院なじみは笑う。そして言彦に対峙した。

 

「げっげっげ、あの女はお前のお気に入りか? 安心院」

「どうでもいいだろそんな事」

「まぁいい。それにしても人間の無刀取りとは新しい。まぁ、貴様相手を相手にするには相応の武器を用意せねばならないと思っていた所だ」

 

 すると、言彦は何処からともなくその武器を取り出した。

 

「丁度輪ゴムを持っていて良かった。貴様と戦うには丁度いい武器だ。げっげっげ」

「お前のそういう所は、大嫌いだよ」

「げげげ、だがまぁ貴様とは5000年前にもう戦い飽きておる。どうだ安心院。先程逃げて行った奴らを儂の前に連れてくれば見逃してやっても良いぞ?」

 

 言彦は戦う前にそう言う。だが、安心院なじみの考えは変わらない。故に

 

 

「そいつは聞けない相談だな」

 

 

 石動弐語の時同様自分の生きられる道を自ら切り捨てる。

 

 そして、二人はなんの合図もなく行動を開始した。いつもの様なスキル弾幕を発動させるなじみに対し、輪ゴムをただ飛ばした言彦。

 結果は、スキルを全て刎ね飛ばされ、輪ゴムによって上半身と下半身を分断されたなじみが物語っていた。

 

「だがまぁ貴様とは5000年前にもう戦い飽きておる。どうだ安心院。先程逃げて行った奴らを儂の前に連れてくれば見逃してやっても良いぞ?」

 

 言彦は戦う前にそう言う。だが、安心院なじみの考えは変わらない。故に

 

「そいつも聞けない相談だな」

 

 石動弐語の時同様自分の生きられる道を自ら切り捨てる。

 

 

「新しい」

 

 

 お゛ん……と不気味な雰囲気を纏いながら、言彦は笑ってそう言った。

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「っ!」

 

 その頃、珱嗄は唐突に、立ち上がる。ガタッと音を立てて、椅子が倒れた。着物の裾が揺れる。

 

「………なじみ?」

 

 眼を見開き、何も無い空間にそう呟いた珱嗄の言葉は、誰にも届かず空気に混じって、消えた。

 

 

「――――珱嗄」

 

 

 そんな言葉に振り向く珱嗄。3年13組の教室の入り口。そこに立っていたのは、安心院なじみと同じ、悪平等(ノットイコール)。不知火の里を生み出した男。

 

 

「半纏……」

 

 

 不知火半纏だった。

 


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