◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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さて、それじゃあ何処へ行こうか

 さて、俺が病院の職員になっておおよそ二年ほどが経った。まぁいままで数億年単位で時間が飛んだりしていたからまだマシな時間飛びだと思う。

 で、なんで二年後かというと、ついにやってきたからだ。あの子供達がやってくる日が。

 

 目の前に居るのは、瞳センパイと向かい合っている不気味な少年。無造作に伸ばされた髪に見え隠れする大きく底の深い瞳にボロボロのウサギのぬいぐるみ。何もかもが不気味に歪んでいるその少年は、暗い表情を浮かべて瞳センパイに向かって話し始めた。

 

「『人吉先生……お願いがあるんです。』『どうか僕の事は異常なしと診断してくれませんか?』」

 

「それはどういう事?」

 

「『だって、異常があったら親に心配掛けるじゃないですか。』『僕としては親に心配かけたくないんです。』」

 

 傍から見れば、親思いの出来た息子さん。だが、彼の事を見ればそんな考え浮かぶことすら無いだろう。何故なら、彼の顔は何処までも過負荷(マイナス)で、何処までも不気味(マイナス)だったから。

 

「……それは一人の医者として見逃せないわ。私は正しく診断する」

 

「『困ったなぁ…』『あ』『そうだ、先生は僕の後に続く子供達の診察をして』『データを取りたいんですよね?』『だったら、取引しましょう。』」

 

「取引……ねぇ」

 

 少年、球磨川禊はへらへらと笑いながらそう言いのけた。その言葉に俺はぽつりと呟く様にそう漏らす。聞こえていないと思ったのだが、少年には聞こえていたようで、くるっとこちらを向いて言葉を紡いだ。

 

「『えーと』『泉ヶ仙珱嗄先生ですか。』『そうです。取引をしましょう。』『ここに、まだ検査を受けていない異常者二千人分のデータが入ってます。これを差し上げますから僕の事を異常無しと判断してください。』」

 

「なっ……そんなの何処で…」

 

「『何処で手に入れたか』『なんてどうでもいいです。』『どうしますか?』」

 

「そんなの受け取る訳――「『そういえば、さっき託児室にいた子』『人吉先生の息子さんなんですか?』」……!?」

 

 彼は瞳センパイの言葉を遮って、そう言った。その言葉に瞳センパイは言葉を詰めらせ、黙ってしまう。

 

「『可愛い子ですね。』『もしこのまま異常ありと判断されて入院したら』『彼と友達になろうかな』」

 

 それは、あからさまな脅し。息子を危険にさらしたくなかったら、見逃せ。そう言っているのだ。

 

 しかし、それは瞳だけの場合のみ通じる手段。この場には、珱嗄という怪物(イレギュラー)がいた。

 

「善吉君か。確かに可愛い子だよね、将来グレる原因になりそうな母親がいるけど」

 

「『……で』『どうするんですか?』」

 

「で、でも……」

 

「『まぁ、結局の所……このままこのデータを受け取れば貴方は誇り無き医者になり』『受け取らなければ息子を見捨てた使命無き医者になる。』『どちらにせよ貴方の生き方はこの時を境に折れ曲がりますから』」

 

 躊躇する瞳にさらに畳みかける球磨川。だが、いつまでも躊躇している瞳の目の前で、差し出されたデータを横から掻っ攫って行く手があった。

 

「それじゃあこのデータは俺が貰う。お前は異常無しだ、さっさと帰りな。生憎と、俺は医者という仕事になんの思い入れも無いんでね。お前の目論見は外れだ、残念だったな」

 

「『……ありがとうございます』」

 

 球磨川はそう言うと、少し不満げな表情を浮かべながらぬいぐるみを引き摺って部屋を出て行った。

 

「良かったねぇ、瞳センパイ。これでアンタはまだ……医者でいられるぜ?」

 

「………っ」

 

 そう語りかける珱嗄だが、瞳の表情は既に医者としての矜持を粉々に砕かれた後。如何に医者としての誇りも使命も守られたとはいえ、このままやっていくには遅すぎていた。

 

「……ま、いいや」

 

 珱嗄はそう言うと、瞳の膝の上に辞表と書かれた書類を置いた。それをみた瞳は視線を珱嗄の顔に移す。すると、珱嗄はにたりと笑い、言う

 

「医者にも飽きたし、辞めるわ。後の始末は宜しく頼んだ」

 

 言い終わると、反論なんか聞かないといった風に珱嗄はスキルを使ってその場から消えた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

「―――で、また僕の所に来たと」

 

「うん。正直、気にしてた球磨川君も見れたし? もういいかなって」

 

「はぁ……随分とまた自由だねぇ」

 

 そう言って、俺はなじみと話していた。既に、辞職届けは出したし、白衣も前の着物に戻して辞める気満々だ。何を言われたとしても逃げてやるわ。

 

「んー……まぁいいか。僕としても、あの病院はもう用済みだし……もうじき今やってる事も次の段階に進むしね」

 

「そいつは重畳。それじゃ、俺は久しぶりにうんざりしてた自由の時間を楽しむとするよ」

 

 そう言って、2年前の様に書類は持ってないが、後ろ手でひらひらと手を振りながら着物を翻し、部屋を出たのだった。

 

 ―――さて、それじゃあ何処へ行こうか。

 

 

「さしあたっては……そうだな。まずはゆっくりするとしよう。久々の休日だし……ね」

 


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