◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
現在、黒神めだかの漆黒宴騒ぎは大きく状況を変化させていた。それというのも、人吉善吉が黒神めだかに追い付いてからというのが問題だった。
潜木もぐらは球磨川禊によって封殺されたが、その後【
そしてそこからはトントン拍子、簡単に言うのなら善吉がめだかにプロポーズ、成功。喜ぶのも束の間兎洞武器子によって善吉は殺害された。その後、蘇生を試みようとする一歩手前で善吉の死体は名札使い、桃園喪々に封印されてしまった。
結果、桃園喪々と黒神めだかが対立し、対決に勃発。最終的に、漆黒宴を終了とし、決勝戦をその場で執り行なう事になったのだ。桃園喪々、杠かけがえ、寿常套、黒神めだかの四名によるしりとりバトルが行なわれる事になった。
だが、その際に桃園喪々の提案で名札になったメンバーの内の三名を開放するという事になった。桃園の取っている人質は善吉を含めて現在六名。対して、黒神めだか側に交渉材料として連れられてる贄波、叶野、潜木の三名。その差分の人質を解放しようと言うのだ。
願ったりかなったりな状況だが、何か企みが有る様な気もしてならない。というのが現在の状況。大きく変動した状況に、めだか側のメンバーは困惑するが、誰を開放するかを話し合う。取られられている中で解放出来るメンバーは、珱嗄、なじみ、鴎、半袖、半纏の五名。その中で出て来させるとすれば、自力で出て来れそうななじみと珱嗄、半纏を除いて鴎と半袖の二人だろう。後は無難に半纏を選ぶ、といった感じだろう。
「珱嗄さんと安心院さん、後は…半纏さんだ。その三人を解放しろ!」
「なっ!? めだかちゃん!?」
めだかの判断はそういう物だった。無難ではなく、仲間の意表を衝いた判断。
「……ふむ、良かろう。それではその三名を開放する」
桃園喪々はにやりと笑って名札を取り出し、その三名を開放した。内から出て来たなじみと半纏、そして珱嗄。
この判断は何処までも意表を衝いていて、誰もが間違いだと思った。桃園喪々の思惑通りだと思った。だがその考えこそ間違っていた。桃園喪々の企みこそ破綻していたのだ。
何故なら、彼を開放してしまったから。泉ヶ仙珱嗄を、安心院なじみ以上に化け物の、抑えないと居るだけで周囲に影響を与えてしまう程の人外を、解放してしまった。
元々、珱嗄は名札に封印されたのではない。封印されてやったのだ。スタイルというのは確かに脅威だ。スキルとは違った別次元の言葉の力。だが、スキルに上回るという訳ではない。相性こそ有るだろうが、スキルと対立して確実に勝利を収められるわけではない。
現に、叶野遂はくじらの【
それと同じ様に、珱嗄は名札による封印を、桃園喪々に『使わせた』のだ。他でも無い、自分自身に。珱嗄式スキルの一つ、先手を取らせるスキル【
珱嗄を封印出来た事は桃園にとっても他の婚約者候補にとっても幸運だった。何故なら珱嗄が動けばあっという間にこの漆黒宴は終わっていたからだ。
だがもう遅い。よりにもよって、彼女は自分自身で解放したのだ。漆黒宴どころか自分達の勝負そのものの終わりを。
「面白くない面白くない面白くない面白くない。全く持って面白くないぞ、お前ら」
解放された三名の内、珱嗄だけがそう言った。なじみと半纏は目を伏せてただ沈黙を貫くばかり。余裕な雰囲気を常に張っていた安心院なじみですら、その表情から読み取れる感情が無かった。もはや展開を見守るばかりだ。
「なっ……何故だ!?」
桃園喪々が驚愕の声を上げた。その理由というのも、珱嗄の手元にあったのだ。改造制服型着物の裾から伸びた腕の先、その両の手に掴まれていたのは………人吉善吉の死体。そしてその次の瞬間、桃園の手にあった名札が震え、その名札が消えた。そしてその代わりに不知火半袖と鶴喰鴎が解放される。
「なんだ、何が起こっている!? 貴様、一体何をした!?」
桃園はうろたえ、人質が居なくなったこの状況に焦る。そして問われた珱嗄はゆらりと笑って桃園を指差しこう言った。
「珱嗄式スキルの原点回帰。思考からスキルを創るスキル【
「な、に……?」
「珱嗄式新スキルの一つ、スタイルを発動させるスキル【
珱嗄がたった今創ったスキル。スタイルに対するスキル。これを発動させ、桃園にスタイルを使わせたのだ。主に解除の方向で。故に、これで桃園に人質はいなくなった。
それはつまり、漆黒宴が終わった今、黒神めだかに戦う理由が無くなった事になる。
「そんな馬鹿なスキルが……!」
「有るんだよ。俺に対する情報をもう少し勉強しておくんだったなチビ。とはいえ、かけがえちゃんはその辺分かってても良いんじゃねーの?」
「私が珱嗄様の邪魔をする筈が有りません! それと、私の事を覚えててくれたのですね。ああ、何と嬉しい事でしょう! 小さい頃よりお慕い申しておりました……!」
珱嗄の言葉に杠かけがえは頬を紅潮させてそう言った。安心院なじみがぴくりと眉を顰めたが、気にせず珱嗄は話を進める。
「でだ。俺達にはもう戦う理由が無い。というか、人質を解放すること自体はずっと前から出来たんだよ。名札の封印程度で縛れると思うなチビ」
「く……!」
「さてめだかちゃん。善吉君も蘇生した事だし、まだ続けるのか?」
「えっ」
めだかは急に話を振られてビクッと驚く。展開が速過ぎて付いていけなかったのだ。珱嗄の言葉を聞いて、その手元を見ると、善吉の傷が治り、正常に息をしているのが分かった。生きている。
その事に少し安堵し、その後この戦いを続けるのかどうかを考えた。漆黒宴は終わり、善吉も帰って来た。戦う理由としては心許無いが、鶴喰梟の事が少し気になる所。
「梟博士の死因を……」
「! そうだ、吾輩は梟博士の事を知っている。さぁ決勝戦を続けようではないか」
「そんなもん後で俺が教えてやるよ。面倒臭いな」
桃園に光明が差したかと思いきや、またも珱嗄によって潰される。最早珱嗄無双、戦っていないのに。戦う以前にその手段が全て潰される。これは最早勝負になっていない。
「さて、帰ろうか。面倒なあれこれは後で俺が処理しておいてあげる。とりあえず婚約者候補全員家に帰れ。はい撤収ー。全く、つまらない事に付き合わせやがって。ここ数話分見てみろ。ただ思い出話しながらダイジェストで漆黒宴進めただけじゃねぇか」
珱嗄はそう言ってこの場を締めたのだった。
こうして漆黒宴は終わった。何もかも拍子抜けに終わったこのイベント。だが、このイベントは後の事件に少なからず関わりを持つ。そう、過去で一番悲惨な事件が、すぐそこまで迫っていた――――
五千年前の英雄、珱嗄となじみと、そして獅子目言彦に関わる、最大の出来事が開幕する……