◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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美味い

 珱嗄となじみは、御存じの通り数十億年という長い年月を共に生きて来た二人である。時には喧嘩し、時には勝負し、時には怠け、時には笑い、時には悩み、時には落ち込み、時にはじゃれあい、時には別れ、時には再会し、時には怒り、時には殺し合ったり、時には慰めたり――――挙げれば切りが無い程の思い出が二人の中にはたくさん詰まっていた。

 

 そしてその関係は初対面から知人となり、知人から友人となり、友人から親友になり、親友から家族同然となり、今では片方が片方に片思いをするまでにその関係は深く、強い物になっていた。

 なじみが死ねば、珱嗄は悲しむだろうし、珱嗄が死ねば、なじみは間違い無く大泣きして後を追うなど暴挙に出るだろう。

 とどのつまり、そう言う関係なのだ。家族以上に親密だが家族では無い。親友以上に絆が深いが、友人の域は超えている。恋人と言えばしっくりくるのに、恋人ではない。

 

 今から五千年前程、珱嗄となじみがその絆を家族以上にまで発展させた時期から、その関係に変化は無いのだ。これ以上深い絆にならず、関係の変化が訪れる機会もない。あるとすれば、安心院なじみと泉ヶ仙珱嗄が恋人という関係に進展した場合だ。

 この先、片思いをしているなじみがどう動くかでその関係性は変動するだろう。

 

 これもある種、一つの恋愛の問題。

 

 現在人吉善吉が黒神めだかを追う理由と同じ物だ。違うのは相思相愛で有るかそうでないかの違い。今回はその二人の膨大な思い出の中の一つを語ってみよう。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 現在、球磨川禊が南極にて人吉善吉達を助けていた。その中で、先の二組同様また一つの恋が絡んでくる。江迎怒江の人吉善吉への片想いだ。この南極で、彼女の恋は終わりを告げた。

 人吉善吉への告白と失恋。分かりきっていた事だった。彼女は善吉がめだかが好きだと気付いた時に背中を押した張本人だ。自分の恋が善吉に届かない事くらい重々承知の上だった。

 

 そして、人吉善吉は命を掛けて彼女の告白を振った。結果、彼女は失恋しつつも後悔しない恋愛を終える事が出来たのだった。

 

 その後は単純。球磨川禊はその恋愛の終わりを見届けた後、善吉達をボコボコに叩きのめした婚約者候補その1、潜木もぐらのスタイル【誤変換】を初めから間違えている過負荷(マイナス)却本作り(ブックメーカー)】にて封殺したのだった。

 とはいえ、人吉善吉の度量にまた勝てなかったと漏らし、少しだけ悔しそうにするのだった。

 

「ふぅ……球磨川君はどうやらちゃんと善吉君達を助けてくれたようだね」

「まぁあれだけ負けといて約束を反故にする様な球磨川君じゃあないだろ」

 

 珱嗄がその一部始終を見終わった後、またソファに背を預ける。その隣でなじみがニコリと笑いながらそう言った。

 名札の中とはいえ、その快適さは折り紙付き。贅沢な時間を過ごしつつ、珱嗄達は外の様子もしっかり観賞していたのだ。

 

「さて、ここから善吉君達は俺達のいる月への移動場所にやって来るだろうし、それまでは暇かな」

「あひゃひゃ☆それじゃあ何か思い出話でもしてくださいよ! 珱嗄さん」

 

 珱嗄の呟きに反応したのは不知火半袖。どうやら彼女は珱嗄の過去に興味が有るようで、思い出話を聞きたそうににこにこと笑った。

 珱嗄はそんな半袖の表情を見て、少しだけ考えた後まぁいいかと結論を出し、昔話を話す事にした。それはなじみとの思い出の一つ。今から一億年程前の話だった。

 

「あれは多分、今から一億年くらい前の話――――」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 約一億年前、人がまだ居なかった時代の話。地上には恐竜が存在しており、地上はジャングルに覆われていた。日々苛烈になっていく生存闘争と殺し合いは、唯一の人間であった珱嗄となじみにとってとても興味深かった。

 恐竜に興味の尽きない珱嗄達は、その人外のスキルを多用し、恐竜の生態を調べる事にしたのだ。

 

 まず始めにやったのは、恐竜の肉が美味いのかどうか。漫画やアニメでは恐竜の肉を焼いて食べているシーンもある。その際、とても美味しそうに肉を頬張る登場人物たちがいるのだが、果たしてそれは本当に美味な物なのか珱嗄は試す事にしたのだ。

 まずは手頃にその辺を歩いていた肉食恐竜を身体能力だけで殴り殺し、尻尾や腹の肉を削ぎ落して焼いてみた。すると、その部位からは溢れんばかりの肉汁と香ばしい匂いが立ちこめ、珱嗄となじみの空腹を誘った。

 

「食べようか」

「うん」

 

 一口。二人はほぼ同時にその肉を口に放り込んだ。箸が無い時代故に、手掴みだがあまり気にしていないので、二人は口を動かしてもぐもぐと咀嚼する。

 そして呑み込み、息をほぅっと吐いた。

 

「「美味い」」

 

 二人の感想はただその一言。肉汁は噛めば溢れてきて、香辛料も無しにただ素材そのものがスパイシーな味を持っていた。肉厚なのに柔らかで、噛む歯が簡単に肉を噛みちぎる。呑み込んだ後ですら喉の奥、胃の中からその香ばしい匂いを感じさせるその素晴らしさと言ったら、珱嗄となじみが一心不乱に焼き肉パーティを開催する程の物だった。

 食欲が満たされるどころかもっと食べたいというかのように身体は肉を求め、気が付けば殺した一頭の恐竜は全身が骨になるまで身体についていた肉を食いつくされたのだった。

 

「ふー……あー美味かった!」

「びっくりだね。恐竜の肉がこんなに美味しい物だとは知らなかったよ」

 

 珱嗄となじみは地べたに座って一息吐く。傍らには恐竜の骨が無造作に放置されているが、二人には関係なかった。お腹をさすって満腹満腹と満足家に呟く珱嗄と、口元を服の袖で拭うなじみ。

 正直言って、彼女達はスキルで体重や体脂肪をどうこう出来る側の人間なので食事制限は無い。そのくせそのスタイルは自由に維持されるから羨ましい物だ。

 

「そういえば、珱嗄はなんで恐竜を食べようと思ったんだい?」

「だって草や木の実だけじゃ腹一杯にならないし」

「僕達は食事を取る必要はないじゃないか」

「これも娯楽の一環さ。元々人間は食事や睡眠を必要とするんだ。人外だろうとそういった物を取り入れるのは悪い事じゃない」

 

 二人で会話する。満足気に話す珱嗄と楽しげに話すなじみは会話に集中していて、周囲に気を配っていない。これが不味かった。

 会話の途中で恐竜が近づいていたのだ。空から。

 

 その恐竜は鳥竜種と呼ばれる恐竜で、空を飛べるのが特徴だ。奴らはその制空権を活かして上空からなじみに近づき、その裾を加えて飛んで行った。

 

「へ? うわぁ!?」

「あーらら、連れて行かれちゃったよ」

「た、助けて珱嗄!」

 

 名称、プテラノドンに連れられたなじみは腕をバタつかせて珱嗄に助けを求めた。その姿は人外というには余りに面白かった。

 珱嗄はゆらりと笑って楽しげに飛び上がり、空を蹴る事でプテラノドンに追いつく。そしてそのまま踵落としを決めてなじみを助けたのだった。

 

「あーびっくりした!」

「くっくっく……中々面白い絵だったぜ、なじみ」

「も、もう! 本当にびっくりしたんだから!」

「はいはい、分かってるよ」

 

 分かって無いだろうと珱嗄の胸をポカポカと小突くなじみ。そのやり取りは夕飯時、また恐竜を取りに行こうという提案が珱嗄からされるまで行なわれた。

 

 それから数百、数千年、恐竜は滅びた。どういう理由で滅びたのかは知らないが、しかし、とある人物はこう言った。

 

『恐竜は別種の強力な生物によって食い散らかされ、滅びたのだ』

 

 と。ただし、その真相を知る者は、現代では泉ヶ仙珱嗄と安心院なじみの二人のみ。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「っと、こんなことが有ったよ」

「いやぁ、まさかプテラノドンがあんなに器用だとは思わなかったね」

 

 珱嗄となじみは懐かしそうにそう語る。だが、他のメンバーにとって気になる点は恐竜の滅びた理由はこいつらが食い散らかしたからじゃないかという所。疑いの眼差しが強くなるが、その視線を意図も介さず珱嗄となじみはただ微笑むばかりであった。

 


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