◇3 めだかボックスにお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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『それじゃ、また明日とか!』

 それからしばらく、黒神めだかとその婚約者達は場所を移動して、南極にやって来ていた。また、その場所に贄波生煮はいない。初戦で敗退したからだ。

 よって、彼女は月氷会情報で人吉善吉がやってきているという情報に基づき、足止め係として黒船に残ったのだ。現在、人吉善吉ら生徒会と戦闘中。

 

 そして、生煮以外の婚約者は南極にて言葉を交わしていた。

 

「で……杠の、潜木の、貴様らと贄波の共々奴とはどういう関係だ?」

「どういう関係とはどういう意味でしょうか?」

「にゃははー良く分かんないのだ!」

 

 杠かけがえと潜木もぐらが桃園喪々の問いに微笑でそう返した。叶野遂や寿常套もその話題に興味が有ったのか、耳を傾けている。

 桃園喪々が言っている奴というのは、彼女自身が名札として保有している人物の内の一人、泉ヶ仙珱嗄の事である。

 無論、生煮、かけがえ、もぐらの三名の名付け親であるだけの関係で、幼少期に少しだけ付き合いのあった人物なだけだが、やはりというか幼少期の早い時期に物心が付いていたメンバーであるが故に、珱嗄との思い出は記憶にちゃんと残っている。

 故に、この三人の中で珱嗄への印象はかなり好意的であった。

 

「決まっておろう、貴様らと泉ヶ仙珱嗄との間には何らかの縁があることくらいお見通しよ」

「成程、それはそれは……ですが、答える義理はありませんね」

「本人にでも聞けば?」

 

 桃園の問いに、二人は冷たくそう返す。桃園はその返答に対して別段苛立ちを覚える事も無く、興味が失せた様に視線を二人から切った。

 それに対し、叶野遂が苦笑しながらもぼそりと呟いて、立ち上がった。

 

「なんや随分と険悪やなぁ……」

「どうした叶野の」

 

 桃園喪々が立ち上がった叶野遂に対してそう問いかける。すると、今度は冷たくあしらわれる事も無く、叶野はにこりと笑って答えた。

 

「ちょっと近くまで飛行機を墜としに」

 

 叶野遂はそのまま南極に設置された黒神基地の一部屋から出て行った。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 叶野遂が出て行ってから十数分、桃園達の中で会話は無かった。婚約者候補として幾らか共通点が有ったりする物の、彼女達は別々の分家からやってきたのだ。顔を合わせてそんなに親睦が有るわけでもなく、相手について何も知らない、いわば赤の他人といっても過言ではない。

 そんな彼女達が会話するのはやはり、疑問に思う事を聞いたり、何か用が有った時位の物だ。学校で言うなら、業務的な会話しかしない関係と言って良い。

 

「………」

「………」

「………」

「………」

 

 桃園喪々、寿常套、杠かけがえ、潜木もぐらの四人はそんな沈黙の空間の中、特有の気まずさを感じる事も無く個々で自由に時間を潰していた。

 だが、そんな中この空間にある種の変化が訪れる。

 

「『あーあ、また勝てなかった』」

「む?」

 

 桃園喪々の名札封印から球磨川禊が出て来たのだ。ガシガシと頭を掻いて、ため息をつきながらそう言う球磨川禊は目の前に居る四人の婚約者候補を見てへらへら笑う。

 

「『あれ?』『何この空間。』『ぼっちが集まった様な沈黙感とか』『笑える~』『あはは!』」

 

 登場早々に毒を吐く球磨川禊。だがそこはやはりというか、動じない四人。

 

「この際、封印を破って出て来た事は驚きに値しないとして……貴様、何しに出て来たのだ?」

「興味無いですけどね」

 

 桃園の問いに杠が作った様な笑顔でそう言った。

 そして球磨川禊はいつもどおりへらへらと気味の悪い笑みを浮かべながら両手を広げる。

 

「『いやいや』『ちょっとゲームに負けちゃったからさ』『面倒だけど人助けにね』」

「ふむ……まぁ良い。どうせまた封印しても出てくるのであろうし、さっさと行くがよい」

「『へぇ、まぁ素直に行かせてくれるのなら有りがたいけど!』『それじゃ、また明日とか!』」

 

 球磨川禊は、にこっと笑って部屋を出て行った。

 そして再度訪れる静寂。この数分後、月氷会の武器子が場所の移動で飛び込んでくるのだが、それまで四人の間に会話は無かった。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 カードの中

 

 

 泉ヶ仙珱嗄達封印組は、球磨川禊をカードの外へ追いやった後雑談に盛りあがっていた。カードの中は幸い常温で寒いとか暑いとか思う様な空間では無く、むしろ快適な空間だった。

 また、そこへさらになじみと珱嗄の改造スキルが展開されたので、快適というより贅沢な空間となっている。それによって、不知火半袖は願えば用意される料理に喰らいつき、不知火半纏は用意されたドリンクバーに何度も飲み物を注ぎに行き、鶴喰鴎は外の様子がみたいのかそわそわしつつ寝転がってテレビを見ていた。

 珱嗄はそんな三人を眺めつつソファに座って寛いでおり、なじみは珱嗄の肩に頭を乗せて寄り添うように眠っていた。

 

「やる事無くなったなぁ」

「仕方ないと私は思うよ。外には球磨川君を送ったし、私達が外へ出ても特に意味は無いと思うし」

 

 珱嗄の呟きに反応したのは鶴喰鴎。テレビから視線を珱嗄へと移してそう言った。今の所、会話が出来そうなのは鶴喰鴎位なので、珱嗄はそんな鶴喰に会話を続けた。

 

「じゃ外の様子でも見る? 正直、めだかちゃんはどうでもいいし善吉君達の状況でもさ」

「出来るの?」

「出来るさ」

 

 珱嗄は指をふいっと振って中型テレビ大のモニターを出した。珱嗄式スキルの一つ、別場所の状況を見るスキル【進光景(プレイバック)】。

 どうやらスキルとは別の力、スタイルの封印下でもスキルは使えるようだ。

 

「それじゃ、善吉君達で暇を潰そうか」

「それじゃあ隣に失礼するよ」

 

 鶴喰鴎はそう言う珱嗄の隣で寝ているなじみと反対側に座り、モニターを眺めるのだった。

 


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